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「日本の女性は変わった。次は、男性が変わる時代」坂東眞理子さんに聴く『介護』で大切なこと、女性の新しい生き方とは?

  • 2024年08月01日 公開
  • 2024年11月28日 更新

介護離職は絶対にしてはいけない。介護責任とは「マネージメント」すること

ベストセラー『女性の品格』(PHP新書)の著者として知られる昭和女子大学総長・坂東眞理子さん。近著の『女性の覚悟』(主婦の友社)『与える人』(三笠書房)で、令和で活躍できる女性の生き方や働き方、自分や社会全体に幸せをもたらす利他の考えや行動について発言され、話題を呼んでいる。

シニア世代の女性が輝き、人生100年を充実して生きるにはどうするかを伺った。

介護メディア『安心介護ニュース』のインタビュー取材に応える昭和女子大学総長・坂東眞理子さん(撮影・加藤春日)
『安心介護ニュース』のインタビュー取材に応える昭和女子大学総長・坂東眞理子さん(撮影・加藤春日)

この40年間で日本の女性たちは変わった。次は、いよいよ男性が変わる時代

──総理府の婦人問題担当官だった坂東さんが、第1回婦人白書を書かれたのは1978年。それから現在までの45年あまりで日本の女性はどう変わりましたか?

世界経済フォーラムが公表しているジェンダーギャップ指数(経済や政治などで男女の格差を表す指数)では、日本は世界146カ国中で118位です(2024年6月時点)。『女性の覚悟』(主婦の友社)執筆時の146カ国中120位(2021年)より、少し良くなったという程度です。

日本の女性一人ひとりの考え方は、45年前と比べて本当に変わってきたと思います。次はいよいよ男性が変わる必要があります。

例えば学校教育の点では、私の世代であれば「男の子は4年制大学にやらなければいけないけれど、女の子は別に行かなくてもいい。高卒あるいは短大で就職」と考える親、そして女性本人も多くいました。

今や女性が4年制大学に行くのは特別なことではありません。教育に対する考え方は大きく変わったと感じています。

女性の働き方の点でも変化がありました。昔から「女性は定年までずっと働くべきである」という考えを持つ少数の女性はいましたが、今は一般の女性も同じように考えるようになりました。

かつては「エリートではない普通の私が、定年まで仕事を続けるのは大変だから、子どもができたら退職するんだわ」と思っていた女性が多かったと思うんです。現在は「普通に結婚して私は定年まで働くんだろうな」という意識に変わってきました。

育児・介護休業法で「女と男が一緒に働けるはずがない」という意識が変わった

──女性が変わったのにはどういった理由があったのでしょうか?

このように女性の意識が変容したのは、法律や制度ができたことが大きかったと思います。

1986年に施行された『雇用機会均等法』もじわじわと効いているのですが、直接的に一番大きな変化を与えたのは1991年施行の『育児休業法(現在の育児・介護休業法)』です。育児休業法は改正を重ねてどんどん手厚くなっています。

介護メディア『安心介護ニュース』のインタビュー取材に応える昭和女子大学総長・坂東眞理子さん(撮影・加藤春日)

私は、どちらの法律も成立する時期に国会議員と接しましたけれども、雇用機会均等法に対して、当時のおじさん議員たちは「そんな法律は必要ない」と考えていました。「職場で女と男が同じように働けるはずがないだろう」という感覚だったのです。

しかし育児休業法については、1990年に前年の合計特殊出生率(1989年)が戦後最低となった「1.57ショック」がきっかけだったため、「働く女性が子どもを産めないと、このまま日本の人口が減っていくのではないか」という不安、危機感がありました。おじさん議員たちも、育児休業法は自分たちの問題として考えたのです。

つまり、女性たちが自分から「育児休業制度が必要だ」「定年まで働きたいからこういう制度が必要だ」と要求したというよりも、おじさんたちが、日本の人口が減ると大変だというマクロ的な考え方で作られた制度だということです。

こうした男性自身の意識に女性自身がとらわれているのです。

それはアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)といわれていますが、「女性は男性のようにハードな仕事が向いていない・できない」「女性は家庭内で、育児や家事をするのが当然」「女性はかわいくしていれば愛されて幸せになる」という思いこみです。

女性自身もその意識にとらわれているために、「男性がそんなこと言っていても自分は違う」というほどの強さが女性にまだないのです。

「男は仕事、女は家」という性的役割分担は、現代の働き方にはもうフィットしない

──アンコンシャス・バイアスにとらわれている部分があるにせよ、女性の意識が変化して、「男は外で仕事、女は家庭にいる」という性別役割分担意識にも変化はあったのでしょうか?

そうですね、少しは変化してきました。「性的役割分担意識」が変化したのは世代交代が進んできたとことと、経済の状況が変わってきた2つが理由として挙げられます。

介護メディア『安心介護ニュース』のインタビュー取材に応える昭和女子大学総長・坂東眞理子さん(撮影・加藤春日)

高度経済成長時代は、男性は外で長時間働き、女性に家庭のことは全部任せるという働き方をしていても所得面で報われたんです。

会社のために一生懸命働けば、会社はちゃんとお給料を上げてくれるし、いいポストも提供してくれる。けれど今はいくら働いても、昇給も昇進も大したことはない。それに終身雇用もゆらぐという現実を見ていると、自分たちの働き方を見直さなきゃいけないと若い男性たちも少し気がつくようになってきています。

しかし、他の先進国と比べて、日本の「性的役割分担意識」はまだ色濃く残っています。

その一番大きな原因は、日本の女性が『可愛い子願望』であることだと私は思います。それは男性の可愛い子願望が女性側に反映していると思うんですが、賢い女性より可愛い女性の方が男性に好かれる、ということがあるんです。

有能で稼ぎのいい女性より、可愛い女の子を男性が好むのはなぜだと思いますか? 男性は自分が優位になりたいから、男性が自分の魅力に自信がないからです。

女性が自分より稼ぐと馬鹿にされると思いこんでいる。そこはなかなかなか変わりません。だからその点について男性が変わってくれれば、「日本の社会は本当に変わる」と私は感じています。

『失われた30年』を生み出した高度成長期の男女観

──日本ならではの性的役割分担意識はずっと昔からあるものでしょうか

高度経済成長時代の「男性(夫)は仕事だけやっていて、家のことは女性(妻)が全部面倒を見る」という性的役割分担は、その当時の経済・社会の仕組みが反映されているわけですが、日本の伝統じゃないんです。明治時代以降の、短い時代だけのものなのです。

屋敷や財産は基本的に、母親から娘が相続し、男性がそこに通ってくるというのが『光る君へ』の時代の頃まで続いた日本の伝統です。

介護メディア『安心介護ニュース』のインタビュー取材に応える昭和女子大学総長・坂東眞理子さん(撮影・加藤春日)

本来、日本は父系社会でも母系社会でもなく、父親は職業や地位を伝え、母親は家族の生産活動、結婚、相続で大きな力を持っている双系制社会でした。男尊女卑というのは江戸時代の武士の儒教的な考え方で、農民や商人は母親が相続や財産の権限を持っていました。

ところが明治政府を作った武士たちが自分たちの常識であった儒教を制度に取り入れ、しだいに性的役割分担意識が広がったという背景があります。

製造業によって支えられた日本の高度経済成長期、男性が外に出て長時間働くことで生産性は上がりましたから、その時代には適した働き方でした。

でも今は情報処理やクリエイティブな仕事を効率的にやらないと世界で通用しなくなりました。もっと広く学び新しいアイデアをもつ必要があったのに製造業的な働き方である長時間労働をやっていれば会社の業績が上がるんだと思いこんでいた。

だから、『失われた30年』になったんです。

育児や介護で性的役割分担意識に変化が。「男性も育児、介護に参加するようになった」

──アンコンシャス・バイアスのひとつに、「育児や介護は女性がやるもの」という偏見もあります。坂東さんは現状をどう考えていらっしゃいますか?

若い人たちから変わり始めてきています。性的役割分担意識のうちで育児に関しては、男性の参加がやっと進み始めたと言えます。

昭和女子大学附属昭和こども園では0歳児からお預かりしているんですけれども、朝の登園時に子どもを送ってくるのは3分の2がお父さんです。でもそれはおそらく30代の方たちで、40代後半になるとまだまだといった状況です。

男性は仕事だけをしていればいい、育児や家のことは女性が全部やるという役割分担は、共働き家庭が増えた現在、もう通用しないものとなっています。

介護メディア『安心介護ニュース』のインタビュー取材に応える昭和女子大学総長・坂東眞理子さん(撮影・加藤春日)

女性の社会進出が進んで経済的な負担も担っているにもかかわらず、育児や家事は妻が主体で夫はお手伝いだけでは女性への負担があまりにも大きい。それが原因となって晩婚化、非婚化が進み少子化に繋がっているのです。

このように家庭内で育児の負担をシェアできておらず、母親だけが孤軍奮闘する状況に陥っているのは夫の責任です。

しかし、「育児は女性(母親)の責任」というアンコンシャス・バイアスに女性自身がとらわれていることも一因です。

これからは母親も働きつつ育児もするのが当たり前の時代と覚悟を決めて、家事や育児に夫をいかに巻き込むか働きかけるのが重要です。

介護保険の一番の原動力は、「嫁の涙で介護をさせるな」だった

──介護の性的役割分担意識はどうでしょうか

2000年に施行された介護保険の一番大きな原動力は、「嫁の涙で介護をさせるな」ということだったんです。施行後20年の間で大きく変わったのが、介護の担い手です。

介護の担い手は嫁が減り、配偶者か実の子どもが増えています。娘の場合もあるし、息子もけっこう介護をしています。80代の親を、シングルないしシングル・アゲインの50代の息子が介護する8050も多く見られます。

息子の嫁が介護をしなくなってきた理由に少子化があります。夫の親を介護するだけでなく、自分の親を介護する必要があるからです。また、夫の親と同居している家族が少なくなったからという理由もあります。現在、夫の親と同居しているのは14%程度です。

一昔前なら、夫の親の介護のためにお嫁さんが離職すると「当然だ」「よくできた嫁だ」と言われたほどに、高齢者の介護はお嫁さんの役割でした。介護を担う夫はいても少数で、息子が親の介護をするということはほぼありませんでした。

現在は、「自分の親の介護は実の子どもたちが責任を持つ」という方向に進んでいて、お嫁さんではなくて息子や娘が、介護が必要になった親をどんな施設に入れるか、どういう介護体制やサポートシステムを作るかということを、自分たちの責任で考えるようになり始めました。

介護メディア『安心介護ニュース』のインタビュー取材に応える昭和女子大学総長・坂東眞理子さん(撮影・加藤春日)

このように「介護」における役割分担も少しずつ変わってきたと思います。

お嫁さんの介護離職は減っているものの、息子・娘の介護離職は起きています。

介護離職は絶対にしてはいけない。介護責任とは「マネージメント」することである

──介護離職のお話が出ましたが、女性のキャリア形成と介護問題についても坂東さんのお考えを聞かせてください

介護責任というのは、マネージメントだと思うんです。法律で定められた介護休業の期間中(年間93日)は、直接親を介護するのではなく、介護の体制を整えることが重要なんです。

現実的に、仕事と介護の両立はとても難しいです。それで、もし仕事を辞めて親の介護に専念すると収入がなくなり貧乏おじさん、貧乏おばさんになってしまいます。

仕事をして収入があれば、より水準の高い介護施設に入所することができたり、負担を軽減できる介護サービスを受けることができます。

ですから、介護離職は絶対にしてはだめです。特に女性は、介護離職を考えてはいけません。

お話しした通り、自分の親の介護をするために退職しようという人たちがまだいます。せっかくずっと働いてきたんですから、キャリア最盛期に離職するのはもったいないことです。

「(絶対に)定年まで働くんだ」という気持ちをもって、どういう介護サービスを利用するか、どんな施設を選ぶか、どの福祉制度を利用するかということをマネージメントする。それこそ育児責任は、どの保育所を選ぶかや、お迎えが遅れる時にはベビーシッターさんに代わりに行ってもらうような仕組みを作るのが必要だったように、介護もそうなりつつあるんです。

親を見捨てるんじゃなく、親を大事に介護する仕組みを作る。そんなふうに、介護責任の中身が変わってきたように思います。

介護メディア『安心介護ニュース』のインタビュー取材に応える昭和女子大学総長・坂東眞理子さん(撮影・加藤春日)

「親が望んでいるのだから介護すべき」「自分がやらなくては」は思い込み

──「親の介護は自分でしなければ」「施設に預けるのは親不孝」という偏見を持っている方もまだいらっしゃるのではないでしょうか?

介護が必要になった親を施設に入れることが親不幸ではなく、施設に入れっぱなしにすることが親不幸なのではないでしょうか。

専門の施設で職員に介護をゆだねながら、丸投げにしないで頻繁に訪問して話し相手になったり、朝夕の挨拶の電話を毎日する、施設側と情報交換をして親の様子を把握するなどのフォローをするのが現代版の親孝行なのです。

親御さんがどんな介護願望があるか、何を望んでいるかをしっかり確認することも忘れてはいけません。

親が、愛情をかけて育てた娘に介護をしてほしいと願う場合もあるかもしれません。どちらにとっても負担が大きい選択ですが、娘としては親の気持ちを無碍にはできず、「自分がやらなくては」と思いがちです。

また「親が望んでいるのだから娘が介護すべき」という他者からの圧力もあるかもしれません。しかし介護離職をしてでも自分が介護すべきという思い込みにとらわれてしまうのも、アンコンシャス・バイアスなのです。

親孝行の中身は変わってきています。今までのような考えで、親の介護を子である自分だけで総てやるということではなく、介護の情報収集をし、利用できるサービスは使いながら介護をマネージメントするのが介護責任をもつということです。

介護責任のもち方が変わったという気持ちを持つことです。これは、決して親を見捨てるということではありません。

次回、坂東眞理子さんインタビューの後編では、令和時代の女性の働き方、「貢献寿命」を伸ばすことの大切さ、利他心を持つこと、人生100年時代の女性の生き方についてお話を伺います。

【インタビュー後編はこちら】「令和を生きる女性は『与える人』を目指して。愛だって利他の心です」坂東眞理子さんに聴く人生100年時代の『幸せ』とは

(取材・執筆/牛島フミロウ 撮影/加藤春日)