アルツハイマー型認知症の診断を受けている母ですが、認知症が進行して時間の感覚がなくなってきています。時間を理解してもらうには、どうしたらいいでしょうか。また、今後どんなことが起こりますか?

見当識障害にはどう対応する?

質問

質問者

3年前にアルツハイマー型認知症と診断された母についてです。認知症が進行したようで、最近では時間が分からなくなってきています。

夜中に父を起こして朝食を食べようとしたり、予約の時間よりもだいぶ早くに病院に行き、ずっと待っていたりします。私は別居しており、母は父とふたり暮らしです。父は定年退職していますが、まだパートで仕事をしており、母の対応で疲れてしまっているようで心配しています。

時間が分からなくなった母にどのように対応すればいいでしょうか? また、今後どのような症状が出てきますか? 教えてください。

 

専門家

時間が分からなくなってしまうのは、見当識障害という認知症の症状の一つです。時間の感覚が失われるのは、アルツハイマー型認知症では初期のうちから出てくる症状です。さらに進行すると日付や季節、場所の感覚が失われていきます。かなり進行すると、目の前にいる人物が分からなくなることがあります。

この記事では、見当識障害とは何かに加えて、見当識障害がみられる方への対応方法について解説しています。ぜひ、現在や今後の参考にしてください。

見当識障害について知ろう

見当識障害について知ろう

まずは、見当識障害とは何かについてみていきましょう。

見当識障害とは

見当識障害とは、認知症が引き起こす中核症状のひとつです。失見当識とも呼ばれています。見当識とは、時間や場所、人間関係を把握する機能のことで、これが低下すると自分がいる場所が分からなくなったり、昼と夜の区別がつかなくなったり、目の前にいる人が誰なのか分からなくなったりします。

認知症には、脳の細胞が壊れて働きが低下することで起こる中核症状と、環境やその人の性格などによって現れたり現れなかったりする行動・心理症状(BPSD)がありますが、見当識障害は中核症状に当たります。アルツハイマー型認知症では、記憶障害と同様に認知症の初期から起こる症状です。中核症状には他に、記憶障害、理解・判断力の低下、実行機能障害、失語・失行・失認などがあります。

見当識障害の症状

見当識障害には、次の3種類があります。

時間の見当識障害

時間の見当識障害とは、年月日や時間、季節が分からなくなった状態です。今が「朝か夜か」、「何年何月何日か」、「夏か冬か」などが分からなくなります。時刻→日付→月→年の順に障害が起こります。

約束の時間や通院の日時を守らなくなったり、ゴミの日が分からなくなったり、早朝と夕方を間違えて昼夜が逆転したりすることがあります。

場所の見当識障害

場所の見当識障害とは、自分がどこにいるのかが分からなくなった状態です。遠くの場所→家の周辺→家の中の順に障害が起こります。

帰り道が分からなくなって迷ってしまったり、トイレの場所が分からなくて失禁してしまったりすることがあります。

人物の見当識障害

人物の見当識障害とは、相手と自分がどんな関係なのかが分からなくなった状態です。あまり会わない人→親しい人→家族や同居者の順に障害が起こります。

目の前の人が友人か家族か、知らない人なのかが分からなくなり、長年一緒に暮らしてきた家族に対しても「あなたは誰ですか?」と聞くことがあります。

見当識障害の進行

見当識障害は、時間、場所、人物の順番で起こります。アルツハイマー型認知症では、記憶障害と同様に初期のうちから症状が現れ、ゆっくりと進行していきます。

レビー小体型認知症では、記憶障害よりも見当識障害のほうが目立つことがあります。また、ピック病などの前頭側頭型認知症では、見当識は保たれることが多いです。

見当識障害への対応方法

見当識障害に対応していく

続いて、見当識障害の方への対応方法をみていきましょう。

時間の見当識障害への対応方法

●生活のリズムを整える

生活リズムを定着させるために、朝に起床する習慣をつけ、カーテンを開けて朝日を浴びてもらうことが大切です。

昼に眠って夜に活動する昼夜逆転が起こらないように、日中はデイサービスなどを利用したり、外を散歩して季節を感じてもらったりすると良いでしょう。受診日に必ず病院に行けるようにヘルパーに同行をお願いしたり、デイサービスの送り出しをお願いしたりなど、介護保険サービスを活用するのがおすすめです。詳しくは地域包括支援センターやケアマネジャーにご相談ください。

●カレンダーに印をつける

部屋の目につくところにカレンダーを貼っておき、今日の日付に印をつけていくようにしましょう。その時に、今日の日付や曜日を声に出してもらうとより良いです。

起床→カーテンを開ける→カレンダーに印をつける…といったように、行動の流れを作っておくといいでしょう。規則正しく生活することも大切です。

また、一番目にする場所にある時計を、時間と一緒に日付が表示されるデジタル時計にするのも良いでしょう。

●会話の中に季節や時間を盛り込む

季節を認識できなくなると脱水症や熱中症、風邪などのリスクが高くなります。同居をしていたり、こまめに電話をしていたりする場合には、「春だけど、朝は冷えるね」「お昼ごはんの時間だよ」「夜だからカーテンを閉めよう」など、会話に季節や時間を盛り込んでみましょう。

●熱中症、脱水症状、風邪などに気を付ける

季節が分からなくなり、夏にセーターなどを重ね着して脱水症状を起こしたり、冬に薄着をして風邪をひいたりすることがあります。また、夏に暖房をつけて熱中症になってしまうこともあります。周りの介護する人が季節に合った服装をしているか、室温の管理ができているかをチェックするようにしましょう。

季節に合わない洋服はしまっておいたりなどの工夫が必要です。 自費サービスとはなりますが、遠距離介護のため帰省ができない方は、ヘルパーに衣替えをお願いすることも可能です。詳しくはケアマネジャーに相談してください。

場所の見当識障害への対応方法

●外出時には誰かが同行するようにする

外出したら迷子になってしまうからといって、家に閉じこめてしまうと、活動量が減って認知症が進行してしまったり、歩く機能が低下してしまったりする可能性があるのでNGです。

また、夜に寝てもらうためにも、日中に身体を動かしておくことは大切です。 ひとりでは外出しないように、予定にある外出や定期的な買い物は、家族やヘルパーなど、できるだけ誰かが付き添うようにしましょう。

ひとりで外出してしまった時のために、連絡先を書いたメモやGPSを身に着けておいてもらうと安心です。

●トイレの場所を分かりやすく

見当識障害の影響で家のトイレの場所が分からなくなっている場合には、トイレの扉に張り紙をしたり、トイレまでの道順を矢印で示したりして、トイレの行き方が分かるようにしましょう。部屋からトイレが遠い場合には、近い部屋に移動することも検討してください。

ひとりで行けるようになるまでは、時間を見て声をかけ、一緒にトイレに行くようにしましょう。

人物の見当識障害への対応方法

●自分から名乗る

目の前の人が誰か分からなくなっている方には、「娘の〇〇だよ」と自分から名乗るようにしましょう。他の人の名前で呼ばれた時にも同様です。もし名前を間違われたら、「〇〇だよ」とやんわりと訂正しましょう。

「私が誰だか分かる?」という問いかけは、ストレスになる可能性があるので避けましょう。

怒らずに対応しましょう

認知症の方は自分の見当識障害を自覚していないため、なぜ怒られているのかが理解できません。自尊心を傷つけたり、混乱してしまったりすることがあるので、間違いを責めたり怒ったりしないようにしましょう。

しかし、介護をしている家族も人間です。忙しい時や失禁された時、知らない人だと言われた時には怒りや悲しみが押し寄せてくることもあるでしょう。そんな時には、その場を離れて冷静になる時間をつくるのも大切です。

まとめ

見当識障害は、アルツハイマー型認知症では記憶障害と同様に初期のうちから現れる症状です。時間→場所→人の順番で、障害が起こります。

ただし、周囲が症状に適した対応をすることで、見当識障害があっても自立した生活を続けることも可能です。この記事の内容に加えて、ケアマネジャーなどの介護の専門家の手も借りながら、本人や家族が望む暮らしを続けていけるようにしましょう。

※この記事は2021年12月の情報で作成しています。

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医師:谷山由華
監修者:谷山 由華(たにやま ゆか)

医師:谷山 由華(たにやま ゆか)

【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤

内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている