30代です。アルツハイマー型認知症の祖母と同居していますが、最近私にも祖母のような症状が出てきました。
ここ最近では、「買い物リスト」と書こうとしたけれど、「買」という感じが出てこなかったり、ほとんど毎日利用している6桁の暗証番号が出てこなかったり、商店街のお店から出るとどちらから来たかよく見て考えないとわからなかったり…。
もともと頭が切れるタイプではありませんが、最近はとくに頭の中がすっきりとせず、不安です。若年性健忘症や若年性認知症でしょうか?
30代で年齢では説明できない記憶障害が出てきたのですね。心配されている若年性認知症の推定発症年齢は、平均で51.3歳です。映画などでは30代以下の若年性認知症患者が描かれることがありますが、実際に30代以下で発症するのは非常にまれです。一方で、若年性健忘症は20代や30代に多いとされています。
この記事では、若年性健忘症を中心に、若い方のもの忘れの原因として考えられること、受診をした方がいいかについてまとめています。現在や今後の生活の参考にしてください。
若年性健忘症について知ろう
まずは、若年性健忘症の基礎知識についてみていきましょう。
若年性健忘症とは
健忘症とは、認知症や意識障害が原因ではない「もの忘れ」のことです。20代から30代にみられるもの忘れ(記憶障害)を、若年性健忘症と言います。
健忘症には、さっき言われたことを忘れてしまうといったものから、ある期間のことを全く思い出せない記憶喪失まで幅広く含まれます。
若年性健忘症の原因
強いストレスや頭部外傷が、若年性健忘症を引き起こす原因となる場合があります。
また、近年スマホやパソコンを使用することが増え、頭で思い出さなくても漢字は勝手に変換されますし、計算もやってくれます。また、指示を受けて受動的に仕事をしていたり、家でずっと過ごしていたりなど、脳で考える機会や刺激が減ったことが、若年性健忘症の原因と考えられています。手書きで文字を書く、暗算をする、外に出て散歩をするなど、脳に刺激を与える生活を心がけることで、改善を目指しましょう。
知っておきたい、若い世代のもの忘れの原因
続いて、若い世代にもの忘れが起こるその他の原因を確認していきましょう。
軽度認知障害
軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)とは、記憶などの認知機能に問題はあるものの、日常生活には支障をきたしていない状態のことです。正常と認知症の間の状態で、放っておくと認知症に進行していく可能性があります。
軽度認知障害の定義は、以下の通りです。
- 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する
- 本人または家族による物忘れの訴えがある
- 全般的な認知機能は正常範囲である
- 日常生活動作は自立している
- 認知症ではない
同世代と比べてもの忘れの程度が強く、以下のような症状がある場合は、軽度認知障害のサインかもしれません。
- 会話で「あれ」、「それ」などの代名詞が増える、同じ話を何度もする
- 最近の出来事や経験したことを思い出せない
- スケジュール管理ができなくなった
- 仕事や料理の段取りが悪くなった
- 好きだった趣味などに無関心になった、無気力になった
65歳以上を対象とした調査によると、軽度認知障害の有病率は17%です。また、30代以下で発症することは非常にまれです。
脳にかかわる病気
脳腫瘍、慢性硬膜下血種、脳炎などの感染症といった、脳にかかわる病気が原因で、もの忘れが起きていることがあります。
うつ病
うつにより、もの忘れが起こることがあります。体験を丸ごと忘れてしまう認知症のもの忘れとは異なり、仕事の打ち合わせの内容が頭に入らない、さっき会った人の顔が思い出せないなど、新たな事柄を覚える能力が低下します。
栄養障害
食事の栄養バランスが偏っていたり、食事自体がとれていなかったりすることで、脳に必要な栄養が不足してもの忘れが起こることがあります。 脳のエネルギー源である炭水化物を中心に、ビタミンE、ビタミンB6、ビタミンB12、DHAなどの栄養素を意識して、バランスの良い食生活を心がけましょう。
受診について
気になる症状が出てきたら、こんなことで病院に行っていいのかな?と思うかもしれませんが、気付いた症状に大きな疾患が隠れている可能性もあります。安心するためにも受診してみると良いでしょう。
診療科について
もの忘れが気になる場合に受診する科は、精神科、脳神経外科、脳神経内科、もの忘れ外来などです。迷ったらかかりつけ医に相談してみてもいいでしょう。 CT検査やMRI検査などの画像診断、問診や外傷の有無、記憶力の検査などにより、診断されます。
こんな場合は受診を
本人にもの忘れの自覚がない、日常生活に支障が出ている、普段できていたこと(洋服を着る、段取りよく調理をする、お金の管理をするなど)ができなくなった、という場合は病気の可能性があるので、受診することをおすすめします。
まとめ
20代から30代に多い若年性健忘症を引き起こす原因には、頭部外傷やストレスの他に、スマートフォンやパソコンの普及により脳を使わなくなってしまったこと、仕事や外出などで脳に刺激が与えられていないことなどがあげられます。心当たりのある方は、脳を使い、刺激を与える生活を心がけてはいかがでしょうか。
いわゆる「ど忘れ」のようなものは誰にでも起こるものです。しかし、重大な病気によって引き起こされていることがあります。また、不安になりすぎて落ち込むと、余計に症状が悪化してしまうこともあります。もの忘れが増えてきたと感じる場合は、心配事を減らすためにも、病院で診察を受けてみてはいかがでしょうか。
この記事が、もの忘れで不安を感じている方の、お役に立てれば幸いです。
※この記事は2021年12月の情報で作成されています。
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医師:谷山 由華(たにやま ゆか)
【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤
内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている