多くのメリットがある入浴。思うように体が動かなくなっても、自宅のお風呂が使えなくても、入浴をあきらめる必要はありません。本記事では、「自宅で入浴したい・させたい」という願いをかなえる訪問入浴介護について、サービス内容や利用方法を解説していきます。
目次
- 訪問入浴介護とは?知っておきたい基本ポイント
- 訪問入浴サービスを受けられる対象者
- 訪問入浴サービスのメリット
- 訪問入浴サービス当日の流れ
- 訪問入浴介護でかかる料金
- 訪問介護の利用方法
- 「お風呂に入る」を諦めないで
訪問入浴介護とは?知っておきたい基本ポイント
まずは、訪問入浴介護サービスの基本ポイントを確認していきましょう。
誰でも専用浴槽で入浴できるサービス
訪問入浴介護とは、寝たきりや自宅のお風呂が狭いなどの事情で、入浴が困難な方のための介護保険サービスです。入浴することで利用者の身体を清潔に保つだけではなく、心身機能や生活機能の維持や回復を目指します。
要介護1~5の方の自宅に、サービス提供事業者が専用の簡易浴槽を持ち込み、2人の介護職員と1人の看護職員(計3人)が入浴の介護を行います。要支援1、2の方でも、特定の事情のある人は介護予防訪問入浴介護の利用が可能です。要介護の方と同様に、サービス提供事業者が専用の簡易浴槽を自宅に持ち込み、1人の介護職員と1人の看護職員(計2人)で入浴の介護を行います。
天然温泉を使っていたり、春にはさくら、夏には桃、秋には米ぬか…など、入浴剤で季節感を演出したりと、入浴を楽しむための工夫をしているサービス提供事業者も少なくはありません。
また、介護保険は適用されませんが、終末期の方の「お風呂に入りたい」という最期の願いを叶えるために訪問入浴サービスを利用する方もいます。
訪問入浴以外の入浴サービスについて
訪問入浴介護以外にも、介護保険が適用される入浴サービスにはこんなものがあります。
●デイサービスやデイケア
デイサービスやデイケアで、介護職員の介助を受けながら入浴する方法です。介護のための設備が整っているので、安全で快適に入浴できます。
●訪問介護や訪問看護
訪問介護員(ホームヘルパー)や看護師に介助してもらいながら、自宅の浴槽で入浴する方法です。
お風呂に手すりを設置したり、シャワーチェアや滑り止めマットなどの福祉用具を利用したりして、自宅で安全に入浴ができるように環境を整える必要があります。
訪問入浴サービスを受けられる対象者
訪問入浴サービスが受けられる人
訪問入浴介護を利用できるのは、要介護1~5の認定を受けていて、医師から入浴の許可が出ている方です。ストーマや人工呼吸器などの医療機器を使用していても利用できます。
要支援1、2の方でも、自宅にお風呂がなかったり、感染症によりデイサービスなどの施設のお風呂が使えなかったりといった事情のある方は、介護予防訪問入浴介護の利用が可能です。
訪問入浴介護には、およそ畳2枚分のスペースが必要です。「2階で入浴したいけど、階段が狭い」「訪問入浴車の駐車スペースがない」「高層階に住んでいる」などの様々な住宅事情に対応できる事業者も少なくはないので、まずは担当のケアマネジャーに相談してみるといいでしょう。
訪問入浴サービスが受けられない人
要介護認定を受けていない方や自立の方は、介護保険を利用した訪問介護入浴サービスを利用できません。
要支援1、2の方は、事情により介護予防訪問入浴介護の利用が可能です。
訪問入浴サービスのメリット
清潔を保つためだけであれば、浴槽につかる必要はありません。それではなぜ、訪問入浴介護は必要とされているのでしょうか。 入浴や訪問入浴介護のメリットを見ていきましょう。
入浴のメリット
入浴には、こんなメリットがあります。
- 皮膚が清潔になり、細菌感染が予防できる
- 血液やリンパの循環が促進される
- 新陳代謝が促進し、体内の老廃物が排泄されやすくなる
- 心臓や胃腸、腎臓などの臓器の機能が高まる
- 浮力で身体の重さが軽減される
- ゆったりとリラックスできる
また、身体を清潔に保つことで、人付き合いがスムーズになったり、外出するきっかけになったりと、QOL(生活の質)の向上につながります。
訪問入浴介護のメリット
介護職員と看護師が自宅にやってきて、持ち込んだ簡易浴槽で入浴できる訪問介護入浴のメリットにはこんなものがあります。
- 移動や後片付けにかかる負担が少ない
- 家族以外との会話を楽しめる
- 入浴前に看護師が体調を確認するので、体調が変化しやすい人にも安心
利用者にとっても、介護をしている家族にとってもメリットの大きいサービスです。
訪問入浴サービス当日の流れ
それでは、訪問入浴介護の当日の流れを見ていきましょう。
用意するもの
事前に用意しておくものは、入浴後の着替えと印鑑です。 ご家族が同居していない場合には、訪問介護サービスの際に訪問介護員(ホームヘルパー)に準備してもらいます。預かり証を取り交わし、鍵を預けておくことも可能です。
3人のスタッフの手で入浴
当日は3人のスタッフ(介護職員2人と看護職員1人)が、必要な機材を積み込んだ訪問入浴車に乗ってやってきます。 要支援1、2の方は、2人のスタッフ(介護職員1人、看護職員1人)の手で入浴となります。
サービス当日の流れ
1.入浴前の健康チェック
入浴の前に、看護師が血圧や体温、脈拍などのバイタルを確認し、安全に入浴できるかを確認します。
2.入浴準備
介護職員が浴槽などの機材を搬入し、利用者の状態に適した湯量や温度でお湯を溜めます。
3.脱衣のお手伝いと浴槽への移動
4.入浴
肌を傷つけないように優しく洗髪や洗顔、洗身を行います。その後はゆったりとお湯につかります。
5.更衣のお手伝いとベッドへの移動
6.入浴後の健康チェック
最後に、看護師が血圧や体温、脈拍などのバイタルを確認し、体調の変化がないかを確認します。必要に応じて、軟膏の塗布や褥瘡(じょくそう)の処置を行います。
7.片づけ
介護職員が使用した機材を洗浄・消毒して片づけて終了です。掃除道具を用意する必要はありません。
所要時間
準備から片付けまでにかかる時間は、45分から50分程度です。そのうち、浴槽につかっている時間は10分程度となります。
入浴できないことも
入浴前の健康チェックの結果によっては、全身浴を中止して足浴や蒸しタオルでの清拭が行われます。
訪問入浴介護でかかる料金
訪問入浴介護を利用すると、どのくらいの費用が掛かるのでしょうか。種類ごとの金額を見ていきましょう。
1回ごとの基本料金
要支援1、2の方 | 全身浴 | 852円 |
清拭または部分浴 | 766円 | |
要介護1~5の方 | 全身浴 | 1,260円 |
清拭または部分浴 | 1,134円 |
※自己負担割合が1割の方の金額です。一定の所得がある場合は、所得に応じて2割または3割負担となります。
※上記は基本的な利用料(「介護報酬の算定構造」令和3年4月改定版)です。時間帯(早朝・深夜)やサービス内容、サービス提供事業所の所在地などによって金額は異なります。詳しくは担当のケアマネジャー、もしくは市区町村の高齢者窓口や地域包括支援センターにお問い合わせ下さい。
訪問介護の利用方法
最後に、訪問入浴介護サービスを利用する基本手順を確認しておきましょう。
訪問入浴介護の利用方法
利用手順は以下のようになります。
- ケアマネジャーか地域包括支援センターに相談する
- ケアマネジャーがサービス提供事業者を選び、ケアプランを作成する
- サービス提供事業者が利用者の主治医にサービス提供の許可を確認する
- ケアマネジャーやサービス提供事業者と話し合い、利用頻度、注意事項を確認する
- サービス内容が決定したら、サービス提供事業者と契約を交わす
- 指定日時よりサービス開始
※上記は基本的な流れです。サービス提供事業所やケアマネジャー、利用者の状況によって異なります。
サービス開始前には、サービス提供事業者が利用者の自宅を訪問し、コンセントが利用できるか、給水排水ができるか、スペースは十分か…など、入浴する部屋の下見をします。契約と同時に行われることもあれば、別の日に訪問入浴を行うスタッフがやってくることもあります。
訪問入浴介護の頻度について
訪問入浴介護はどのくらいの頻度がいいのかは、人それぞれです。介護保険制度には、要介護度によって支給限度額があるので、その範囲内に収めることを考えると、週に1、2回になることが多いでしょう。
初めは週2回にして、どうしても疲れてしまうから週1回に変更、汚れが気になるから週3回に変更…など、その人に合わせた頻度を選ぶことが大切です。
「お風呂に入る」を諦めないで
自宅のお風呂での入浴が難しい方や感染症のある方でも利用できる訪問入浴介護は、利用者の清潔さを保ち、心身機能や生活の質の維持・向上を目指す介護サービスです。蒸しタオルでの清拭やシャワー浴ではなく、お風呂に入ることには様々なメリットがあります。介護をする方にとっても、移動や入浴にかかる負担が軽減でき、準備も簡単です。「お風呂に入れてあげたい!」と感じている方は、まずはケアマネジャーに相談してください。

訪問介護事業所職員、福祉用具専門相談員。2015年から安心介護に関わっており、お話を伺った介護家族や介護職員の影響で介護職員初任者研修を取得し、訪問介護の仕事をスタートしました。2022年には介護福祉士、認知症ケア専門士の資格を取得し、自宅で介護をされる人・介護をする人、どちらも大切にしながら訪問介護の仕事を続けています。