父の嚥下のことで相談です。飲みこむ力が弱くなってきたようで、他の家族と同じものを食べたいという希望があるのですが、食事の度に軽くむせていて心配です。
ケアマネジャーに相談をして、デイケアに通って嚥下訓練をすることになりました。あわせて、自宅でも何かできたらいいなと思っています。
自宅でできる嚥下体操があれば教えてください。
飲みこむ力が弱くなってきたときに、専門家によるリハビリに加えて、自宅でも嚥下体操をすることは大切です。食事の前の嚥下体操で、飲食物が気管に入る誤嚥を防ぐこともできます。
この記事では、自宅でできる嚥下体操と飲みこむ力が弱くなっている方が食事の時に気を付けたいポイントについてまとめています。ぜひ、現在や今後の生活の参考にしてください。
- 嚥下障害のリハビリテーションを知ろう!
- 嚥下体操をやってみよう!
- 飲みこむ力が弱くなっている方が気を付けたいポイント
- 自分で食べてもらうことも大切です
- 食事にかける時間を決めましょう
- 適切な口腔ケアを
- 食事の形態を見直しましょう
- まとめ
嚥下障害のリハビリテーションを知ろう!
まずは、嚥下障害のリハビリテーションについての基礎知識をみていきましょう。
嚥下障害のリハビリテーションとは
嚥下(えんげ)とは、飲食物を飲みこむ動作のことです。嚥下には舌や歯、のど、食道などさまざまな器官が関わっていて、このいずれかに異常が生じて、飲みこみが悪くなることを「嚥下障害」といいます。高齢者の嚥下障害では、飲みこむ動作をする際に使う筋肉や神経に異常が生じて、飲みこみが悪くなることが多いです。嚥下障害によって飲食物が気管に入ると、食事中にむせて食べられなくなってしまったり、誤嚥性肺炎を引き起こしたりしてしまいます。
嚥下機能の維持や低下した機能を改善させるためには、リハビリテーションが効果的です。介護保険サービスでは、デイケアや訪問リハビリで言語聴覚士などの専門家によるリハビリを受けられます。詳しくはケアマネジャーにご相談ください。
嚥下体操とは
嚥下に関連する筋肉は、他の筋肉と同様に使わないと動きが悪くなります。休んでいた筋肉の動きを、食事の前にスムーズにする準備体操が嚥下体操です。
嚥下体操は食前に行うのがおすすめです。それ以外の時間にも行えば、嚥下に関連する器官の動きを改善し、筋力アップも目指せます。がんばりすぎて疲れないように、1回3分以内と決めておくと良いでしょう。既に誤嚥がみられる方は、嚥下体操によって病状が悪化してしまうことがあるので、事前に医師やリハビリの専門家に相談してください。
嚥下体操の効果
嚥下体操には、食事の前に行うことで、嚥下に関連する器官や筋肉の動きがスムーズになる、唾液が出やすくなるといった効果があります。
また、飲食物が気管に入ってしまっても、しっかりと咳をして気管に入った食べ物を吐き出せるようになる、発音が改善する、表情が作りやすくなるといった効果も期待できます。
嚥下体操をやってみよう!
続いて、自宅でできる嚥下体操を紹介します。
食べる前の準備体操に!藤島式嚥下体操
食事の前にぜひ行いたいのが、「藤島式嚥下体操」です。嚥下とは関係のない動きもあるように思えますが、首や肩を動かすことで胸の動きがスムーズになり、万が一に誤嚥してしまった時に咳を出しやすくなる、誤嚥しやすい姿勢を防ぐことができるなどの効果があります。
次のような手順で行います。
- 深呼吸を繰り返す
- 首を回す
- 首を左右に倒す
- 肩を上げ下げする
- 両手を上げて伸びをする
- 頬を膨らませたりしぼめたりする(2~3回ほど繰り返す)
- 舌で左右の口角に触れる(2~3回ほど繰り返す)
- 息がのどに当たるように強く吸って止め、3秒後に強く吐く
- パパパ、ララララ、カカカカとしっかり発音しながらゆっくり言う
- 深呼吸を繰り返す
医師やリハビリ専門家の指導を受けたうえで、無理のない範囲で毎食前を中心に1日3回以上挑戦してみましょう。
食事の前にこれだけでも!パタカラ体操
「パタカラ体操」は、「パ」「タ」「カ」「ラ」をそれぞれ5文字3回ずつ発音します。食事の前に、「パパパパパ、タタタタタ、カカカカカ、ラララララ」と3回発音することで、口や舌の動きがスムーズになって、食事がしやすくなります。
この体操のポイントは、「パ」「タ」「カ」「ラ」という発音を意識することです。
「パ」は、しっかりと口を閉じて発音しましょう。食べこぼしを予防します。
「タ」は、舌を上あごにくっつけて発音しましょう。舌の筋肉を動かします。
「カ」は、喉の奥に力を入れて、一瞬息を止めて発音するように意識しましょう。喉の奥を動かして誤嚥を予防します。
「ラ」は、舌を丸める動きを意識して発音しましょう。舌を動かして食べ物を喉の奥に運びやすくします。
大きな声で一文字ずつはっきりと発声することで効果が高まります。また、童謡や好きな歌の歌詞を「パ、タ、カ、ラ」に変えて歌うのもおすすめです。
江戸川区公式チャンネルでは、手の動きを組み合わせたパタカラ体操をふくむ、健口体操を紹介しています。こちらもあわせてご参考ください。
飲みこむ力が弱くなっている方が気を付けたいポイント
最後に、飲みこむ力が弱くなっている方が気を付けたいポイントを確認していきましょう。
食事の姿勢や環境に気を付けましょう
正しい姿勢で食事をとることで、誤嚥を予防することができます。食事の際には、次のチェックポイントを確認して、正しい姿勢と環境で食べるようにしましょう。
【イスや車いすに座って食べる場合】
- 両足の足裏が床や足台にしっかりついている
- 少し前かがみの姿勢になっている(半身マヒがある方は、マヒがある方の腕をテーブルの上に置くと、姿勢を保ちやすくなります)
【ベッド上で食べる場合】
- ベッドのギャッチアップが30~60度になっている
- 首が後ろに反らないように、頭に枕やクッションを置いている
- 膝は軽く曲がった状態で、膝下にクッションなどを置いてずり落ちないようになっている
-
足の裏にクッションなど置いて、足がずり下がらないようになっている
【共通】
- あごは引き気味(あごが上がると誤嚥を起こしやすくなります)
- しっかり目を覚ましている
- テレビや会話を避け、食事に集中できる環境が整っている
自分で食べてもらうことも大切です
介助をする人とペースが合わないことで、誤嚥を起こしてしまうことがあります。誤嚥予防と持っている機能を維持するためにも、できるだけ自分で食べてもらうことも大切です。
今まで使っていた食器が使いにくいようであれば、「自助食器」や「ユニバーサル食器」と検索すると、滑りにくい、軽い、握りやすいなどの工夫が施された食器がたくさん出てきます。詳しくは、福祉用具の専門員やケアマネジャーに相談してください。
食事にかける時間を決めましょう
食事に時間がかかると疲れて誤嚥を起こしやすくなります。1回の食事は30~45分で終わらせるようにして、食事量が足りない場合は栄養補助食品やおやつなどで補いましょう。かかりつけ医や訪問看護師、言語聴覚士などと相談し、「食事中に2回ムセたら止める」など、中止の目安を決めておくと安心です。食事の時間を決めて、1日のリズムを作ることも大切です。
適切な口腔ケアを
口腔ケアで口の中を清潔に保つことで、飲食物や唾液と一緒に飲みこんでしまう細菌を減らし、誤嚥性肺炎のリスクを下げることができます。睡眠中にも唾液を誤嚥してしまうことがあります。寝る前の口腔ケアも忘れずに行いましょう。
食事の形態を見直しましょう
ご飯はどの程度柔らかくしたほうがいいのか、飲み物のとろみはどれくらい付けたほうがいいのか…など、誤嚥を防ぐためには、その人に合わせた食事の形態に調節することが大切です。
飲みこみやすい工夫をした食事を、嚥下食と呼びます。家族の食事とは別に用意するのが大変な方は、市販されているレトルトや冷凍食品の嚥下食も取り入れてみると良いでしょう。
まとめ
飲みこむ力の維持や改善のために行う嚥下体操は、毎食前に行うことが大切です。今回は、介護施設などでもよく行われている藤島式嚥下体操とパタカラ体操を紹介しました。口の周りの筋肉を動かすことは、嚥下機能の改善のほか、いびきや口臭の改善、顔のたるみや小顔効果も期待できるので、高齢者だけではなく誰にでもメリットがあります。
家族で一緒に、食事の前の嚥下体操に挑戦してみてはいかがでしょうか。
※この記事は2022年1月の情報を元に作成しています。

医師:谷山 由華(たにやま ゆか)
【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤
内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている