訪問リハビリテーションとは、その人や生活環境に合わせたリハビリテーションを受けられるサービスです。本記事では、訪問リハビリテーションの内容や利用方法を解説します。病気やケガの予後、退院直後の在宅生活への不安を解消してくれるサービスなので、ぜひ確認しておきましょう。
- 訪問リハビリテーションとは?知っておきたい基本ポイント
- 訪問リハビリテーションを受けられる対象者
- 訪問リハビリテーションを利用する目安
- 訪問リハビリテーションのサービス内容
- 訪問リハビリテーションでかかる料金
- 訪問リハビリテーションの利用方法
- リハビリテーションに拒否がある場合の対応方法
- 自宅でその人に合わせたリハビリが必要な方に
訪問リハビリテーションとは?知っておきたい基本ポイント
まずは、訪問リハビリテーションサービスの基本ポイントを確認していきましょう。
生活する場所でリハビリテーションが受けられるサービス
訪問リハビリテーションは、自宅にリハビリの専門家が訪問し、自立した日常生活の維持や介護予防、社会参加を目指して自宅でリハビリを行う介護保険サービスです。
利用者が必要なリハビリに合わせて、病院や介護老人保健施設、訪問看護ステーションから理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が訪問します。
その他にも、福祉用具や自宅の環境についてのアドバイス、家族からの介護相談などにも対応してくれます。退院直後で心身機能の低下や障害があると、日常生活に戻るのが不安になりますが、サービス提供事業者が退院前から病院と連携して、自宅での生活に戻る支援をしてくれます。
訪問リハビリのメリットと通所リハビリとの違い
自宅で生活をしている高齢者が介護保険で受けられるリハビリテーションには、訪問リハビリテーションの他に、「通所リハビリテーション(デイケア)」があります。
通所リハビリテーション(デイケア)では、施設で1~8時間過ごしながらリハビリや体操などを行います。専用のリハビリ機器がそろっていることや、昼食や入浴のサービスも受けらえることが魅力です。集団のリハビリテーションなどもあり、他の利用者との交流の機会にもなります。
一方で訪問リハビリテーションは、自宅で利用者の日常生活に沿ったリハビリテーションが受けられるのが大きなメリットです。リハビリテーションを通して、日常生活の不自由の解消を目指します。
通所リハビリテーションと訪問リハビリテーションは併用が可能です。詳しくはケアマネジャー、またはかかりつけ医にご相談ください。
訪問リハビリテーションを受けられる対象者
それでは、訪問リハビリテーションを受けられる対象者を確認しましょう。
訪問リハビリテーションが受けられる人
介護保険を利用して訪問リハビリテーションが受けられるのは、要介護1~5の認定を受けた方で、訪問リハビリテーションが必要だと医師が判断した方です。要支援1、2の方は、介護予防訪問リハビリテーションを利用できます。
有料老人ホームに入居している場合、「介護付」では利用できませんが、「住宅型」や「健康型」であれば、介護保険を利用して訪問リハビリテーションが受けられます。
訪問リハビリテーションを利用する目安
では、どんな状態になったら、訪問リハビリテーションの利用を検討したらいいのでしょうか。その目安をまとめます。
訪問リハビリテーションが必要な状態とは
下記に挙げた項目に当てはまることがあるようなら、担当のケアマネジャーやかかりつけ医、地域包括支援センターなどに相談をしてみるといいでしょう。
- 入院や体調不良、ケガなどの理由で筋力が低下した
- マヒや拘縮(関節が硬くなり動きにくい状態)がある
- 食べ物や飲み物にむせることがある
- 体の動きが悪く、日常生活や社会参加に支障が出ている
- 言葉をはっきり出すのが難しい
- 介助方法の指導や福祉用具のアドバイスが欲しい など
具体的には「歩くのが以前よりも辛そう」「ケガの治療で固定していたところの動きが悪くなった」「食器を使うのが以前よりも大変そう」「座った姿勢を保つのが難しくなった」「食事中や服薬時にむせる」「以前のように動けずに、引きこもりがちになった」「しゃべるのが大変そう/言葉が不明瞭で聞き取りづらい」「本人の身体の状態がよくわかる専門家に相談をしたい」などのときに、利用を検討してはいかがでしょうか。
訪問リハビリテーションのきっかけ
厚生労働省が公表している「平成27年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査」によると、訪問リハビリテーションが必要となった原因として最も多いのが「脳卒中」(39.1%)です。圧迫骨折を含む「骨折」(22.6%)、安静状態を長く続けていることで陥る「廃用症候群」(20.4%)が続いています。
訪問リハビリテーションのサービス内容
それでは、訪問リハビリテーションのサービス内容を見ていきましょう。
訪問リハビリテーションで受けられるサービス
訪問リハビリテーションのサービス内容は、職種ごとに異なります。
理学療法士(Physical Therapist 、PT)
運動療法を中心としたリハビリを行います。 例えば、筋力をつける運動や家の中や外で歩く練習、トイレや着替えなど日常生活に必要な動作の練習、家事動作の練習などです。
それまで歩行器を使って歩いていた方が杖で歩く練習を一緒にしたり、マヒがあっても残った能力を活かして日常生活や家事を行う練習をしたりします。
作業療法士(Occupational Therapist、OT)
工作や編み物、園芸などの趣味活動、レクリエーションなどを通して、楽しみながら身体機能の回復や維持を目指します。理学療法士と同じく、トイレや着替えなど日常生活に必要な動作の練習、家事動作の練習なども行いますが、身体と一緒に心もケアするので、認知症の方や意欲が低下している方に向いています。
言語聴覚士(Speech Therapist、ST)
脳卒中や認知症などで言葉を出しにくくなった方に、自分の思いを言葉にする練習をしたり、食事や服薬時などでむせてしまう方に、安全に食べる練習や嚥下機能(飲み込む機能)の改善を図る練習をしたりします。食べやすい食事の指導もしてくれます。
訪問リハビリテーションが受けられる回数
介護保険には、要介護度ごとに支給限度額があります。その支給限度額内であれば、20分を1回として週6回(例:20分×6回、40分×3回)まで、訪問リハビリテーションが受けられます。
訪問リハビリテーションでかかる料金
訪問リハビリテーションを利用すると、どのくらいの費用が掛かるのでしょうか。金額を見ていきましょう。
1回ごとの基本料金
訪問リハビリテーションは、事業者の種別に関わらず以下の金額となります。
1回あたり20分以上のサービスを行った場合 | 307円 |
40分のサービスについては、20分を2回行ったと考えます。
※自己負担割合が1割の方の金額です。一定の所得がある場合は、所得に応じて2割または3割負担となります。
※上記は基本的な利用料(「介護報酬の算定構造」令和3年4月改定版)です。時間帯(早朝・深夜)やサービス内容、サービス提供事業者の所在地などによって金額は異なります。詳しくは担当のケアマネジャー、もしくは市区町村の高齢者窓口や地域包括支援センターにお問い合わせ下さい。
医療保険で利用できることも
要介護認定を受けていない場合、医療保険で訪問リハビリテーションを利用することができます。ただし、要介護認定を受けている方は、介護保険が優先です。 まずはかかりつけ医、またはケアマネジャーに相談してください。
訪問リハビリテーションの利用方法
最後に、訪問リハビリテーションを利用する基本手順を確認しましょう。
訪問リハビリテーションの利用方法
要介護1~5の認定を受けている場合、利用手順は以下のようになります。
- かかりつけ医またはケアマネジャーか地域包括支援センターに相談する
- ケアマネジャーがサービス提供事業者を選び、ケアプランを作成する
- 主治医が訪問リハビリテーションの指示書をサービス提供事業者に発行する
- サービス提供事業者やケアマネジャーと話し合い、利用頻度、注意事項、目標、自宅の状況などを確認する
- サービス内容が決定したら、サービス提供事業者と契約を交わす
- 指定日時よりサービス開始
※上記は基本的な流れです。サービス提供事業者やケアマネジャー、利用者の状況によって異なります。
リハビリテーションに拒否がある場合の対応方法
家族や周囲の人の気持ちとは裏腹に、本人がリハビリテーションへの意欲を失ってしまったり、拒否したりしてしまうことがあります。
リハビリテーションへの拒否や意欲の低下はなぜ起こり、どう対応したらいいのでしょうか?
リハビリテーションの拒否はなぜ起こる
リハビリを拒否してしまう理由は、人それぞれです。例えば年齢を重ねて身体機能が低下したり、ケガや病気が原因でマヒやできないことが増えてしまったり…といった事実を受け入れるのが難しい場合もあれば、体調不良や痛みが原因のこともあります。
また、認知症が原因で、どうしてリハビリをしなくてはいけないのか理解できないこともあります。認知症の場合は拒否の仕方も、ベッドから離れない(離床拒否)から暴言・暴力まで様々です。本人も家族にはついつい甘えてしまったり、家族も感情的になってしまったりするので、リハビリの専門家に対応を任せるといいでしょう。
リハビリテーションの拒否が出た時の対応方法
それでは、拒否や意欲低下への対応方法を紹介します。
体調を確認する
体調不良や痛みが原因でリハビリテーションを拒否している場合には、原因を取り除くことが大切です。
特に認知症の方は、体調不良や痛みがあっても訴えられないことがあります。普段から食欲や尿・便の量に変化がないか、夜に眠れているか、身体のどこかをかばう動きをしていないかなどを観察しておき、リハビリテーションの専門家と共有するようにしましょう。リハビリテーションの前には体温や血圧の測定などを確認するので、そこで体調不良やケガが判明するかもしれません。
原因が体調やケガだとわかったら、早めの通院や往診を心がけましょう。
「やりたくない」という気持ちを受け止める
まずは、「リハビリをやりたくない」という本人の気持ちを受け止めましょう。気持ちを受け止めず、一方的に「どうしれやれないの」「身体が動かなくなってもいいの?」などと声をかけてしまうと、本人はもっと「リハビリをやりたくない」という気持ちを強くしてしまいます。
今の状況について、一番辛いと感じているのは本人です。難しいことだとは思いますが、その気持ちを受け止めて共感しようとするところから始めましょう。
リハビリを行っている専門職や、かかりつけ医、看護師に相談し、「第三者から話を聞いてもらう」ということも大切です。家族には言えない理由でも、他の人には話せるといったこともあります。
できるようになったことを伝える
できるようになったことに気づいたら、積極的に声に出して伝えるようにしましょう。「すごいね」「リハビリテーションの成果が出たね」などの事実や結果を伝えるだけではなく、「がんばってくれてうれしい」など、自分の気持ちを伝えるようにするといいでしょう。
実現可能なゴールを設定する
大事なのは「本人も含め、リハビリのゴールを明確化する」ということです。自宅や通所で行うリハビリは、元の身体の状態に戻るためというよりも、障害やマヒがない部分を上手に使うことを目指すことが多くなります。実現可能なゴールを設定することで、本人のやる気も高めることができます。
自宅でその人に合わせたリハビリが必要な方に
訪問リハビリテーションとは、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士といったリハビリの専門家が自宅でその人に合ったリハビリテーションを行う介護保険サービスです。医師の指示書に基づいて、退院直後や、利用者が自宅で生活する際に不自由が出ている方、通所介護に行くつもりがないけどリハビリテーションを受けたい方は、ケアマネジャーや地域包括支援センターなどに相談してください。
訪問介護事業所職員、福祉用具専門相談員。2015年から安心介護に関わっており、お話を伺った介護家族や介護職員の影響で介護職員初任者研修を取得し、訪問介護の仕事をスタートしました。2022年には介護福祉士、認知症ケア専門士の資格を取得し、自宅で介護をされる人・介護をする人、どちらも大切にしながら訪問介護の仕事を続けています。