老人ホーム・介護サービスポータル
掲載物件数No.1
老人ホームポータルが掲載する物件数の日本全国調査
2025年5月時点(株)東京商工リサーチ調べ

「令和を生きる女性は『与える人』を目指して。愛だって利他の心です」坂東眞理子さんに聴く人生100年時代の『幸せ』とは

  • 2024年08月06日 公開
  • 2024年11月28日 更新

『人生100年時代』は第二のキャリアが重要。女性の活躍は思い込みを捨てることから

昭和女子大学総長・坂東眞理子さんへのインタビュー前編では、女性の意識にあるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)について、また育児や介護の性的役割分担の変化について伺いました。

今回のインタビュー後編では、令和時代の女性の働き方、「貢献寿命」を伸ばして健康になる方法、利他心の大切さ、人生100年時代の女性の生き方についてお話を伺っていきます。

【インタビュー前編はこちら】「日本の女性は変わった。次は、男性が変わる時代」坂東眞理子さんに聴く『介護』で大切なこと、女性の新しい生き方とは?

介護メディア『安心介護ニュース』のインタビュー取材に応える昭和女子大学総長・坂東眞理子さん(撮影・加藤春日)
『安心介護ニュース』のインタビュー取材に応える昭和女子大学総長・坂東眞理子さん(撮影・加藤春日)

自分が持っている無形資産を活用すれば、新たなステージは切り開ける

──前回は、日本の女性がとらわれがちな「アンコンシャス・バイアス」(無意識の偏見)がキャリア形成にどのような影響を及ぼしているかを伺いました。それも踏まえて、令和の現代に求められるシニア女性の働き方とはどんなものでしょうか?

女性が組織のピラミッドを登って出世して、「何もできないけど部長職はできます」というような男性の働き方をそのまま真似るのではなく、組織を離れても通用するスキルを持って働くという働き方を早めに考えるといいと思います。

難しいのですが、自分に向いているものを見つけるんですね。

たとえば経理ができるとか、パソコンやスマホを使った仕事が得意だとか、そういうのはとてもいいスキルです。そういったスキルに、コミュニケーション能力を組み合わせて強みとするのもいいと思います。

従来の日本の組織は男性を大事にしてきました。女性はこれまで組織や社会が大事にしてくれなかったから、自己肯定感が低い傾向があります。

私も公務員を辞めた時、社会のお荷物になるのではないかと不安がありました。

しかし、その後に有償無償の役割を得ることができ、多くの素晴らしい出会いがありました。

働いてきた女性は管理職や役員になる機会は少なかったものの、多くの無形資産を持っています。

たとえば、長く携わってきた職務に関するスキル、職場で長年にわたって得てきた人間関係、良い友人知人などがそれに当たります。それを活かせば、新しいステージを切り開けると思います。

若い世代でも自己肯定感がまだまだ低い。女性自らが変わっていく必要があります

──これから社会に出る若い世代はどのような考えをもっているのでしょうか

一般に女子学生はまだ経験が乏しいためか、自信がないというか、自己肯定感が低いですね。

介護メディア『安心介護ニュース』のインタビュー取材に応える昭和女子大学総長・坂東眞理子さん(撮影・加藤春日)

男の子よりも女の子の方が元気がよいと言われるんですが、それでも「リーダーになるのはとても大変そう」とか、インタビュー前編でお話したように、「女性は可愛くないと好かれないんじゃないか」とか、そういった考えをもっているようです。

若い世代も、女性に対する古い固定観念であるアンコンシャス・バイアスからまだ脱却しきれていということでしょう。

男性が変わってくれないから私が変われないんだと責任転嫁をしてはいけません。女性自らが変わっていく必要があります。

『女性の覚悟』では、「これからの女性は稼ぐ力を持ちましょう」と提言しております。

あまり優雅ではない、可愛くない表現ですが、これは本来は男女ともに、稼げる力を持つことで、「人を頼らないでも食べて行ける」という必要最低限の自信を持つことができるのです。

健康寿命だけでなく、貢献寿命をのばす

──坂東さんの『与える人』(三笠書房)では、「健康寿命だけでなく貢献寿命を伸ばそう」と提唱されています。貢献寿命について教えてください

健康寿命と平均寿命のところばかりが話題になりますが、貢献寿命を長くしましょうと私はお話しています。

健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されています。

この健康寿命と平均寿命の間(男性8.73年、女性12.06年。いずれも2019年時)が、日常生活に制限がある「健康でない期間」とされています。健康寿命を長くしてこの期間、つまり平均寿命との差を短くしようといろいろな取り組みが行われています。

健康であることは素晴らしいことですが、健康そのものが目標になると、このサプリが効くとか、この水がいいとかそういうことに目が向きがちです。それでは不十分ではないでしょうか。

介護メディア『安心介護ニュース』のインタビュー取材に応える昭和女子大学総長・坂東眞理子さん(撮影・加藤春日)

貢献寿命というのは、「社会とつながり、役割を持ち、誰かの役に立つ、感謝されるという関わりを持ち続けられる期間」です。

社会とつながって貢献し続けるには、健康でなければできませんが、やりたいこと、やらなきゃならないことをするための健康です。

健康のことばかりを考えてない、忙しい方が結果として健康になっている現象が起きています。

健康が大事と、栄養のあるものを食べて家でゴロゴロしていたら、かえって健康じゃなくなるんですよ。

社会とつながりを持って誰かの役に立てることが、その人の「幸福」につながる

──では、貢献寿命を伸ばすにはどうしたらいいのでしょうか

社会と関わって何か貢献をすることで頭と体を使い、自分の貢献を感謝されることで気持ちがいきいきとします。

イギリスの大学の研究では、思いやりや無償で人のために何か行動すると、ストレス軽減、心身の健康状態を改善するという効果があるとされています。

人に親しみを感じたり思いやりを持つと「幸福ホルモン」と呼ばれる脳内物質オキシトシンが分泌されるのですが、このホルモンには血管を広げる作用があり、高血圧、動脈硬化を予防する身体的な効果をもたらしてくれます。

社会とつながりを持って役に立てる貢献寿命を延ばすと、このように肉体的な健康寿命にもいい影響があるようです。

反面、社会とつながりを持たず、体や頭を使わないと、どんどん筋力も落ちていくし脳細胞も減っていくんです。

具体的な行動としては、忙しい人の家事や育児を助ける、自信を失っている若い人を応援するなど、シニアだからできることもあると思うんです。地域のボランティアでもいいですし、自分がちょっと役に立てると思うことをやることが大切です。

介護メディア『安心介護ニュース』のインタビュー取材に応える昭和女子大学総長・坂東眞理子さん(撮影・加藤春日)

たとえば、60歳になったばかりの私の知人は、地域の消防団に入りました。いろんな地域で、消防士が足りないの、あんまりお金にはならないんですが、地域活動に貢献しています。それから保護司や民生委員などもなり手が足りないようです。

そういった役職に手を挙げて挑戦してみるのも貢献寿命の延伸にいいのではないでしょうか。

利他的な行動は自分に返ってくる。まずは「たまに他者のことを考える」ことからはじめる

──『与える人』では、貢献寿命のほかにも「利他的な行動が社会をよくする」という提言があります。こちらはどういうことでしょうか?

簡単に言うと、自分の利益を守ろうと必死になる利己的な行動は、結果として自分が悔しい思いをすることになる。

対照的に、「他の人を喜ばせよう」「喜んでもらえると嬉しい」と利他的に行動していると、結果的に満足度があがり自分の幸せを増やしてくれます。

例をあげて説明しましょう。たとえば学校教育では、現在小学校の先生になりたい希望者が減っています。

その理由の中で大きなものは、「保護者からのクレーム」だと言われています。子どものちょっとした怪我、子ども同士の喧嘩やいじめに、学校の管理責任を問う親御さんが増加したため、学校はクレームがつかないように生徒の行動制限をしたり、課外活動を控えるなどの対応をしなければいけなくなっています。

自分の子どもは安全によい教育を…という要求が、学校全体の教育機会を減らしていることに繋がっているのです。

また医療を例にあげると、日本の国民皆保険制度では病気になれば好きな病院で希望の治療を受けることができますが、高価な新薬が保険承認されたり、急激な高齢者の増加で保険財政がどんどん苦しくなっています。

ここで、一人ひとりが不要不急の受診を控えたり、必要以上の薬をもらわないなど、ちょっとだけ社会のためを考えて利他的に行動すると、医療費の削減につながり、保険制度も逼迫することがなくなります。結果として、国民皆保険制度が維持され、自分たちのためになるというわけです。

介護メディア『安心介護ニュース』のインタビュー取材に応える昭和女子大学総長・坂東眞理子さん(撮影・加藤春日)

できる範囲で「たまには他者のことを考える」ことから始めてみる

──理論はよくわかりましたが、現実的に利他的な行動をとるのはやや難しいのではと感じます。どのように始めるといいでしょうか

天台宗の開祖・最澄に「忘我利他」(ぼうがりた)という言葉があります。忘我利他とは、自分のことを忘れ、他者に尽くすという意味です。

いつもいつも自分を忘れて他人に尽くすという境地にたどり着くのは到底無理です。まずは、できる範囲で「たまには他者のことを考える」ことから始めてみるのが現実的です。

たとえば目の前に食べ物が少しあったとして、自分の欲望に負けて、それを独り占めして全部食べてしまうのは極めて利己的です。

しかし、利己心を抑えてちょっと周りを見渡し、自分よりもっと食べ物を必要としている仲間に分けてあげるとか、全部食べずに将来のために残しておくことで、これまで人間は繁栄してきました。

ビジネスでも同じことが言えます。自分だけ儲けようとするのではなく、協力者やお客さんを大切にし、良かれと思うことをすると事業は繁栄していきます。

「仕事や家庭、勉強など自分のことで手一杯。そんな余裕はない」「それは定年後の時間がある高齢者がやればいいのでは」と思う方もいるかもしれません。

しかし、どんな年代や立場でも他者貢献はできます。周りの人に感謝の言葉を伝える、相手のミスを許す、周りの人を明るくする、これらも立派な社会貢献であり利他的行動です。その結果として、行動した本人も幸せになれるんです。

介護メディア『安心介護ニュース』のインタビュー取材に応える昭和女子大学総長・坂東眞理子さん(撮影・加藤春日)

「人生100年時代」は第二のキャリアが重要。女性が活躍するには、これまでの思い込みを捨てること

──女性の「人生100年時代の生き方」はどうあるべきでしょうか。坂東さんのお考えをお聞かせください。

まず男性は、定年が近づいたら家事や料理の練習をすることです。

男の料理教室や掃除教室は探せば山ほどあります。ただ私は、練習も必要だと思うのですが、それ以上に「もう自分は変わらないんだ」「今さら僕に料理をしろなんて無理だ」という、思い込みを捨てて、男性が変わろうとする意志が必要だと感じます。

そうでないと、女性が社会で活躍できません。

60代・70代くらいの男性の中には、「家事なんてたいしてむつかしくない仕事だから、女にやらせとけばいい。男がやるほどの仕事じゃない」と内心は思っていたりする方もいます。

やはりこれもアンコンシャス・バイアスで、口では「家事、育児はとても大事」だと言いながらも、実は思い込みにとらわれているわけです。

男性でも女性でも、社会に出て定年までの第1キャリアでの栄光は喜ばしいものです。だけど、その次の第2キャリアでは、今自分は何ができるんだろうと考えることからスタートです。

60代70代は、家事でも仕事でも、過去を引きずっているので「こんなつまんない仕事なんて誰にでもできるだろう。俺ができるか」という意識が顕著な世代だと思います。

特に現役時代の栄光があると、次のステージに行く時に邪魔をしてしまいます。

まずそこを取り払わなくてはいけません。「昔は昔、今は今」、昔の栄光は「思い出」です。

「言うは易く」で、実際に取り払うのはすごく難しいんですけどね。

介護メディア『安心介護ニュース』のインタビュー取材に応える昭和女子大学総長・坂東眞理子さん(撮影・加藤春日)

令和を生きる女性には、人に与えることができる女性を目指してほしい。愛情だって利他の心です

──人生の第2キャリアで女性が活躍するためにどうすればいいか教えてください

私は、他人をあてにせず女性が一歩を踏み出して行くことだと思います。

夫が定年になったら、「じゃあ今度は私が働くわ」と妻のほうから宣言して変えていく。男性はなかなか変わらないですから。

仕事にしても、たとえば福祉施設で介護する人は本当に人手不足です。農業でも、農業を支えている働き手の平均年齢は68歳です。第1次産業も第3次産業も、本当に人手不足だらけの業界がたくさんあります。

福祉施設で働くとか、コンビニで働くことへの抵抗感は、女性の方が男性よりは低いですから、しっかりお仕事をすればそれなりの収入があります。「家のことはあなたに任せるわ」という仕切り直しを、ちゃんと家庭でも行い、意識と行動を変えていくのがいいのではないでしょうか。

女性が「夫が変わらないから私も仕事に出られない」とか「夫が変われないから私も変わらない」と思い込んでいるのはもったいないと思います。

女性が自分から変わり、夫にも「こうしてください」と変えていく力が必要です。喧嘩する必要はないんです。

妻からそうやって動けば、夫も自分からはなかなか言えないけれど「言われたらしょうがないか」と、結構付き合ってくれるものです。

最後に、これからの令和を生きる女性の皆さんには、やっぱり与える愛や知恵や経験を持てる人になっていただきたいです。物質的にではなく、言葉でも自身の仕事でも、人に与えることができる女性を目指してください。愛情だって利他の心なのです。


(取材・執筆/牛島フミロウ 撮影/加藤春日)