介護が必要になっても、住み慣れた自宅でその人らしい生活を続けさせてあげたいというときに、介護のプロが自宅を訪れ、高齢者の暮らしをサポートするのが訪問介護です。本記事では、訪問介護の内容や利用方法を解説します。在宅介護を支えるサービスなので、ぜひ確認しておきましょう。
- 訪問介護とは?知っておきたい基本ポイント
- 訪問介護を受けられる対象者
- 訪問介護で受けられるサービス内容
- 訪問介護で受けられないサービス内容
- 訪問介護でかかる料金
- 訪問介護の利用方法と選び方
- 在宅介護で不可欠な介護サービス
訪問介護とは?知っておきたい基本ポイント
まずは、訪問介護サービスの基本ポイントを確認していきましょう。
在宅で介護を受けながら暮らすためのサービス
訪問介護とは、介護の資格を持った訪問介護員(ホームヘルパー)が、利用者の自宅で排泄や入浴、食事などの介護や、掃除、調理、買い物などの支援を提供する介護保険サービスです。ホームヘルプとも呼ばれています。年齢を重ねてできないことが増えてきてからも、安全で快適に「住み慣れた自宅で生活したい」という願いを叶えることができます。また、介護施設に入居するのよりも費用が安価であることも、在宅介護のメリットです。
訪問介護の目的は、高齢者の自立支援や要介護度の進行を防ぐことです。家事代行サービスとは違い、本人ができないことを支援します。例えば、「立ってできるキッチンの流し周辺の掃除はできるけど、そのほかの場所は難しい」という方の場合、できる場所の掃除は利用者が継続し、訪問介護員(ホームヘルパー)はそれ以外の場所を掃除します。
本人ができなくなったことを、家族だけで助けるのは大変です。訪問介護を利用すれば、一人暮らしの方でも安心して生活が続けられますし、ご家族の精神的・身体的・時間的な負担の軽減につながります。
在宅の高齢者が受けられるサービスには、訪問介護の他に訪問看護、訪問リハビリ、居宅療養管理指導などがあり、訪問介護員(ホームヘルパー)、看護師、理学療法士、作業療法士、医師など様々な職種が関わります。それぞれがばらばらにサービスを提供するのではなく、ケアマネジャーを中心に連携を取り合い、多職種によるチームとして高齢者を支えます。
訪問介護をしてくれるのは介護のプロ
自宅に家族ではない人がやってくることに、不安を感じるご本人やご家族もいることでしょう。訪問介護を行う訪問介護員(ホームヘルパー)が、どんな職種なのかを知ると、不安が解消されるかもしれません。
訪問介護を行うには、「介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)」「介護福祉士実務者研修(旧ヘルパー1級)」「介護職員基礎研修課程修了者」などや国家資格である「介護福祉士」といった資格が必要です。
介護の入門資格である「介護職員初任者研修」でも、資格取得までに受ける研修時間は130時間。訪問介護員(ホームヘルパー)として活動しているのは、介護についての基本的な知識やスキルを身に着けた人々です。 就労時には、身分証明書とともに研修の修了証明書の提出が必要です。こっそりと無資格の人が働く…なんてことはできません。
訪問介護を受けられる対象者
訪問介護が受けられる人
介護保険制度の訪問介護を受けられるのは、要介護1~5の認定を受けた方です。
訪問介護が受けられない人
要介護認定を受けていない人や自立の人、要支援1、2の人です。
ただし、要支援1、2の認定を受けている方は介護保険の対象外となりますが、各市区町村が提供している総合事業の訪問型サービスを受けられます。詳しくはケアマネジャーまたは、役所の高齢者窓口や地域包括支援センターに確認をしてください。
訪問介護で受けられるサービス内容
では、訪問介護で受けられる具体的なサービス内容を見ていきましょう。
身体介護
身体介護とは、身体に直接触れて行われるサービスです。オムツ交換などの排泄介助、衣類の着替えの介助、入浴介助、食事の介助、体位交換、ベッドから車椅子への移乗などが含まれます。
一緒に買い物をしたり、室内や屋外の移動を介助したりといったサービスも身体介護に含まれます。
生活援助
調理や洗濯、掃除などの家事行う援助です。訪問介護員(ホームヘルパー)は利用者がそれまでやってきたやり方で援助を行い、できることは利用者に参加してもらいます。
清潔さを保ち、生活環境を整えることで、病気や転倒などの事故を防ぐことができます。また、定期的に生活援助に入ることで、室内の匂いや生活の変化に気づくこともできるので、生活援助は大切な介護サービスです。
通院時の乗車・降車等介助
訪問介護事業者の車両で、訪問介護員(ホームヘルパー)が通院時の乗車や降車の介助を行うサービスです。病院に到着後には、受診の手続きや移動の介助、薬の受け取りなどの支援が受けられます。
移送にかかる経費(運賃)は、利用者が負担します。運賃は介護保険の対象ではありません。
訪問介護が受けられる頻度
時間が2時間以上空いていれば、1日に複数回の訪問介護サービスを受けることが可能です。
例えば朝にオムツ交換や衣類の着替えで20分、午後に掃除などのために1時間、就寝時に口腔ケアやオムツ交換、衣類の着替えで30分など、1日に複数回の訪問介護を受けることができます。
ただし、要介護度によって介護保険が適用される金額が決まっているため、その範囲内に収める必要があります。
訪問介護で受けられないサービス内容
訪問介護は、介護保険制度に基づいた介護サービスです。ケアマネジャーが作成するケアプランに則った支援以外は受けられません。
利用者や家族が「して欲しい」と思っても、ケアプランに入れられないサービスもあります。それでは、訪問介護員(ホームヘルパー)ができないサービス内容を確認しておきましょう。
受けられないサービス
●利用者以外へのサービス
家族の分の調理や洗濯、本人が使用していない部屋の掃除など
●非日常的な家事
換気扇の掃除、窓拭きやベランダの掃除、床のワックスがけ、家具の入れ換え、修理・修繕、車の洗車、植木の水やり、草むしりなどの庭の掃除、犬の散歩などのペットの世話、おせちなど特別な料理の準備、年賀状などの代筆、来客の応対など
●金銭管理や代理人行為
公共機関への支払いや銀行でのお金の出し入れ、契約書などへの記入など
●医療行為
軟膏の塗布や血圧・体温の測定などは医療行為ではないので、訪問介護員(ホームヘルパー)が行えます。 また、医療行為でも以下のように訪問介護員(ホームヘルパー)が行えることもあります。
- 正常な爪への爪切りややすり掛け
- 歯ブラシや綿棒を使った口腔ケア
- 耳垢の除去(耳垢塞栓の除去を除く)
- ストーマ(人工肛門)のパウチに溜まった排泄物の廃棄
- 自己導尿の補助としてのカテーテルの準備や体位保持
- 市販の使い捨て浣腸器(イチヂク浣腸)を用いた浣腸
また、2012(平成24)年からは、指定研修および実地研修を修了した介護職であれば、以下の2つの医療行為ができるようになりました。
- 痰吸引:定期的に口腔内や鼻腔内、気管カニューレ内部の痰を取り除く
- 経管栄養のケア:胃ろう・腸ろう・経鼻経管栄養など
●自治体や事業所がNGとしているもの
市区町村が条例などで訪問介護員(ホームヘルパー)ができない内容を定めていたり、事業所によっては「〇センチ以上の高所での作業はNG」など、安全のために独自ルールがある場合があります。
家族が同居していると生活援助を受けられないことも
家族が同居していたり、ごく近隣に住んでいる場合には、掃除や買い物代行などの生活援助サービスが受けらえないことがあります。もちろん、一律にNGというわけではありません。
同居している家族が高齢などの理由で家事が難しい場合や、育児や仕事で多忙なため生活援助サービスが必要だとケアマネジャーが判断した場合などには、ケアプランに組み込まれることがあります。ただし、どのラインから生活援助サービスが受けられるかの判断は、市町村によって差があります。
生活援助サービスを希望しているのにケアプランに組み込まれなかった際には、ケアマネジャーに確認してみましょう。
受けられないサービスを頼むには
介護保険が適用されない内容のサービスを依頼するには、全額自費で家事代行サービスなどに申し込む必要があります。
地域のボランティア団体やシルバー人材センターなどで対応できる可能性もあるので、一度ケアマネジャーに相談してみるといいでしょう。
利用している訪問介護事業者が介護保険外サービス(自費サービス)も提供している場合には、いつも来てくれる訪問介護員(ホームヘルパー)にお願いできるかもしれません。
訪問介護でかかる料金
訪問介護を利用すると、どのくらいの費用が掛かるのでしょうか。種類ごとの金額を見ていきましょう。
1回ごとの基本料金
身体介護 | 20分未満 | 167円 |
20分以上30分未満 | 250円 | |
30分以上1時間未満 | 396円 | |
1時間以上 | 579円に30分増すごとに+84円 | |
生活援助 | 20分以上45分未満 | 183円 |
45分以上 | 225円 | |
通院等乗降介助 | 99円 |
※自己負担割合が1割の方の金額です。一定の所得がある場合は、所得に応じて2割または3割負担となります。
※上記は基本的な利用料(「介護報酬の算定構造」令和3年4月改定版)です。時間帯(早朝・深夜)やサービス内容、サービス提供事業所の所在地などによって金額は異なります。詳しくは担当のケアマネジャー、もしくは市区町村の高齢者窓口や地域包括支援センターにお問い合わせ下さい。
訪問介護の利用方法と選び方
最後に、訪問介護サービスを利用する基本手順を確認しておきましょう。
訪問介護の利用方法
要介護1~5の認定を受けている場合、利用手順は以下のようになります。
- ケアマネジャーか地域包括支援センターに相談する
- ケアマネジャーがサービス提供事業者を選び、ケアプランを作成する
- ケアマネジャーやサービス提供事業者と話し合い、サービスの内容や利用頻度、注意事項を確認する
- サービス内容が決定したら、サービス提供事業者と契約を交わす
- 指定日時よりサービス開始
※上記は基本的な流れです。サービス提供事業所やケアマネジャー、利用者の状況によって異なります。
訪問介護事業所の選び方
安心して訪問介護を受けるためには、信頼できる訪問介護事業所を選ぶことが大切です。
事業者は介護サービスを行う前に、サービスの内容や料金などの必要なことが書かれた「重要事項説明書」を渡して説明し、利用者の同意をもらわなければいけません。その事業者のことやサービス内容、料金(キャンセル時も含む)について、わかりやすく説明してくれる事業者を選ぶといいでしょう。
また、日曜日や年末年始、夜間帯などの利用したい時間帯に事業所が開いているのか、サービス日時を変えたいときに希望を聞いてもらえるか、緊急時や相談したいときの連絡先を確認しておくことも大切です。
在宅介護で不可欠な介護サービス
介護の資格を持った訪問介護員(ホームヘルパー)による訪問介護は、高齢者が住み慣れた自宅で、その人らしい生活を安全に続けるために不可欠な介護サービスです。介護をする方にとっても、身体的負担や介護にかかる時間も軽減することができます。まずはどんなことに困っているのかを、ケアマネジャーに相談してください。
訪問介護事業所職員、福祉用具専門相談員。2015年から安心介護に関わっており、お話を伺った介護家族や介護職員の影響で介護職員初任者研修を取得し、訪問介護の仕事をスタートしました。2022年には介護福祉士、認知症ケア専門士の資格を取得し、自宅で介護をされる人・介護をする人、どちらも大切にしながら訪問介護の仕事を続けています。