離れて暮らす要介護の母がいます。認知症があり、妹が同居していますが、仕事で帰宅が遅いため家事をする時間が取れていないそうです。
年に数回しか帰れないのですがそのたびに、ほこりが積もった寝室を掃除しています。このままでは母が肺炎を起こするのではないかと心配ですが、私が手伝いに行ければいいのですが、家が遠いためそうもいきません。
また、昼食を用意して出かけているそうですが、電子レンジの使い方が分からなくなってしまったことからパンやおにぎりになってしまい、すっかり飽きて最近ではほとんど食べていないようです。電子レンジには使い方のメモを貼り付けたり、押すボタンの目印を付けたりしていたのですが、ペットボトルをそのまま入れて温めたことがあり、危ないのでメモも外してしまいました。
家族が同居している場合でも、訪問介護で家事サービスを受けることはできますか? また、ヘルパーに頼めること、頼めないことも知りたいです。
介護保険サービスの訪問介護でできるサービスは「生活援助」と「身体介護」、そして「通院時の乗車・降車など」です。訪問介護では、家事サービスを生活援助として提供しています。家族が同居していても、「必要」と判断された場合には訪問介護の生活援助を利用することは可能です。ただし、「生活援助」のサービスでは、ヘルパーにお願いできないこともあるので注意が必要です。
ここでは訪問介護における同居の定義や、同居家族がいても訪問介護の生活援助が利用できるケース、訪問介護で対応できることとそうでないことについて具体例を交えながら整理していきましょう
- 訪問介護サービスの目的と「生活援助」サービスの具体的な内容
- 「同居」の定義は?
- 同居家族がいても生活援助が利用できる「やむを得ない理由」とは
- 訪問介護の生活援助サービス導入にむけて
- 「やむを得ない理由」があれば同居家族がいても生活援助を受けられます
訪問介護サービスの目的と「生活援助」サービスの具体的な内容
まずは、介護保険における訪問介護サービスの目的、そして提供している生活援助サービスの具体的な内容を見ていきましょう。
訪問介護の2つの目的
介護保険における訪問介護を受けることができるのは、要介護1以上の認定を受けている方となります。利用者の中には、訪問介護員(ホームヘルパー)を家政婦と勘違いしている人がいますが、大きな違いは、できることとできないことがある点です。
訪問介護の目的は、「高齢者の自立支援」や「生活の質(QOL)の向上」の2つとなります。そのため、日常生活の中で「要介護者ができないこと」しか頼めません。
例えば、「立ってできるキッチンの流し周辺の掃除はできるけど、そのほかの場所は難しい」という方の場合、できる場所の掃除は利用者が継続し、ヘルパーはそれ以外の場所を掃除します。
この「できないこと」ですが、「やったことがないからできない」、「家事の経験がない」という理由は認められません。できる可能性がある行為をヘルパーが行ってしまうと、本人のADL(日常生活を送るために最低限必要な動作)の能力を下げ、生活の質を下げてしまう可能性があるからです。
できることは本人が継続し、ヘルパーはできないことを支援することで、生活の自立性を支援し、要介護度の進行を防いでADL・生活の質の維持・向上を目指します。
「生活援助」でヘルパーができること
次の項目のうち、本人ができないためヘルパーの支援が必要だとケアマネジャーが判断したものは、生活援助としてヘルパーが実施できます。
- 居室の掃除、ゴミ出し
- 薬の受け取り
- 生活必需品の買い物
- 日常的な食事の準備、調理、後片付け
- 洗濯 など
「生活援助」でヘルパーができないこと
次のような行為は、生活援助では行えません。ただし、介護保険サービスの時間外に、介護保険が適用されない自費サービスとしてヘルパーに依頼することは可能です。依頼する際はケアマネジャーにご連絡ください。
- 生活必需品を超える範囲(正月の飾りつけなど)の買い物
- 日常的ではない家事(洗車や草むしり、床のワックスがけ、おせちなどの特別な料理)
- 家屋の修繕やペンキ塗り
- 来客対応
- 犬の散歩 など
また、同居家族がいる場合には、以下のサービスも基本的には提供できません。
- 利用者以外の洗濯、調理、買い物
- 同居家族がいる場合は、主に利用者が使用する居室以外(居間、台所、浴室やトイレなど家族と共用している部分)の掃除
ただし、利用者の食事を準備した後のキッチンの片付け、入浴介助後の浴室掃除などは可能です。
同居の家族がいると生活援助が受けられない?
生活援助は、他者の手を借りなくてはできないことを、ヘルパーが行うサービスです。そのため、同居家族がいると原則として受けられません。排泄や入浴、移動の介助などを行う身体介護は、同居家族の有無を問わず、受けることが可能です。
しかし、「やむを得ない理由」があると判断されれば、同居家族がいても生活援助を受けられます。どの程度を「やむを得ない理由」として判断してくれるのかは、自治体による差が大きいのが現状です。 では、どのような状態が「同居」と判断されるのでしょうか。
「同居」の定義は?
同居と言っても様々な形があります。どのような暮らし方が、同居と判断されるのかをみてみましょう。
一般的同居
世帯分離をしているか、生計を別にしているかは関係なく、同一の家屋であり、玄関や台所、浴室などを共用している場合は、同居とみなされます。
二世帯住宅
玄関や居室が世帯ごとに独立している二世帯住宅の場合でも、台所や浴室などが共用している場合や、室内の扉で家族の部屋とつながっている場合には同居とみなされます。こちらも住民票上で世帯が別かどうかは考慮されません。
同敷地内の別の建物に住んでいる場合は「別居」と認識
同一敷地内の別の建物に住んでいる場合は、「別居」と認識されます。
ただし、家族が日常的に支援できると判断されれば、別居であっても家族介護が優先され、生活援助が受けられない場合があります。これは同一敷地内でなくても、近距離に住んでいる家族も同様です。この判断は自治体によって差があります。
同居家族がいても生活援助が利用できる「やむを得ない理由」とは
続いて、家族と同居をしていても「やむを得ない理由」とされる条件をみていきましょう。
同居家族が障害・疾病のため家事ができない
同居家族が、身体・知的・精神問わず障害や疾病があるため家事ができない場合には、生活援助が必要だと認められます。
ただし、障害手帳や診断書があれば、必ず生活援助が受けられるというわけではありません。同居家族ができる家事とできない家事をケアマネジャーが判断し、できない部分をヘルパーが支援していきます。
また、慢性的な疾患で状態が変わらないのか、一時的な疾病なのかによって、家事支援を受けられる期間が変わってきます。
同居者がその他の「やむを得ない理由」で家事ができない
同居家族の障害・疾病以外で「やむを得ない理由」と判断されるケースには、次のようなものがあります。
質問者さんのケースでは、同居家族である妹さんが仕事で家を空けている時間が長いため、生活援助の実施がやむを得ないと判断される可能性が高いかと思います。
「やむを得ない理由」にはあてはまらないケース
次のようなケースは「やむを得ない理由」にはあてはまりません。
- 同居家族が男性/嫁だから、家事を頼みにくい
- 同居家族が孫なので、家事をさせたくない
- 同居家族に家事経験がない
遠慮をして頼みにくい、やったことがないから「できない」という理由は、「やむを得ない理由」とは判断されません。 最近では子育てと介護が同時期になる「ダブルケア」や18歳未満でありながら家族の世話をしている「ヤングケアラー」の支援に取り組んでいる自治体も多くあります。「ここまでの条件には当てはまらないけど、乳幼児がいる」「同居している孫に家事を頼むと、部活を辞めなくてはいけなくなる」といったケースは、ケアマネジャーに相談をしてください。
訪問介護の生活援助サービス導入にむけて
最後に、訪問介護で生活援助サービスを受けるまでの流れを確認しましょう。
まずはケアマネジャーに相談
まずは、ケアマネジャーにどんな点が困っているのか、なぜ家族では解決できないのかを相談しましょう。 質問者さんのケースでは、「仕事で長時間働いているため、居室内が不衛生になりがちなので掃除をお願いしたい」「平日の日中に一人になってしまうが、電子レンジを使えないため、昼食時に調理や配膳をお願いできないか」と相談するようになります。
本人や周囲の理解も大切
訪問介護の生活援助は、家事代行サービスとは異なり、本人や同居家族ができないことを支援するサービスです。この「できないこと」の判断基準が不適切だと指導される事業所があったことから、適切に判断するようにとの注意喚起がされるようになりました。 家事の中で「できること・できないこと」、「工夫すればできること」を本人や周囲が理解して、正しく生活援助を受けるようにしましょう。
場合により介護保険外のサービス利用も検討を
介護保険では、要介護度によってひと月に使える限度額が決まっています。生活支援を入れるとその上限を超えてしまう場合や、介護保険では対応できないこと(例えば犬の世話など)を頼みたい場合には、家事代行サービスや訪問介護事業所に自費サービスを依頼する…など介護保険外のサービスの利用を検討しましょう。 また、質問者さんのケースでは、自宅に高齢者向けに栄養バランスを考えた食事を配達してくれる宅食サービスを検討しても良いかもしれません。
「やむを得ない理由」があれば同居家族がいても生活援助を受けられます
介護保険サービスの訪問介護では、本人ができない家事を支援する生活援助サービスがあります。この生活援助サービスは、同居家族がいると原則として受けられません。ただし、「やむを得ない理由」があると判断されると、同居家族がいても受けることができます。遠慮をして頼めない、同居家族は家事をしたことがないは、やむを得ない理由とは判断されないので注意しましょう。 また、同じ敷地内の別の建物や徒歩数分の所に住んでいる場合には別居と判断されますが、家族が家事を行えると判断されると生活援助サービスが受けられないことがあります。 まずはこの記事を参考に、どんな生活援助が必要なのか、それを本人や家族が本当にできないのかをよく考えて、ケアマネジャーに相談してみましょう。
※この記事は2021年11月時点の情報で作成しています。
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【経歴】
1982年生まれ。
医療福祉系学校を卒業後、約11年医療ソーシャルワーカーとして医療機関に勤務。
その後、一生を通じた支援をしたいと思い、介護支援専門員(ケアマネジャー)へ転身。
2017年1月 株式会社HOPE 設立
2017年3月 ほーぷ相談支援センター川越 開設
代表取締役と共に、介護支援専門員(ケアマネジャー)として、埼玉県川越市で高齢者の相談支援を行っている。
他に、医療機関で、退院支援に関するアドバイザーと職員の指導・教育にあたっている。
医療・介護に関する新規事業・コンテンツ開発のミーティングパートナーとしても活動。大学院卒(経営研究科)MBA取得している。
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