最近サルコペニアということばを聞くようになりましたが、うちの親に当てはまっているのではないかと心配です。どのような症状で何に気を付ければ良いのでしょうか。介護防止策を知りたいので教えてください。

質問

質問者高齢の親の食が細くなってきたように思います。サルコペニアという症状に当てはまるのではないかと気になっています。放置すると介護状態になると聞き不安です。サルコペニアとは正しくはどのようなものですか。家族として何ができるのでしょうか。今から改善する方法があれば、ぜひ知りたいと思っています。特に簡単に実行できるものがあれば教えてください。

 

 

専門家

サルコペニアとは加齢などにより筋肉量が減少し、筋力が低下する状態のことです。運動能力の低下や転倒のリスクが高くなるため、放置すると要介護状態や寝たきりになる恐れもあります。 

原因の一つとして加齢に加えて、食事量が減少することで摂取エネルギーやタンパク質の量が不足することもあげられます。高齢者の食生活や日常の運動の状況などは、周囲の家族が注意してあげることが大切です。

ここでは、サルコペニアについての基礎知識や生活状況を見直しサルコペニアを改善する方法について解説します。  

このままでは動けなくなる?サルコペニアとは

このままでは動けなくなる?サルコペニアとは

介護や高齢者ケアの中で最近注目されているのが、サルコペニアです。まだ一般的には聞きなれないことばですが、将来寝たきりにしない・ならないためには知っておきたいキーワード。サルコペニアの基礎情報をご紹介していきましょう。

サルコペニアの基礎知識

サルコペニアとは老化や病気により筋肉量が減少し、筋力の低下が起こることを指したことばです。語源となっているのはギリシャ語の「筋肉と損失・減少」を意味することばの組み合わせで、1989年に米国タフス大学の研究者によって提唱されました。

全身の筋肉の量が減少すると、しっかりと立っていることができず、ふらつきが起こります。体幹や足腰といった、身体を支えるための力が低下するためです。また歩くときに杖が必要となったり手すりにつかまらないと身体が安定しなかったりするなど、行動にともなう身体機能の低下が起こります。

筋肉量はほかの臓器より老化する

これまでの研究から、筋肉はほかの臓器よりも加齢による影響が大きいことがわかっています。

日本人の筋肉量はピークの20代と比較すると、60歳では上半身で約10~20%、下半身では20~40%程度の低下が見られます。特に筋肉量の多い男性では60歳頃を境に急激に筋肉量が減少し、70代ではさらに低下していきます。

筋肉の衰えは非常に速く、また復活するのには時間がかかります。

例えば50歳では何の運動もせずに1週間休んだ場合、元の筋肉量に戻るのには約3週間程度の運動が必要になると言われています。これが70歳になると、たった1日動かないでいると落ちた筋肉が回復するのに1週間は必要になると言われています。

このように筋肉は動かさないでいるだけでもどんどん減少していき、回復させるためには、時間をかけて運動しなければなりません。

しかも筋肉は、身体の姿勢保持や歩行、運動、基礎的なカロリー消費など、生きる上での活動すべてに関連しているのです。

サルコペニアの診断基準

サルコペニアであるかどうかという診断基準は、世界のサルコペニア研究をリードする「欧州ワーキンググループ」(EWGSOP)によって定義づけされています。

サルコペニアは65歳以上の高齢者を対象とし、以下の3点を基準として判断されます。

  • 低筋肉量を裏付ける証拠
  • 低筋力
  • 低身体機能

一般的には、筋肉量の測定する機械によってデータを取ることで、低筋肉量かどうかの評価がなされます。そのほかにも歩行速度や握力の計測により、総合的な観点から診断が下されます。

なぜサルコペニアが重視されるの?

なぜサルコペニアが重視されるの?

なぜ今、介護を含めた広い分野からサルコペニアが注目されているのでしょうか。

要介護に至る原因

日本国内で高齢者が要介護状態となる原因として、前期高齢者では「脳卒中」が多く見られます。一方80歳以上になると、「認知症」や「転倒・骨折」、「老衰」が多くなります。この中で「転倒・骨折」の原因として、サルコペニアが大きく関係してきます。

サルコペニアによって身体の筋肉が衰えることで、少しの段差や体勢の不均衡でバランスを崩し転倒しやすくなります。

起床時に使い慣れたベッドから落下して大腿骨を骨折したり、何もないところで尻もちをついた拍子に背骨を圧迫骨折したりするのも、サルコペニアが影響していると考えられるでしょう。

高齢者は一度骨折や脱臼をすると、若い人のようには回復できません。長時間安静を余技なくされると、ますます筋力は衰え、ついには寝たきりになる可能性が高まります。

サルコペニアが引き起こす「廃用症候群」

サルコペニアによって筋肉量が低下すると、身体全体を重く感じ、さらに動きたくなくなります。動かずにいれば、筋肉は衰えていくばかりです。

「廃用症候群」とは「生活不活発病」とも呼ばれる症状です。気づかないうちに運動能力が衰え、身体が思い通りに動かせなくなると、ときにはうつ病などの引き金となります。

また運動量が低下すると、内臓の動きにも影響が出てきたり抵抗力が下がったりして、思いもよらない病気を誘発する恐れもあります。

「廃用症候群」により嚥下機能が低下すると、「誤嚥性肺炎」を起こす可能性も高くなり、命の危険に直結します。

サルコペニアは「寝たきり」の元凶

筋肉量が落ち、身体機能が低下するサルコペニアは、「寝たきり」の元凶とも言えます。先にもサルコペニアが転倒や骨折の要因となることを紹介しましたが、不活発な生活から「廃用症候群」へとつながる例もあります。

身体が思うように動かないことにストレスを感じ、社会とのつながりを避けたりうつ病を発症したりすることもあります。高齢者の心の病は回復に時間がかかるため、そのまま寝たきりになるリスクがあります。

加齢だけじゃないサルコペニアの分類

加齢だけじゃないサルコペニアの分類

サルコペニアの多くは加齢にともなうものですが、ほかに原因がある場合もあります。

2つのサルコペニア

サルコペニアには主に2つの種類があります。

加齢によって発症するものを「一次性サルコペニア」、それ以外の原因がある場合は「二次性サルコペニア」と呼びます。

「一次性サルコペニア」は、生活習慣や病気などを調査してもほかに原因が見当たらないものです。

一方、「二次性サルコペニア」には加齢だけではなく、活動状況や疾患、栄養状態が原因としてあげられます。

加齢以外の原因って?

病気やケガの重症化により安静状態が長く続いた場合、歩行や運動ができないためサルコペニアとなるケースが多く見られます。

一方で特に身体に疾患がなくても、不活発な生活スタイルであったり本人が無気力状態になったりする場合があります。一日中寝間着のままで、顔も洗わず、入浴もしたがらないという高齢者の話を良く耳にします。ベッドからテレビを眺めて過ごすような生活をしているとサルコペニアを引き起こすリスクが高くなります。

こうした生活が続くと筋力が衰え、起き上がることも歩くことも思うようにならなくなってきます。

また低栄養やタンパク質の摂取不足から、サルコペニアの症状となる高齢者も少なくありません。加齢に従って胃腸の働きは弱くなるため、若い頃のように食べられなくなります。また飲んでいる薬の副作用などによって、食欲不振や吸収が悪くなるということもあります。

さらに現在の日本の高齢者の年代は、タンパク質不足に陥りがちな食生活になじんでいます。しかし筋肉を養うためには、その材料となるタンパク質が必要です。栄養の偏りや不足があると、サルコペニアの原因になります。

サルコペニアの防止と改善

サルコペニアの防止と改善

サルコペニアを予防し、改善して寝たきり状態を防いでいかなければなりません。具体的な対処方法を見ていきましょう。

サルコペニアの早期発見

サルコペニアが疑われる場合には、早期に確認をして適切な対処法を実施していくことが大切です。

もっとも確実なのは専門医に相談することですが、筋肉量を測る体組成計は一般でも購入可能です。家族全員の健康管理のために、一台準備しておくのも良いでしょう。

簡易的な方法としては、「指輪っかテスト」があります。ふくらはぎの一番太い部分を、両手の親指と人差し指で作った輪で測ります。指の輪よりもふくらはぎの周囲が小さく、すき間があればサルコペニアの可能性が高いと考えられます。

これはその人の体格と、手の大きさの関係から考えられた方式です。

この方式ではすき間ができる場合、サルコペニアの危険度が6.6倍多くなると考えられています。隙間ができるの方がふくらはぎの方が大きい人よりも、サルコペニアを発症するリスクが2年間で3.4倍高くなるという結果が報告されています。

筋力をつけるトレーニング法

サルコペニアの予防や改善には、筋力をつけていくことが重要です。80~90歳以上の高齢者でも筋力トレーニングの効果があり、何歳からでも筋肉が作られることが証明されています。

自宅でも簡単にできる運動としては片足立ちやスクワット、片足を前に大きく踏み出すフロントランジなどがあります。

ただ、いきなり始めると筋や神経を傷める可能性もあります。いずれも医師やリハビリテーションの専門家の指示を仰ぎながら、無理のない範囲で続けていきます。

またウォーキングや水泳、ラジオ体操といった呼吸がやや早くなる程度の有酸素運動でも、全身を動かすことで、筋肉の成長が促されます。

散歩をしながら大股で歩く、後ろ向きに歩くなど、バリエーションをつけたり、ペットボトルに水を入れて上下に振ったりするといったことでも、毎日続ければ効果があります。

サルコペニアを防ぐ食事内容

運動だけを取り組んでも、筋肉を合成する栄養が足りていなければ筋力アップにはつながりません。

食事は主食、主菜、副菜をバランス良く食べる基本を意識し、特に十分なタンパク質の摂取を心がけます。

ただ高齢者は過剰にタンパク質を取り過ぎると、腎臓に負担がかかる場合もあります。腎機能に何らかの不安がある場合には、医師のアドバイスを受けながら食事内容を考えていきましょう。

カルシウム、ビタミンDは骨を作る栄養素です。きのこやヨーグルト、その他の乳製品、大豆製品など、食べやすいものを活用して毎食少しずつ摂り入れるようにしていきます。

タンパク質の合成を促し、筋肉量を増やすための栄養素は運動後30分以内に摂取するのが効果的と言われています。牛乳や飲むヨーグルトなどタンパク・カルシウムの豊富なものを上手に選んで散歩や体操と組み合わせながら、サルコペニア対策を実施していきましょう。

家族を寝たきりにしないために

サルコペニアは身体の筋肉が衰え、しっかりとコントロールできなくなる状態です。サルコペニアを放置すると転倒や骨折の原因となったり生活が不活発になったりして、寝たきりの状態となる可能性を高くします。

サルコペニアは、加齢だけではなく生活習慣や栄養不足によっても発症します。衰えを感じたら、まずは筋肉量や身体機能についての検査を実施し、早めの対策を検討することが重要です。

高齢者を寝たきりにしないように、家族全員で見守り、サポートしていくことでサルコペニアの改善が可能となります。

 

 

監修者:寺岡純子(てらおか じゅんこ)

監修者:寺岡純子(てらおか じゅんこ)

主任介護支援専門員 看護師
合同会社 カサージュ代表
看護師として病院勤務8年、大手介護事業者で約19年勤務し管理職を経験。
2019年8月合同会社カサージュを立ち上げ、「介護特化型研修事業」「介護離職低減事業」など介護に携わる人への支援を行っている。企業理念は「介護に携わるすべての人の幸せな生活をサポートする」。