老健で受けられる医療行為とは?医療ケアを受けながら安心して過ごせる高齢者施設
- 2024年10月04日 公開

介護老人保健施設(老健)は、医療的ケアやリハビリが必要な要介護状態の方が入所することのできる施設です。
老健ではどれくらいのレベルの医療行為が受けられるのか、また、医療ケアが必要になっても利用し続けることができるのか、気になるポイントをご紹介します。
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老健で可能な医療行為とは?
特別養護老人ホーム(特養)と介護老人保健施設(老健)には、医師と看護師の配置が義務付けられており、医療行為が必要な場合は施設の医師や看護職員が対応します。
特に老健は、医療的なケアやリハビリが必要な要介護1〜要介護5の認定を受けた高齢者が利用できる施設です。
介護だけでなく医療的ケアを受けながら生活できるという特徴があります。
血液検査や尿検査、投薬や注射、軽度の傷の処置などの日常的な医療行為は、施設費用に含まれているため、医療費が別途かかることはありません。
また高価な薬剤を内服している場合には入所を断られるケースもありますので、注意が必要です。
そして、老健には理学療法士・作業療法士などのリハビリ専門職も配置されています。
医療ケアと並行して、リハビリが必要な場合でも対応が可能なのです。
介護保険施設で受け入れている医療行為とは
老健で行われる日常的な医療行為とは、体温測定、血圧測定はもちろんのこと、軟膏の塗布、湿布の貼付、軽い傷の処置、一包化された内服薬を飲む際の補助、点眼薬の補助、座薬の挿入、鼻腔への薬の噴射の補助などのことを言います。
インスリン注射や痰の吸引、経管栄養、褥瘡の処置、在宅酸素などに対応しているところも多くあります。
しかし、老健では病院と同じような設備を整えることは難しく、がんの最先端治療などの高度な医療行為の提供は難しいでしょう。
介護施設の職員配置基準
介護保険適用の施設は職種によって職員の配置が細かく定められています。
各施設の人員配置基準を表にまとめました。
施設種別 |
医師の配置 |
看護師の配置 |
介護職員の配置 |
---|---|---|---|
特別養護老人ホーム |
健康管理及び療養上の指導のために必要な数 |
3:1 |
3:1 |
介護老人保健施設 |
施設で常勤1人以上(100:1) |
3:1(うち看護職員を2/7程度を基準) |
3:1 |
介護医療院 |
類型(Ⅰ)施設で3人以上(48:1)< |
類型(Ⅰ) 6:1 |
6:1 |
介護療養型医療施設 |
3人以上(48:1) |
6:1 |
6:1 |
上記の表からわかるように、医療依存度の高い方のケアを行うことのできる施設は、医療職員が多く配置されています。
自宅での生活が難しい高齢者にとって介護施設でも医療的なケアが受けられることは施設を選ぶ際、大きな安心につながります。
老健の看護職員が行っている医療行為
医師の指示のもと、看護職員が行うことを認められている主な医療行為にはどのようなものがあるのでしょうか。
以下の通りです。
【おおむねの老健で対応可能な医療行為】
- インスリン注射
- 中心静脈栄養
- 経管栄養(胃ろうなど)
- 喀痰吸引
- 在宅酸素
- 褥瘡(床ずれ)の処置
【老健によって対応可能な医療行為】
- 人工肛門
- 常時の点滴
- 終末期ケア
- 末期ガンのケア
- 人工呼吸器の管理
- 膀胱留置カテーテル
- 感染症の既往がある
そして、設備はそれぞれの施設よって差があります。
入所前に、対応している医療行為をパンフレットや問い合わせるなどして確認しておくと良いでしょう。
老健の介護職員が認められている医療行為
以前は介護職員には、爪切りや耳かきといった日常的なケアでさえ認められておらず、扱うことができる医療的ケアの範囲が狭く、現場の実情には見合っていないものでした。
しかし、高齢者の中には疾患を持っている方も多く、よりスムーズにケアを行うために規制が緩和される方向性が示されています。
現在、一般の介護職員に認められている医療行為は以下の通りです。
- 体温測定
- 血圧測定(自動血圧測定器を使用)
- 軟膏の塗布(床ずれの治療を目的としたもの以外)
- 湿布の貼付
- 絆創膏を貼る程度の軽度の傷の処置
- 一包化された内服薬を飲む介助
- 目薬の点眼介助
- 座薬の挿入
- 鼻腔に薬を噴霧するときの介助
また、2012年4月からは「認定特定行為業務従事者」の認定を受けた介護職員であれば、喀痰吸引と経管栄養の2種類の医療行為を行えるようになりました。
この「認定特定行為業務従事者」になるためには、社会福祉士法及び介護福祉士法施行規則第4条に定める「喀痰吸引等研修」を修了することが条件となっています。
喀痰吸引等研修とは、痰の吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)と経管栄養(胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養)を行うことができる介護職員を育成するための研修です。
研修を修了することで、医師や看護師と連携をしながら喀痰吸引と経管栄養が実施できるようになります。
【第1号、第2号研修内容(基本研修 講義)】
講義内容 |
講義時間 |
---|---|
人間と社会 |
1.5 |
保健医療制度とチーム医療 |
2 |
安全な療養生活 |
4 |
清潔保持と感染予防 |
2.5 |
健康状態の把握 |
3 |
高齢者及び障害児・者の |
11 |
高齢者及び障害児・者の |
8 |
高齢者及び障害児・者の |
10 |
高齢者及び障害児・者の |
8 |
筆記試験 |
1 |
合計 |
50 |
【第1号、第2号研修内容(基本研修 演習)】
演習項目 |
実施回数 |
---|---|
喀痰吸引・口腔内 |
5回以上 |
喀痰吸引・鼻腔内 |
5回以上 |
喀痰吸引・気管カニューレ内 |
5回以上 |
経管栄養・胃ろう又は腸ろう |
5回以上 |
経管栄養・経鼻経管栄養 |
5回以上 |
救急蘇生法 |
1回以上 |
上記の表にあるような研修項目を全て修了した介護職員のみが喀痰吸引と経管栄養に限り行うことができるようになります。
研修を受け必要なスキルを習得した介護職員の存在は、高齢化社会の進行に伴い、深刻な問題となっていた、介護業務内での医療的なニーズへの高まりに対応した形です。
老健で医療行為が必要になっても生活を続けていくことは可能

人は年齢が高くなると病気にかかるリスクも高くなります。
体の状態が変わり、医療行為が必要になる可能性もあるでしょう。
そのような場合、特養や有料老人ホームなどの介護保険施設では、退所して医療機関に入院するというような流れが一般的です。
しかし、老健では、施設の中で医療行為を受けながら生活を続けることが可能です。
看護師が24時間勤務していることで、夜間の医療行為にも対応できます。
また、人工呼吸器の管理や痰の吸引などは昼夜問わずにケアが必要ですが、そのような場合でも対応が可能となっているのです。
喀痰吸引と経管栄養は「喀痰吸引等研修」を修了した介護職員であれば行うことが許されており、多くの介護職員が活躍しています。
特に経管栄養法については、看護師が勤務してる時間内に必要量を注入しなくてよくなりました。
そのため身体への負担が少なく、安全・安楽に食事(経管栄養)を行うことが可能となっています。
このように、看護職員と必要な研修を受けた介護職員によって継続して医療的ケアが提供されているため、医療行為が必要になっても生活を続けることができるのです。
老健では夜間の医療行為も対応可能
老健では夜間帯でも介護職員だけでなく、看護職員も勤務しています。
看護師がいない施設も24時間、医師や看護師と連絡が取れる体制を取っています。
したがって、夜間帯でも痰吸引や在宅酸素の管理などの医療ケアが途切れることはありません。
喀痰吸引や在宅酸素の管理、膀胱留置用カテーテルなどは、時間に関係なく医療的ケアが必要な場合があります。
老健では、昼夜を問わず必要なケアを受けることができるため安心です。
老健で行うことが難しい医療行為
老健で認められている医療行為は限られています。
命に関わる重篤な状態であれば、救急車で医療機関に運ばれるということもあります。
そして、手術やX線検査、MRIやCT検査などは設備が整っていないため提供は難しいでしょう。
また、人工透析やがん治療などの高度な医療が必要な場合も対応は難しいと言わざるをえません。
老健は医療機関ではないため、行うことができる医療行為は限られており、それぞれの老健で対応できる範囲にも違いがあります。
各施設に問い合わせて確認しておくと良いでしょう。
老健で医療行為ができるメリット・デメリット

老健は一部の認められた医療的ケアができる介護施設です。
常勤の医師、看護職員、リハビリ専門職の理学療法士や作業療法士が配置されています。
そのため、昼夜問わず、日常的な医療行為の提供ができるのです。
そして、老健では医療と介護それぞれの専門職が連携することで、包括的に入所者の健康管理を行っています。
しかし、医療行為が認められていることでデメリットも存在するため、デメリットの内容も把握した上で施設を検討しましょう。
主にどのようなメリット・デメリットがあるのか具体的にご紹介します。
提供できる医療行為のメリット
老健は、高齢者向けの施設の中でも、医師による医学的管理のもと行われる医療的ケアができる介護施設の中では特殊な存在です。
経管栄養や喀痰吸引、褥瘡(床ずれ)の処置などにも対応が可能となっています。
医療行為で入所期間が左右されない
通常、介護施設に入所中に体調を崩してしまった場合、介護施設の中では必要な治療ができないことがあり、医療機関での治療が必要になると退所を余儀なくされるケースがあります。
しかし、老健は体調を崩して何らかの対処が必要な場合でも、施設内での対応が可能な範囲であれば、それを理由に早期退所させられるというようなことがなく、生活を続けることができる施設です。
医師・看護師が配置されている
老健では、医師の指示を受けた看護職員や介護職員が連携し、日常生活の介護から医療的ケアまで一体的に行われています。
介護職員と看護職員は、24時間交代制での勤務となっており、夜間であっても看護職員が配置されていることもあります。
そのため、継続的に医療行為を受けることができるのです。
このように老健は、医師の指示のもと、看護師やリハビリスタッフなど医療の専門スタッフと介護職員の連携がとれています。
したがって、医療行為の有無を理由に生活の場を変えなくてはならないというようなリスクは低いでしょう。
提供できる医療行為のデメリット
介護保険と医療保険は同時に使うことができません。
老健に入所中は、他の医療機関にかかることはできないため、その点は注意が必要です。
そこで、老健で医療行為を受けるデメリットについてご紹介します。
介護保険と医療保険は同時に使えない
老健に入所すると、かかりつけ医から施設の医師に担当が変わります。
そして、老健に入所し介護保険を利用している間は、同時に医療保険を算定することができません。
したがって、介護保険の範囲内で医療的なサービスを利用することになります。
施設内での治療が難しい場合は、施設からの紹介により医療機関へ受診することになりますが、施設からの紹介がないと医療費が全額自己負担となる場合があります。
他の医療機関を受診した場合、投薬、検査などの基本的な診療行為に対しては医療保険が適用されないため、全額自費の扱いになってしまいます。
そのため、他の医療機関への受診は難しいといえます。
入所者の薬や検査にかかる費用なども医療保険が使えないため、介護報酬と入所者の方々の施設利用料から賄われることになっているのです。
このような制度上の理由から、高額な薬や注射を継続的に必要とする方は、入所が難しい場合があります。
高度な医療行為は対応が難しい
老健に入所中は、その施設にある設備の中で医療行為を受けるということになります。
医療保険が使用できないということは、診療報酬の請求ができないということです。
もしも、高度な医療行為を行なった場合でも、使用した薬剤や設備に関しての費用が医療保険から支払われることはないのです。
気管切開や中心静脈栄養、人工呼吸器などの管理はそれぞれ専用の設備が必要であるため、たとえ医師や看護師が手厚く配置されていたとしても、老健で高度な医療を受けることは現実的には困難といえます。
高度な医療行為が必要な場合は、一旦老健を退所して、設備の整った医療機関で治療を受けることになるでしょう。
老健以外で医療行為を提供している施設

介護保険施設の中には、老健以外にも医療行為を提供している施設があります。
医療行為を提供できる施設とできない施設の違いは、医師や看護師といった医療行為ができる資格を保持した職員が在籍しているかによって違ってきます。
特別養護老人ホーム
特別養護老人ホーム(特養)とは、常時介護を必要とし、在宅での生活が難しい高齢者に対して日常生活全般の介護を提供する施設という位置付けです。
食事、排泄、入浴などの介助、日常生活の世話、機能訓練、健康管理と療養上の世話を行う。
つまり、生活をする場ということです。
特養には設備として医務室の設置が必要となっており、医務室には医師が配置されています。
健康管理、定期健康診断及び予防接種、入所者の支援を行う、いわば施設内のかかりつけ医の役割を持った存在です。
配置医師は入所者に対しての定期的な診察に加えて、必要に応じて処方箋の発行、臨時の診察、ターミナルケアへの関わり、主治医意見書の作成、外部の医療機関との連携、急変時の対応などを行います。
しかし、非常勤のこともあるため、毎日の医療的ケアが必要な場合は医師が常勤か非常勤かを事前に確認すると良いでしょう。
そして、医療職である看護師の配置も義務付けられています。
しかし、夜間帯は看護職員が手薄になる施設もあるため、24時間体制での医療的ケアは万全とは言い切れません。
施設によっては、夜勤の看護職員が配置されているところやオンコールで看護師が対応する施設もあります。
喀痰吸引や経管栄養などは、研修を修了した介護職員が医師や看護師との連携で行うことができるため、チームを組んで対応に当たっている施設も見られます。
有料老人ホーム
有料老人ホームは「協力医療機関」と協力契約を結ぶことが施設運営基準で定められています。
協力医療機関は看護職員を通じて、入居者の健康管理のアドバイス、定期検診、健康相談などを行なってくれます。
別途医療費が発生しますが、入居者や家族が希望すれば治療などにも対応します。
往診を行っている協力医療機関もあります。
このように、有料老人ホームでは施設外の医療機関の医師と連携を取ることにより、医療行為が可能になるのです。
実際は各有料老人ホームによって、どのような医療機関とどんな内容の協力体制を結んでいるかによって、受けられる医療サービスの内容は変わってきます。
加えて、介護付き有料老人ホームには看護職員が配置されており、住宅型有料老人ホームでも看護職員を配置しているところもあります。
有料老人ホームの看護職員は、主に日常的な健康管理、服薬管理、緊急時の医療機関との連携などを担当しています。
そして、看護職員は協力医療機関の医師の指示のもとインスリン注射、喀痰吸引、中心静脈栄養、経管栄養、在宅酸素、人工呼吸器の管理、褥瘡(床ずれ)の処置などの一部の医療行為が許されています。
この看護職員に許されている医療行為のうち、喀痰吸引と経管栄養は研修を修了した介護職員であれば実施することができます。
そして、有料老人ホームであっても、24時間看護職員が配置されているホームもあり、そのようなホームであれば、夜間でも医療行為を受けられる場合もあります。
ただし、ホームによって看護職員の配置や設備に違いがあるため、医療行為が必要な場合は、事前に確認することが大切です。
老健で健康的に暮らしていくために

老健は、医療ケアが必要な人の入所を広く受け入れている施設です。
医師により、入所者に対して健康管理、医療的ケア、緊急時の対応などが行われています。
この常勤の医師がいるということが、他の介護保険施設と大きく違う点となります。
常勤の医師がいることで、健康状態を細かく把握し医学的管理をすることが可能です。
そして、老健では理学療法士・作業療法士などリハビリ担当の職員の配置が義務付けられているため、週2回程度のリハビリを受けることもできます。
リハビリは日常生活に沿った内容となっており、1回の所要時間は20分〜30分程度です。
老健の医療の充実は看護職員の配置を見てもわかります。
特養の看護職員が入所者100人に対し3人なのに対して、老健は100人に対し概ね9人の看護職員の配置が義務付けられているのです。
医師の指示のもと、経管栄養、喀痰吸引、褥瘡(床ずれ)の処置などの医療行為を行うことができ、夜間勤務の看護職員がいる施設では夜間の医療行為も可能となります。
他の介護保険施設では、医療行為が必要になると継続して施設を利用することが難しくなる場合があります。
しかし、老健では、毎日の生活が医療と切り離せない状態になっても安心して生活を継続することができるのです。
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