歩行が不安定になって来た母ですが、ケアマネジャーから歩行器をすすめられました。歩行器はどのように選んだらよいのでしょうか? 以前使っていたシルバーカーがあり、それを使っても良いでしょうか? 歩行器とシルバーカーの違いについて教えてください。
また、認知症もあり、新しいものを操作することが苦手なので、歩行器を使いこなせるのかが心配です。認知症の方が気を付けるポイントはありますか。
認知症の方の歩行器使用についての質問ですね。歩行器は介護保険でレンタルすることができる福祉用具です。認知症がある方でも、歩行器を使用することができます。不安があるようでしたら、ぜひお試しで利用してみてください。また、よく混同される歩行器とシルバーカーですが、使用対象者が異なります。
この記事では、認知症の方が使う際の注意点を含めた歩行器の基礎知識、歩行器の選び方、そしてシルバーカーとの違いについて解説しています。ぜひ今後の参考にしてみてください。
歩行器とは
まずは、歩行器の基礎知識についてみていきましょう。
歩行器の役割とメリット
歩行器は杖と同様に、歩行が不安定になってきた方をサポートする福祉用具です。キャスターが付いているものは、歩行車とも呼ばれています。
歩行器は、脚力や腕の力が低下していたり、足腰に痛みがあったりして、杖では歩行が不安定な方でも使いやすいです。弱った筋力の向上にも役立ちます。また、要介護者は自分で自由に移動できることで、自尊心や自立心を保つことができます。介護する方の負担も軽くなるでしょう。
認知症の方でも利用できます
歩行器は認知症の方でも利用できます。歩行器で移動できるようになることが刺激となり、認知症の方に良い結果を生むことも期待できます。
ただし、ブレーキなどが正しく使えないと転倒事故につながってしまう可能性があります。デイサービスや訪問リハビリなどで、リハビリ専門職の方に使っているところを見てもらうと良いでしょう。アドバイスを受けながら練習をして、安全に使用できるかを確認してください。
また、転倒を予防するためには、室内の段差をへの字型スロープなどで解消しておくこと大切です。
介護保険の福祉用具貸与が適用されます
歩行器は、介護保険でレンタルできる「福祉用具貸与」というサービスの対象品目です。品目によってレンタルできる対象者は異なりますが、歩行器は要支援1、2、要介護1~5の認定を受けている方で、歩行が困難な方であればレンタルすることが可能です。多くの福祉用具貸与事業所では、レンタル前にお試し利用をさせてくれます。使えるか不安な方は、お試し利用から始めると良いでしょう。
福祉用具貸与では、製品のメンテナンスや身体状態にあっているかなどの点検を定期的に受けることができるので、購入よりもレンタルがおすすめです。
詳細はケアマネジャーにご相談ください。
歩行器の種類
歩行器には次のような種類があります。その人の身体状態に合わせて使用し、持っている機能の維持や向上ができる歩行器を選びましょう。
固定式歩行器(ピックアップ型歩行器)
4脚フレーム構造の歩行器です。キャスターはついておらず、非常に安定しています。上半身の筋力や握力がある方に向いているタイプです。
【使い方】
- 腰の高さにあるグリップをつかむ
- 4脚フレーム構造の歩行器を両手で持ち上げて前方に置く
- 歩行器で身体を支えながら前進する
交互式歩行器
見た目は固定式歩行器と似ていますが、交互式歩行器は左右のフレームが動く仕様になっているタイプの歩行器です。固定式歩行器とは異なり、常にどちらかの脚部が地面に接しているので安定感があり、片足に痛みがある方でも安心して使用できます。左右のバランスがとりづらい方や、スムーズな動作が難しい方にはあまり適していません。
【使い方】
- 腰の高さにあるグリップをつかむ
- 右足を出すときに右側のフレームを出し、左足を出すときに左側のフレームを押し出して進む
前輪タイプのキャスター付き歩行器(歩行車)
歩行器の前方の2脚に小さなキャスター(車輪)が付いているタイプです。固定式歩行器を持ち上げられない方でも使えます。
【使い方】
- 後ろ側を少し持ち上げ、前輪を転がして進みます。グリップに体重がかかるとストッパーが働いて停止します。
4輪タイプのキャスター付き歩行器(歩行車)
歩行器の4脚全てに小さなキャスター(車輪)が付いているタイプです。サークル型歩行車とも呼ばれています。4輪タイプは、後ろ側を持ちあげられない方でも使え、方向転換もしやすく、より軽い力で前進できます。そのため、前に出過ぎてバランスを崩さないように注意が必要です。体力や筋力が低下した方の歩行訓練にも適しています。
【使い方】
- 四輪タイプは持ち上げることなく、そのままキャスターを転がして前進できます。
屋外で利用できる歩行器(歩行車)
4輪タイプの歩行器の中には、屋外利用に適したタイプもあります。荷物入れ付きや折り畳めるタイプ、傾斜センサーや速度調整機能付きなど、便利で安全に屋外で利用できる仕様です。
歩行器を選ぶポイント
続いて、歩行器を選ぶポイントを見ていきましょう。
身体状態に合っているか
歩行器を選ぶときは、使う人の身体状態に合ったものを選びましょう。歩行器を持ち上げる力があるか、左右の身体のバランスはどうかなどです。また、固定式歩行器を使えても、それを使うことで体力を消耗し、他のことができなくなってしまったらQOL(生活の質)は低下してしまいます。利用者の体力を考慮することも大切です。
利用場所や利用シーンに適しているか
まず検討したいのが、歩行器を使う場所・目的に合っているか、という点です。段差のないバリアフリーの室内であれば、どのタイプでも利用できます。段差が多い場所なら、無理なく使用できるタイプを確認しておきましょう。坂道が多い場所であれば、坂道をアシストしてくれるタイプや速度抑制機能がついているものが良いでしょう。また、室内で食事やお茶を運ぶ際にも利用したい場合は、トレイ付きの歩行器が便利です。
適切な高さに調節しましょう
利用者の身体状態に合わせて、適切な高さに調節することが大切です。グリップの位置が高いと腕に負担がかかりますし、低いと不自然な前傾姿勢になってしまいます。専門家に相談しながら調節しましょう。
シルバーカーとの違い
最後に、混同されやすい歩行器とシルバーカーですが、違いを見ていきましょう。
シルバーカーとは
シルバーカーとは、歩行能力が高く、歩行器を使用する必要のない方が、買い物などの外出の際に利用する手押し車のことです。疲れたときに休憩するための座面や買い物カゴの代わりにもなる収納などが付いています。
歩行器との違い
歩行器はコの字型になっていて、身体を奥まで入れてグリップに体重をかけられる構造になっていますが、シルバーカーのハンドルはまっすぐで体重をかけるつくりにはなっていません。
歩行器には、杖と同じく歩行を補助する役割がありますが、シルバーカーは歩くことに問題がない方の外出をサポートするものです。そのため、シルバーカーには介護保険の福祉用具貸与は適用されません。
シルバーカーの方が適している方
多少の痛みなどはあるものの歩行が安定している方、自分で外出をして買い物などをしたい方には、シルバーカーが適しています。
介護保険は適用されませんが、高さなどが身体に合っていないシルバーカーを長年使うと、身体状態を悪くしてしまうことがあるので、専門家のいるお店で購入するのがおすすめです。
歩行器の方が適している方
歩行が不安定でサポートが必要な方、歩行訓練を始めたばかりの方、外出先に坂道が多い、パーキンソン病で歩く速度のコントロールが難しいなどの理由で速度抑制機能が必要な方などは、歩行器の方が適しています。
利用者に合った適切な歩行器を選びましょう
杖やシルバーカーでは歩行が不安になってきた方、退院後に歩行訓練を始めたい方などをサポートするのが歩行器です。
歩行器には様々な種類のものがあります。利用する人の身体状態や利用シーンに合わせて選択し、適切な高さに調整したものを利用することが大切です。まずはケアマネジャーに相談し、歩行器をお試し利用するところからはじめましょう。
※この記事は2022年1月の情報を元に作成しています。

【経歴】
1982年生まれ。
医療福祉系学校を卒業後、約11年医療ソーシャルワーカーとして医療機関に勤務。
その後、一生を通じた支援をしたいと思い、介護支援専門員(ケアマネジャー)へ転身。
2017年1月 株式会社HOPE 設立
2017年3月 ほーぷ相談支援センター川越 開設
代表取締役と共に、介護支援専門員(ケアマネジャー)として、埼玉県川越市で高齢者の相談支援を行っている。
他に、医療機関で、退院支援に関するアドバイザーと職員の指導・教育にあたっている。
医療・介護に関する新規事業・コンテンツ開発のミーティングパートナーとしても活動。大学院卒(経営研究科)MBA取得している。
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