以前から倦怠感やめまいなどの体調不良があった義母ですが、病院でビタミンB12欠乏症と診断されました。5年ほど前に胃の手術をしたこともあり、食事には気を使って野菜を中心とした食生活をしていたので、本人はショックを受けています。
ビタミンB12とはどのような栄養成分で、なぜビタミンB12欠乏症になってしまうのでしょうか? 処方された薬で改善を目指しているのですが、日常の食事でも改善できればと思っています。気を付けるポイントを教えてください。
ビタミンB12は、若い方に比べて高齢者が不足しやすい栄養素の一つです。通常の食事をしていれば、欠乏することはあまりないのですが、高齢になるとビタミンB12が含まれる動物性食品をとらなくなってしまったり、吸収にかかわる胃や小腸に問題があったりして、欠乏してしまうことがあります。
この記事ではビタミンB12の基礎知識や摂取できる食品、摂取のポイントについてまとめています。医師の指示を優先しながら、ぜひ現在や今後の参考にしてください。
ビタミンB12について知ろう
まずは、介護のために知っておきたいビタミンB12の知識についてみていきましょう。
ビタミンB12とは
ビタミンB12は、水溶性のビタミンB群の一種です。葉酸とともに血液を造るのに大切な働きを果たし、神経機能を正常に保ちます。DNAやタンパク質の合成の調整や様々な代謝に関わり、体内時計を整えて睡眠のリズムを正常に保つメラトミンの合成にも必要な栄養素です。コバルトを含んだ赤色をしているので、「コバラミン」や「赤いビタミン」とも呼ばれています。
ビタミンB12は主に動物性食品に含まれています。食品中ではたんぱく質と結合していますが、体内に入ると胃酸やペプシンの働きでたんぱく質から分離され、胃壁細胞から分泌される内因子と結びついて腸から吸収されます。
ビタミンB12が不足する原因
ビタミンというと、緑黄色野菜に豊富に含まれているイメージがあるかもしれません。ビタミンには様々な種類のものがあり、ビタミンB12は主に動物性食品に含まれています。それほど大量に摂取しなくても健康を維持できます。菜食主義の生活を長年継続している方は不足することもありますが、一般的な食生活をしている限りは不足しにくい栄養素です。
高齢者がビタミンB12不足になってしてしまう原因は、吸収にかかわる胃や小腸にあることが多いです。例えば、胃の切除手術をした方、高齢者に多い萎縮性胃炎の方などは、食品からビタミンB12を吸収しにくいため、必要に応じて注射などで補う必要があります。
質問者さんのケースですと、5年ほど前に胃の手術をしていることとから、胃からビタミンB12を吸収しにくくなっているのかもしれません。数年間は肝臓で貯蔵されたビタミンB12が使用されるため、胃の手術などから数年後にビタミンB12欠乏症の症状が出ることがあります。詳しくはかかりつけ医にご相談ください。
高齢者の1日摂取量の目安
厚生労働省が5年に1度公表している「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、18歳以上の日本人のビタミンB12の推奨量は1日当たり2.4μg*となります。* μg(マイクログラム)は mg(ミリグラム)の1000分の1の量です。
推奨量とは、その年代のほとんどの人の必要量を満たす量のことです。高齢者の1日の推奨量は、18歳以上と変わりません。しかし、高齢になると胃酸分泌が低く、ビタミンB12の吸収がしにくい人も多くいるので、あくまでも目安として考えてください。
ビタミンB12が不足するとどうなる?
続いて、ビタミンB12が不足することで起こる症状についてみていきましょう。
貧血
ビタミンB12は、血液を造るのに大切な働きを持つ栄養素です。ビタミンB12が不足して起こる貧血は、巨赤芽球性貧血と呼ばれています。鉄分不足によって起こる鉄欠乏性貧血とは別のもので、ビタミンB12または葉酸不足によって起こるものです。めまいや全身の倦怠感、息切れ、動悸、立ちくらみなどの症状が伴います。
かつては原因がわからず治りにくかったため「悪性貧血」という名前がつけられていましたが、現在はビタミンB12や葉酸が原因とわかっているため、治りにくい病気ではありません。
手足のしびれなど
ビタミンB12は、神経機能を正常に保つ働きがあり、不足すると末梢神経障害を引き起こす恐れがあります。末梢神経とは運動神経や感覚神経、自律神経などを指し、脳や脊髄といった中枢神経から枝分かれし、身体の各部に存在する神経のことです。末梢神経障害になると手足のしびれや感覚障害、筋力低下といった症状がみられるようになります。
認知機能障害やうつ病などの症状も
他にも、記憶障害や注意障害などの認知機能障害が認められることがあります。また、ビタミンB12に限らず、ビタミンD、B1、B2、B6、葉酸などのビタミンが不足すると、うつの発症や経過に影響を及ぼすと言われています。
ビタミンB12を摂取するポイント
ビタミンB12を上手に取り入れるために知っておきたいポイントを紹介していきます。
ビタミンB12が含まれる食品
高齢になって食べる量が減っている方は、ビタミンB12を多く含む食品を知っておくと、効率よく摂取できておすすめです。では、ビタミンB12はどんな食品に多く含まれているのかを見ていきましょう。
【ビタミンB12が含まれている食品】
- しじみなどの貝類
- たらこ、さんま、ホタルイカなどの魚介類
- レバーなどの肉類
- チーズなどの乳製品
また、もやしや納豆などは、動物性食品ではありませんが、例外的にビタミンB12が含まれています。
調理のポイント
ビタミンB12は水溶性のビタミンです。熱には比較的強いので、必要に応じてしっかりと火を通して調理しましょう。光や空気によって酸化されるので、食品の保存には密閉容器がおすすめです。
もし動物性食品をあまり食べられない方や菜食主義者の方は、サプリメントを利用すると良いでしょう。
ちなみにレバーはビタミンB12だけでなく、葉酸や鉄分も豊富に含んでおり、貧血予防にもってこいの食品です。
過剰摂取の心配はありません
ビタミンB12は胃で分泌された内因子と結びついてはじめて吸収され、また肝臓には数年分のビタミンB12が貯蔵されています。一定量以上は吸収されず、多く摂取しても体外に排出されるので、過剰に摂取しても心配はないと言われています。
まとめ
ビタミンB12は、一般的な食事をしていれば不足しにくい栄養素ですが、厳格な菜食主義の方や吸収にかかわる胃や小腸に問題がある方は欠乏してしまうことがあります。心当たりのある方は、この記事で紹介したビタミンB12が含まれる食品を意識して摂取すると良いでしょう。
肝臓で数年分は貯蔵されているため、胃の切除をした数年後や食生活が変わってだいぶ経った後から、ビタミンB12欠乏症の症状が出ることもあります。
ビタミンB12が欠乏すると、貧血や末梢神経障害などの症状が現れます。気になる症状がある方は、かかりつけ医にご相談ください。
※この記事は2021年12月時点の情報で作成しています。

医師:谷山 由華(たにやま ゆか)
【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤
内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている