必須ミネラルの1つである亜鉛は、高齢者に不足しやすい栄養素としてよく名前があがります。亜鉛不足は高齢者の健康に関わる様々な症状の引き金になりますので、必要な量を欠かさずとることが重要です。 今回は高齢者がとるべき亜鉛の摂取量や、不足したときに起こる症状、亜鉛を多く含む食品など、高齢者が知っておくべき亜鉛の情報を紹介します。
- 亜鉛とは
- 高齢者が亜鉛不足になるとどうなるか
- 高齢者が1日にとりたい亜鉛の摂取量
- 高齢者が食べやすい亜鉛を多く含む食品
- 亜鉛と一緒にとりたい栄養素は?加工食品はNG
- サプリメントによる亜鉛の過剰摂取に注意
亜鉛とは
亜鉛は私たちの身体に必要不可欠とされる必須ミネラルの1つです。体内に存在する量は微量ですが、100種類以上の酵素の活性に関わっており、骨、皮膚、眼球、肝臓、前立腺、脾臓など体内の様々な場所に存在しています。
亜鉛において特に重要な役割は、新たな細胞を生成する際に必要な、タンパク質の形成や遺伝子情報の伝達です。新たな細胞の生成に亜鉛は欠かせず、新陳代謝や成長に深く関わっています。
また、亜鉛は味を感じさせる味蕾細胞の新陳代謝を活性化させ、味覚を正常に保つ働きもしており、さらには免疫力向上にも役立っています。このように、亜鉛は体内に微量しか存在しないながらも、さまざまな重要な役割を果たしているミネラルなのです。
高齢者が亜鉛不足になるとどうなるか
亜鉛不足は味覚異常、免疫力の低下、床ずれが治りにくいといった症状を引き起こします。これらの症状は必ずしも高齢者に限ったことではありませんが、高齢者は食が細くなって亜鉛が不足しがちですので、特に意識しておくことをおすすめします。
味覚異常高齢になって味覚が鈍くなったと感じる、またはそういった話を聞いたことがあるという人は多いかもしれませんが、そうした味覚異常は亜鉛不足が原因である可能性があります。 亜鉛には味覚を正常に保つ働きがありますので、食事量が減って亜鉛が不足することで味覚異常を引き起こしている場合があるのです。 味覚異常になると食事量が減り、さらに亜鉛が不足するという悪循環に陥ることもありますので、味覚異常の原因が亜鉛であることに気づき、早めに対処することが大切です。 床ずれ自分で体位を変えられず、血流が悪くなって起こる「床ずれ」。亜鉛が不足して新陳代謝が鈍くなると、床ずれの治りが遅くなります。 床ずれは痛いだけでなく、悪化すると傷口から菌が侵入して命の危険を伴います。寝たきりの高齢者にとって亜鉛不足は命に関わる問題とも言えるのです。 免疫力の低下亜鉛は免疫力の維持や向上に関わっています。そのため亜鉛不足は免疫力の低下の原因となり、風邪をはじめ感染症にかかるリスクを高めます。
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亜鉛不足が引き起こす症状として、味覚異常、床ずれ、免疫力の低下を挙げましたが、このほかにも口内炎や貧血、脱毛などの原因にもなり得ます。亜鉛をしっかりとることは高齢者の命と健康を守るために非常に重要です。
高齢者が1日にとりたい亜鉛の摂取量
高齢者の健康維持に欠かせない亜鉛ですが、毎日どのくらいの量をとればいいのでしょうか。
厚生労働省が公表している「日本人の食事摂取基準(2015年版)」によると、60歳以上の高齢者が1日にとりたい亜鉛の摂取量は次の通りです。
男性 |
女性 |
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推定平均必要量 |
推奨量 |
耐用上限量 |
推定平均必要量 |
推奨量 |
耐用上限量 |
|
60〜69歳 |
8mg |
10mg |
45mg |
6mg |
8mg |
35mg |
70歳以上 |
8mg |
9mg |
40mg |
6mg |
7mg |
35mg |
※ 推定平均必要量とは、その性別・世代の半数の人の必要量を満たす量を指します。また推奨量とは、その性別・世代のほとんどの人の必要量を満たす量のことです。
高齢者が食べやすい亜鉛を多く含む食品
亜鉛を多く含む食品Top10
亜鉛は特に魚介類、肉類に多く含まれています。食品データベースに掲載されている、亜鉛を多く含む食品Top10がこちらです。
順位 |
食品名 |
成分量 100gあたりmg |
1 |
魚介類/かき/くん製油漬缶詰 |
25.4 |
2 |
魚介類/かき/養殖、水煮 |
18.3 |
3 |
穀類/こむぎ/[その他]/小麦はいが |
15.9 |
4 |
魚介類/かき/養殖、生 |
14.5 |
5 |
<魚介類/かき 養殖 フライ |
11.9 |
6 |
魚介類/(かつお類)/加工品/塩辛 |
11.8 |
7 |
調味料及び香辛料類/パプリカ/粉 |
10.3 |
8 |
魚介類/ぼら/からすみ |
9.3 |
9 |
肉類/うし/[加工品]/ビーフジャーキー |
8.8 |
10 |
肉類/ぶた/[その他]/スモークレバー |
8.7 |
出典:食品成分データベース
亜鉛を含む食品Top10のうち4つが魚介類のかきで、そのほか小麦の胚芽、かつおの塩辛、パプリカの粉、ぼらのからすみ、ビーフジャーキー、ぶたのスモークレバーが並びます。
種類別の食品例と高齢者が食べやすい食品
次に、亜鉛を多く含む食品を魚介類、肉類別でいくつかご紹介します。※ 食品名に併記した値は100gごとの亜鉛含有量です。
・魚介類
かき(幼少、水煮)18.3mg、ぼらのからすみ 9.3mg、かたくちいわしの煮干し 7.2mg、たたみいわし 6.6mg、たらばがに(水煮缶詰) 6.3mg、ほたてがい 6.1mg、たらこ(焼き) 3.8mg、いかなごの煮干し 5.9mg、うなぎのかば焼き 2.7mg 他 |
【高齢者が食べやすいものは?】
亜鉛を多く含む食品としてよく名前が挙がるのが海の幸「かき」です。実際かきはあらゆる食品の中でトップクラスの亜鉛含有量を誇っています。硬くなく嗜好性があって、かきがお好きな高齢者は多いかもしれませんが、食卓に毎日並べるのは大変ですよね。
そんなときはかたくちいわし やいかなごの煮干しを利用してみてはいかがでしょうか。煮干しには亜鉛はもちろん、カルシウム、タンパク質など栄養が豊富。そのままおやつ代わりに食べたり、ミキサーなどで細かくして、ごはんや料理にふりかけて食べるにのもおすすめです。
・肉類
うし(もも、皮下脂肪なし、焼き)6.6mg、うし(ヒレ、赤身、焼き)6.0mg、ぶた(肝臓) 6.9mg、ぶた(ヒレ、赤身、焼き)3.6mg 他 |
【高齢者が食べやすいものは?】
ここで挙げたどの食品も日本の食卓になじみのあるものが多く、抵抗感なく食べられる高齢者も多いのではないでしょうか。その方の好みや、毎日の献立を考慮して食品を選び、細かく切る・柔らかく煮るなど調理法に工夫することでより食べやすくなります。
※ これら魚介類、肉類の食品のほか、カシューナッツや納豆、豆腐などにも亜鉛は多く含まれていますので、間食にカシューナッツを食べたり、納豆や豆腐を食べるのも手軽です。
亜鉛と一緒にとりたい栄養素は?加工食品はNG
亜鉛を豊富に含む食品を食べても、その亜鉛がすべて体内に吸収されるわけではありません。食品から体内に吸収される亜鉛の量は3割弱と言われています。
ただし、ほかの栄養素と組み合わせることで亜鉛の吸収率は上がります。また加工食品をはじめ、亜鉛の吸収を妨げるものもありますので、あわせてご紹介します。
一緒にとりたい動物性たんぱく質・クエン酸・ビタミンC
亜鉛は動物性たんぱく質、クエン酸、ビタミンCと一緒にとると吸収率がアップします。亜鉛が豊富な牡蠣や肉料理を食べるときは、ビタミンCとクエン酸が豊富なレモンをかけると亜鉛を効率的に摂取できるので、ぜひ試してみてくださいね。
加工食品が亜鉛不足を引き起こす?
加工食品の食べ過ぎは亜鉛不足の原因になります。加工食品に使用されているリン酸塩やポリリン酸などの添加物に、亜鉛を体外に排出する働きがあるためです。
加工食品をよく食べていると、亜鉛を十分にとっているつもりでも知らず知らずのうちに亜鉛不足に陥っている可能性も。加工食品はなるべく控えるのが理想的です。
また加工食品以外に、穀物に含まれる食物繊維やフィチン酸が亜鉛の吸収を阻害しますし、アルコールにも亜鉛を体外に排出する作用があります。
穀物は亜鉛が豊富に含まれていますが、フィチン酸が原因で亜鉛の吸収率は高くなく、穀物からのみ亜鉛を摂取すると亜鉛不足になる可能性があるためお気をつけください。
サプリメントによる亜鉛の過剰摂取に注意
亜鉛摂取においては、不足だけでなく過剰摂取にも注意が必要です。過剰摂取が続くと腎機能が低下したり、銅の吸収を妨げて銅欠乏性貧血を引き起こします。
「1日にとりたい亜鉛の摂取量」の表にも記載しましたが、亜鉛の耐用上限量は60〜69歳の男性で45mg/日、70歳以上の男性で40mg/日、そして女性は60〜69歳、70歳以上の方ともに35mg/日とされています。
通常の食事で亜鉛を過剰摂取することはまれですが、サプリメントによる亜鉛のとりすぎには注意が必要です。サプリメントを使うと手軽に亜鉛を摂取できますが、むやみにとりすぎず耐用上限量を守るようにしましょう。
まとめ
高齢者の味覚の衰えは、ただ年齢を重ねたからというわけではなく、亜鉛不足が原因かもしれません。味覚異常は食欲不振につながり、ほかの栄養まで十分に摂取できなくなってしまいますので、日頃から必要な量の亜鉛を摂取して味覚の維持に努めたいところです。
亜鉛を多く含む食品には、代表的なかきはもちろん、牛肉、豚肉、さらに豆腐といった身近なものがあります。サプリメントを利用する手もありますが、その際には過剰摂取にお気をつけくださいね。 亜鉛不足は味覚異常以外にも、免疫力の低下、床ずれが治りにくくなるなど、さまざまな症状を引き起こしますが、そのことをご存知ない方はたくさんいらっしゃいます。この記事が参考になった場合には、ぜひシェアをして拡散をお願いします。
※この記事は2019年8月時点の情報で作成しています。

日本内科学会 総合内科専門医、日本老年医学会所属
15年目の内科医師です。大学病院、総合病院、クリニックでの勤務歴があります。訪問診療も経験しており、自宅や施設での介護についての様々な問題や解決策の知識もあります。