介護保険サービスの費用を利用者がいったん全額支払い、その後自治体に申請することで、9割から7割の払い戻しを受けるシステムです。 主に、介護認定の申請をしてから認定されるまでの間に介護保険サービスを利用した場合に使われますよ。
「償還払い」とは?どのような支払い方式かチェックしよう
介護サービスや医療サービスの給付方法のひとつに「償還払い(しょうかんばらい)」という方式があります。
普段はあまり耳にすることがない言葉だと思いますが、介護サービスのなかには償還払いを利用するものがあるので、知識として知っておくと役立ちます。
まずは、償還払いの基本的な仕組みから確認していきましょう。
「償還払い」とは、費用の一部を払い戻してもらうこと
「償還払い」とは、支払った費用の一部について払い戻しを受けることです。介護サービスの場合、利用者が費用の全額をいったん支払い、その後に自治体で必要な手続きを経て、給付金が払い戻される仕組みです。
介護保険が適用されるサービスの自己負担額は原則1割(一定以上の所得がある場合は、所得に応じて2割または3割)負担ですから、9割(一定以上の所得がある場合は、所得に応じて8割または7割)が後で払い戻されます。
例えば、1割負担の方が3万円の介護サービスを利用して償還払いをするとしたら、まず3万円を事業者に支払い、手続き後に9割分の27,000円が戻ってきます。
なお、各種介護保険サービスを利用するには、事前に要支援・要介護認定を受けておく必要があります。
支給限度額を超える分は自己負担
償還払いの支給額には上限があります。支給限度額は介護サービスの内容によって異なりますが、例えば介護用品を購入する「福祉用具販売」の場合、支給限度額は1年間(4月から翌年3月まで)で10万円までとなっています。
なお、上限の10万円は商品やサービスの購入費用のことで、支給額ではありません。介護用品を1年間で15万円分購入した場合、保険が適用されるのは10万円分で、そのうち9万円が払い戻されます。ですが、超過分である5万円は自己負担となります。
「受領委任払い」とはどう違う?
自治体によっては、償還払いのほかに「受領委任払い」を行なっているところもあります。
償還払いは利用者がいったん全額を支払いますが、受領委任払いは自己負担分のみを事業者に支払います。介護保険でまかなわれる金額については、事業者が市区町村に申請することで、追って補填される流れとなっています。
償還払いは一時的な自己負担が大きい場合がありますし、払い戻しまで2ヶ月程度かかります。受領委任払いであれば、本来は利用者が行なう介護保険の請求を事業者に委任することによって、負担を減らせるようになります。
福祉用具販売や住宅改修は原則的に償還払いですが、自治体によっては受領委任払いが選べるのでお住まいの市区町村のホームページ等を確認しましょう。
償還払いが適用される主な費用
では、どのような介護サービスに償還払いが適用されるのでしょうか。主なものをご紹介しましょう。
福祉用具購入費
先ほども触れましたが、福祉用具販売サービスの購入費は償還払いとなります。 介護が必要な方の生活をサポートする介護用品は多岐にわたり、多くは福祉用具貸与というサービスでレンタルできます。ですが、以下の品目については衛生面や耐久性の懸念があることから、利用者が買い取ることになっています。
- 腰掛け便座
- 自動排泄処理装置の交換可能部分
- 入浴補助用具(浴槽用手すり・入浴用いす・浴槽用いす・入浴台など)
- 簡易浴槽 ・移動用リフトのつり具の部分
償還払いで払い戻しを受けるには、都道府県から指定されている事業者から購入する必要があります。
住宅改修費
介護が必要な方のために住宅を改修した費用も償還払いの対象です。上限20万円までの改修であれば、原則1割の自己負担で介護に適した住宅環境に整備することができます。
ただし、どのようなリフォームにも介護保険が適用されるわけではありません。給付対象となる改修工事は、手すりの取付けや段差の解消、扉や便器の取替えなどに限られます。予定している改修工事が保険適用となるかは、ケアマネジャーや自治体の窓口に問合せましょう。
なお、住宅改修費はまとまった金額になることが多いので、受領委任払いが利用できる市区町村が多いです。
高額介護サービス費
介護保険サービスの利用額が上限をオーバーしてしまった場合、申請することによって超過分が払い戻されるのが「高額介護サービス費」という制度です。利用者負担の上限額は所得や世帯の経済状況によって異なりますが、一般世帯は44,400円となっています。
高額介護サービス費も償還払いなので、上限をオーバーした分も含めていったん支払う必要があります。
要介護認定の前に利用した介護サービス費
利用者の介護度が正式に認定される前に、何らかの介護サービスを利用した場合も償還払いが適用されます。
原則的に、介護サービスを利用して給付を受けるには、まず要介護・要支援の認定を受けなければなりません。ですから、認定を受ける前に指定事業者から福祉用具をレンタルしたり、訪問介護を利用したりした場合は、全額利用者が支払うことになります。
追って償還払いを申請すれば、9割(所得によっては7割または8割)が払い戻されます。
ケアプランを作成せずに利用した介護サービス費
介護サービスを利用する際は、あらかじめケアプランに組み込む必要がありますが、急遽サービスを利用することになって作成が間に合わない場合があります。このようなケースについても、いったん全額自己負担し、償還払いを申請することによって払い戻しを受けられます。
上記のほか、介護保険被保険証を提示せずに介護サービスを利用した場合や、介護保険料を滞納してしまった場合なども償還払いの対象となります。
事前に確認しておこう!償還払いの手続き方法
さいごに、償還払いの基本的な手続き方法をチェックしましょう。
一般的な手続きの流れ
償還払いは、お住まいの市区町村の窓口に必要書類を添えて申請します。申請までの基本的な流れは以下のとおりです。
- 指定事業者から商品を購入またはサービスを利用
- 指定事業者に商品・サービスの費用を全額支払う
- 領収書や必要書類をもらう
- 書類等を揃えて市区町村の窓口で償還払いの申請を行なう
- 市区町村から9割(または7割・8割)払い戻される
手続きの流れや留意点は自治体によって異なる場合があるため、市区町村のホームページや窓口にあらかじめ確認しておきましょう。
申請に必要なもの
償還払いの申請には、以下のような書類等を用意する必要があります。
- 介護サービス費支給申請書
- 介護サービス提供証明書(事業所印・代表者印が押印されているもの)
- 領収書の原本
- 同意署名があるケアプランの写し
- 申請者の印鑑
- 申請者の銀行口座番号や名義がわかるもの
介護サービス支給申請書は市区町村の担当窓口またはホームページから入手でき、サービスの提供月ごとに作成します。提出物も自治体によって異なる場合があるので、事前に確認しておくと安心です。
償還払いは申請を忘れずに
償還払いは一時的な出費が増えるものの、適切に申請をすれば原則9割が払い戻されます。反対に、きちんと申請をしなければ給付は受けられないので注意が必要です。
保険給付の方式は介護サービスによって異なるため、損をしないためにも、利用を予定しているサービスの給付方式は事前にチェックしておくことをおすすめします。自治体によっては一部のサービスについて受領委任払いにも対応しているので、償還払いの一時的な出費が気になる場合はそちらを利用するとよいかもしれません。
「このサービスは償還払いの対象なのか」「手続き方法がよくわからない」など、困ったことがあれば随時ケアマネジャーや自治体の窓口に相談しましょう。
(文・吉村綾子)
※この記事は2019年10月時点の情報で作成しています。