現在入院中の87歳の母ですが、退院後は車いすでの生活になります。家の中は要支援1になったことをきっかけに10年前に住宅改修をしてあるので大丈夫なのですが、庭から道路に出るまでの30センチほどの段差をどうしたらいいのかで悩んでいます。
介護用スロープを設置すれば88歳の父でも介助できますか? また、介護用スロープ以外に方法はありますか? 教えてください。
30センチほどの段差というと、10センチほどの階段が3段分ですね。元気なうちには気になりませんが、車いすの方にとってはとても大きな段差です。介護用スロープを設置して段差を緩やかな斜面にすれば、88歳のお父様でも、無理なく介助できるようになります。
この記事では、介護用スロープの基礎知識と介護用スロープ選びのポイント、介護用スロープ以外の選択肢を中心に解説していきます。ぜひご参考ください。
介護用スロープとは
まずは、介護用スロープの基礎知識についてみていきましょう。
介護用スロープの役割
足腰が弱っている人、特に車いすなどの車輪のついた福祉用具を使用している人は、わずかな段差で転倒してしまったり、段差があることで移動が困難になったりしてしまいます。屋内外の段差を解消し、高齢者が安全に暮らせる環境を整えるために選択されているのが介護用スロープです。
介護用スロープには2種類あります。ひとつは質問者さんのようなケースで使用される、玄関の上がり框(かまち)やバルコニーなどの大きな段差を解消するものです。設置に工事を伴うものと、工事を伴わないものがあります。
もうひとつは、屋内の廊下と居室の間にある数センチほどの段差などを解消する、への字型の段差解消スロープです。つま先が上がらずすり足状で歩くことが多い高齢者は、1~2センチほどの段差でも転倒してしまう危険性があります。への字型の段差解消スロープは、段差を解消してつまづきを防止し、車いすでの移動を楽にするためのものです。設置に工事は伴いません。
介護用スロープのメリット
それでは介護用スロープのメリットを見ていきましょう。
●転倒リスクを軽減できる
介護用スロープで段差を解消することで、高齢者が転倒するリスクを軽減できます。転倒して骨折などの大ケガをしてしまうことがきっかけで、介護度が上がる危険性も。リスク軽減に介護用スロープの設置は大変有効です。
●車いすや歩行器でも移動しやすくなる
介護用スロープを設置して段差を解消すれば、車いすや歩行器といった車輪のついた福祉用具を使用している方でも安全に移動できますし、介護する方の負担も軽減できます。
●日常の活動量がアップする
段差によって移動が困難になると、行動範囲が狭まって日々の活動量が減少してしまいます。すると心身機能が衰え、認知症や要介護度が進行してしまう危険性があります。介護用スロープを設置して段差を解消することで、足腰が弱い方、車いすを使用している方、介護者が高齢の方でも移動しやすくなり、行動範囲が広がって日常の活動量アップに役立ちます。
介護保険が適用される2つのケース
介護用スロープでは、介護保険が適用されるケースが2つあります。
●福祉用具貸与が適用されるケース
福祉用具貸与というのは、介護保険を利用して介護用スロープや車いすなどの介護用品をレンタルできるサービスのことです。原則1割(一定以上の所得がある方は2割または3割)の自己負担額で使用することができます。対象となるのは、在宅で生活をしている要支援1以上の方です。設置工事を伴わない介護用スロープが、福祉用具貸与の対象となります。
●住宅改修が適用されるケース
段差解消のために住宅改修工事をして介護用スロープを設置する場合は、介護保険の給付対象となります。介護用スロープ設置以外の改修工事も含めて20万円までは、原則9割(一定以上の所得がある方は8割または7割)が介護保険で給付されます。対象となるのは、在宅で生活をしている要支援1以上の方です。
例えば、介護用スロープとその他の住宅改修工事に合計25万円かかった場合、給付対象となるのは20万円分なので支給額は18万円(1割負担の場合)。残りの5万円は全額自己負担となります。
住宅改修の給付は原則として1回ですが、転居をした場合や要介護度が3段階以上上がった場合には、再び申請することができます。質問者さんのケースでは、要支援1の時に一度住宅改修を利用しているとのことですが、要介護3以上の認定を受けていれば再び住宅改修の給付を受けることが可能です。
介護用スロープの選び方
続いて、介護用スロープの選び方を解説していきます。
介護用スロープに必要な長さ
介護用スロープは、段差に対して長いほど傾斜が緩やかになります。スロープが短いと急こう配になり、せっかく介護用スロープを設置しても、安全に使用できない可能性があります。それでは質問者さんのケース(30センチの段差)を例に、必要な長さを見ていきましょう。
120センチのスロープ=傾斜角度15度
段差の30センチの4倍の長さのスロープでは、傾斜は15度の急こう配となります。
この場合…
- 電動車いすの場合→走行可能。ただし、登り切った際に電動カートの底がぶつかる危険性があります
- 介助式車いすの場合→介助者は勢いをつける必要があります。介助者に力が無い場合は注意が必要です
- 自走式車いすの場合→自走は難しいでしょう
180センチのスロープ=傾斜角度10度
段差の30センチの6倍の長さのスロープでは、傾斜は10度の緩やかな斜面となります。
この場合…
- 電動車いすの場合→走行可能です
- 介助式車いすの場合→介助者も比較的楽に介助できます
- 自走式車いすの場合→高齢者の方では自走は難しいでしょう
360センチのスロープ=傾斜角度5度
段差の30センチの12倍の長さのスロープでは、傾斜は5度の非常に緩やかな斜面となります。
この場合…
- 電動車いすの場合→走行可能です
- 介助式車いすの場合→介助者も楽に介助できます
- 自走式車いすの場合→ほとんどの方が自走できます
介護用スロープは、一般的に傾斜角度が10度未満になる長さが推奨されています。
介護用スロープを選ぶポイント
介護用スロープは、前述のように段差の大きさによって安全な角度が付けられるものを選びましょう。また、車いすで安全に使用するために十分な幅があるか、電動車いすの方は耐荷重を確認してください。
設置場所や使い方(持ち運びが必要か)などに応じて、適切な材質のものを選ぶことも大切です。詳しくは福祉用具専門相談員などにご確認ください。
介護用スロープを設置する際の注意点
介護用スロープを設置する際には、安全に停止できるかどうかを確認する必要があります。例えば、スロープを降りたらすぐに道路に出てしまうようでは、万が一停止できなかった時に重大な事故につながってしまうかもしれません。
また、介護用スロープを登りきってすぐに出入り口がある場合には、斜面上で停止して扉を開ける必要があり危険です。安全を確保するためのスペースについても十分に考慮しましょう。
介護用スロープ以外の選択肢
段差を解消する手段には、介護用スロープのほかにも、次のような選択肢があります。住宅の状況、本人や介助者の体力などを考慮して、決めると良いでしょう。
段差解消機
テーブル面が上下することで、車いすに座ったまま段差を解消して移動を助ける機器です。工事を伴わない据え置き式とピット(溝)を工事して固定する設置式があります。主に電動のですが、足踏み式などの手動のものもあります。工事を伴わないものは移動用リフトとして、介護保険の福祉用具貸与の対象です。
スロープを設置するのに十分な距離が取れない時や、玄関の上がり框が扉の正面ではなく左右にあるためスロープを設置できない時などに便利です。
介助で段差を乗り越える
数人で車いすを持ちあげて段差を乗り越える、一度要介護者に車いすを降りてもらい介助者が支えて段差を乗り越えるなどの方法です。危険が伴いますし、介助者の負担が大きいのでおすすめできません。
介助する人にもされる人にも適切な介護用スロープを
車いすを使用している方だけではなく、足腰の弱った高齢者にとって、屋内外の段差の解消は、安全に生活するためにも日常の活動量を保つためにも大切です。介護用スロープは、段差を緩やかな斜面にするものです。工事をして取り付けるタイプは介護保険の住宅改修が、工事を伴わないタイプは福祉用具貸与が適用されます。
スロープは長さによって斜面の角度が変わってくるため、介助する人にもされる人にも適切な長さを選び、幅や耐荷重、材質もしっかり検討しましょう。スロープを設置するスペースが取れない方には、段差解消機(移動用リフト)もあります。
※この記事は2022年2月の情報を元に作成しています。

【経歴】
1982年生まれ。
医療福祉系学校を卒業後、約11年医療ソーシャルワーカーとして医療機関に勤務。
その後、一生を通じた支援をしたいと思い、介護支援専門員(ケアマネジャー)へ転身。
2017年1月 株式会社HOPE 設立
2017年3月 ほーぷ相談支援センター川越 開設
代表取締役と共に、介護支援専門員(ケアマネジャー)として、埼玉県川越市で高齢者の相談支援を行っている。
他に、医療機関で、退院支援に関するアドバイザーと職員の指導・教育にあたっている。
医療・介護に関する新規事業・コンテンツ開発のミーティングパートナーとしても活動。大学院卒(経営研究科)MBA取得している。
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