認知症の症状の中でも、奇声への対処法に悩んでいる方は多いのではないでしょうか。今回の記事では、認知症の方が奇声を発してしまう理由や、症状が頻繁に見られる場合の対処法・治療法について詳しく解説します。
- 認知症の方が奇声を発する原因は?
- 認知症の方が奇声を発している場合の対処法は?
- 奇声の治療法は?
- 奇声の症状がある認知症の方は介護施設に入居できるのか?
- どの老人ホーム・介護施設にしたら良いかお悩みの方へ
認知症の方が奇声を発する原因は?
周囲の人が問題と感じている行動にも、多くの場合「本人なりの理由」があるはずです。まずは、状況にそぐわない大声や奇声を上げてしまう原因についてご紹介します。
嫌な思いをしているため
認知症の症状のひとつに、適切な言葉を見つけて説明する・頭の中で文章を構成するなどが困難になる「失語症」が挙げられます。また、自分の状況をうまく把握することも困難になりがちです。
たとえ「部屋が寒すぎる」「暑い」と室内環境を不快に感じていたり、体調が悪かったり、尿意・便意などを覚えていたりして周囲の人間に伝えようとしていても、「発語がうまくできない」「内容の辻褄が合わない」「声量のコントロールが難しい」などの理由から奇声と捉えられてしまう場合があります。
自分の意思を伝えられないことにストレスを感じているため
上記のようにうまくコミュニケーションが取れないと、自分の感じている問題や不快感を解決できないだけでなく、「伝わらない」「理解されない」こと自体にストレスを感じてしまいかねません。
さらに、認知症で前頭葉に支障をきたしている場合、感情の制御・社会性を意識した言動が難しくなる場合もあります。その結果、感じたストレスにうまく対処できず、乱暴な言葉や大声・叫び声として表出してしまうと考えられます。
恐怖や不安を感じているため
ここまで解説したように、認知症の方は症状により感じていることをうまく伝えられないことがあります。その「伝えたい内容」には、最初に挙げた嫌な思い・不快感のほかにどのようなものがあるのでしょうか。
不快感と少し似ていますが、恐怖や不安も奇声の原因になり得ます。とくに認知症になると記憶障害だけでなく見当識障害が現れ、日時や場所など自分がいま置かれている状況の把握が難しくなる方も少なくありません。
いまどのような状況で、近くにいる人は誰なのかが曖昧な状態では、多くの人が恐怖や不安を感じるはずです。このように感情が不安定になった場合や、助けを求めようと考えた場合に症状として奇声が現れると考えられます。
幻視や妄想の症状があるため
認知症では、実際には存在しない人や物が見えてしまう「幻視」や、起きていないことや頭の中で考えたことが実際起こったように感じてしまう「妄想」が症状として現れることがあります。
その結果、家族しかいない安全な家の中でも「誰かが部屋の隅に立っている」と言ったり、自分の身の安全が確保されていないと感じたりといった恐怖・不安から大声や叫び声などの奇声を上げてしまう方もいます。
このような症状は、認知症の中でもとくに「レビー小体型」というタイプで現れやすい傾向にあります。
認知症の方が奇声を発している場合の対処法は?
家族や介護者にとってストレスになりやすい奇声は、本人の不安やストレスが原因となっている症状のため、早めの対処が必要です。ここからは、奇声が見られた場合の対処法を解説します。
落ち着いて本人の話を聞く
奇声を発しているときは、認知症の方自身が混乱し、恐怖や不安を感じています。大声を上げていることに対して強い口調で注意するなど厳しく当たると、混乱や恐怖心が増して逆に症状が悪化してしまうかもしれません。
まずは、本人を責めずに落ち着いた態度と口調で話を聞く姿勢を保つことが重要です。話しているうちに、徐々に実際の環境に目が向いて本人が落ち着きを取り戻せる可能性があります。
本人の話を否定しない
見当識障害・幻視・妄想がある場合、介護者から見れば話の辻褄が合わないこともあるでしょう。しかし、本人にとってそれは実際に起きたように感じていることです。
にもかかわらず、認知症の方が訴えてくれた不安を否定すると、安心させるためとはいえ高齢者の自尊心は傷つき、また自分は事実のように認識していることを否定されて混乱してしまう場合があります。
まずは、否定せずに「どのように感じているか」「いま不安なことは何か」などをゆっくりと聞きながら、高齢者が声を上げて訴えようとした内容をしっかりと把握することをおすすめします。
不安や恐怖を和らげる
不安や恐怖の原因について本人から教えてもらうことも重要ですが、ストレスの原因が環境や体調不良ではなかった場合は、ストレスに目を向けすぎないように気を紛らわせることが有効な場合もあります。
たとえば、好きな音楽や写真などを準備しておき、不安が強まったときにそれらを利用することで自然と「好きなものの話題」に気持ちを切り替えやすくなるはずです。
体調を確認する
精神的な不安ではなく体調不良を伝えようとして声を出している場合もあるため、奇声や大声・何かを訴えようとする発語が続いている場合は本人に体調をしっかりと確認する必要があります。
認知症の方は、感じている体調不良をうまく言語化することが難しいこともあるため「苦しい?痛い?」と短い質問で少しずつ状況を把握したり、言葉だけでなく「どこ?」と訊ねて指を差してもらったりなどの工夫が必要です。
声出しの状況やパターンを把握する
一緒に生活する中で「同じような時間帯や状況で声を上げることが多い」など、パターンや原因となっている状況を把握していくことも大切です。これを繰り返すことで、高齢者からの訴えを理解しやすくなるかもしれません。
たとえば「トイレに行きたい」「長時間座って痛みを感じている」など本人が日常の中で感じやすい不快感がある、夕方になると不安が高まって声を出すことが多いなど、人によってある程度の傾向が見られるはずです。
奇声の治療法は?
認知症には、脳が障害されたことにより直接起こる「中核症状」と、中核症状の影響に本人の精神状態や環境などの要因が組み合わさることで二次的に起こる「周辺症状(BPSD)」があります。
記憶障害・認知機能の低下・失行・失認などは中核症状、奇声や徘徊・抑うつ症状などは周辺症状(BPSD)に分類されます。この周辺症状(BPSD)の重さは、治療や環境調整により変化します。
周辺症状(BPSD)にはさまざまな治療法があり、大きく分けると薬物療法と非薬物療法に分類できます。それぞれの治療法について解説します。
薬物療法
本人の状態に合わせた薬により、興奮や意欲低下など過ごしにくさの原因となる症状を抑える治療法です。精神状態が安定することで、本人が生活しやすくなるだけでなく介護もしやすくなるといった効果が期待できます。
薬物療法では抗精神病薬が処方されることがあり、定型と非定型いずれかの抗精神病薬を使います。定型は鎮静作用が高い反面、副作用も出やすく注意が必要です。一方の非定型は作用も副作用も穏やかな傾向にあります。
非薬物療法
処方薬によって症状を抑える治療に対し、薬を使用せずにリハビリ・介護スタッフなどによる活動を通して認知症の症状改善を図る治療法が「非薬物療法」です。症状の傾向や薬の効果などを見ながら、必要に応じて薬物療法と非薬物療法を併用するケースもあるでしょう。
非薬物療法の具体例をご紹介します。
作業療法
作業療法は、物を作ったり家事をしたり、音楽を楽しんだりなど日常生活の中で行う作業をリハビリに活用するものです。作業の中で五感を刺激するとともに、実生活に近い作業に取り組むことで心身の活性化や症状緩和を図ります。
回想法
認知症では、最近の記憶よりも昔の記憶が保たれやすい傾向にあります。この特性を利用して、昔の記憶を刺激することで脳の活性化を図るのが「回想法」です。
回想法では、アルバムや昔の遊具・家事道具などを使いながら、同年代の人たちと思い出や会話を共有します。これにより、脳が活性化されるとともにコミュニケーションも促進され、認知症の症状緩和が期待されます。
音楽療法
好んで聞いていた曲や若い頃に流行した音楽を鑑賞したり、実際にスタッフと一緒に歌ったりするなどの活動を行う治療です。懐かしい曲により気持ちが穏やかになり、心身をリラックスさせる効果があるとされています。
リアリティ・オリエンテーション
認知症の周辺症状の中でも「見当識障害」に焦点を当てたリハビリです。スタッフが会話の中で日時や季節・状況を理解するヒントを提供することで、本人にこれらの情報を理解してもらう手法を取ります。
見当識障害が改善すると、状況が分からないことによる不安が軽減されます。これにより、不安から大声や奇声を上げてしまう症状も間接的に改善されると考えられます。
運動療法
運動療法は、ストレッチやラジオ体操などを通して身体を動かすことに重点を置いたものです。日中に適度な運動を行うことで興奮や怒りっぽさ・睡眠障害など認知症の周辺症状を緩和できる可能性があります。
奇声の症状がある認知症の方は介護施設に入居できるのか?
認知症により大声や奇声を上げてしまう高齢者に対しては、周囲が落ち着いて本人の不安を和らげる対応をすることや、症状を緩和する治療・リハビリを活用することが大切です。
しかし、こうした症状のある高齢者の介護は家族にとって大きな負担になることも多いはずです。そのため、良好な家族関係を保ちながら高齢者に安定した介護を受けてもらうためにも施設への入居を検討するとよいでしょう。
ただし、奇声が頻繁に見られる場合は施設側から入居を拒否されることも予測されます。このような場合は、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談しながら、本人の症状に合った施設を探していきましょう。
どの老人ホーム・介護施設にしたら良いかお悩みの方へ
満足のいく老人ホームの生活は、どの施設に入居するかで大きく異なることがあります。
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施設のご紹介から、見学、ご入居まで無料でサポートさせていただいておりますので、ぜひご利用ください。

監修者:周田佳介
正看護師、介護福祉士、介護支援専門員、認知症ケア専門士、介護職員等によるたん吸引等の研修指導看護師の資格を取得している。
介護医療現場で13年従事し、今なお現役の訪問看護師として勤務している。急性期病棟や慢性期病棟といった医療機関のほか、特別養護老人ホーム、グループホーム、訪問介護事業所などの介護事業所での勤務経験があり、医療・介護の両面から福祉に携わる。