ポータブルトイレの導入を検討中。種類や選び方、介護保険の適用について教えてください。

質問

質問者90歳の義父についてです。寝室からトイレに行くまでに台所を横切る必要があるのですが、先日の夜中に途中で転倒してしまい、翌朝に私たちが気付くまで、そのまま起き上がれずに床で横たわっている状態でした。運よくケガをすることはありませんでしたが、同じことが起こらないように、夜間のみポータブルトイレを使用することに。

家具調など様々なポータブルトイレがありますが、選ぶ時のポイントを教えてください。自宅のトイレがシャワー付きなので、ポータブルトイレもそれがいいかと思っていますが、使い勝手が気になります。また、介護保険は適用されますか? 教えてください。

 

 

専門家ポータブルトイレの選び方についての質問ですね。質問者さんのように夜間だけ使用している方も少なくありません。ポータブルトイレはレンタルできませんが、購入時には介護保険が適用されます。

この記事では、ポータブルトイレの基礎知識や介護保険の適用、ポータブルトイレの種類と選び方について解説していきます。ぜひ今後の参考にしてみてください。

 

ポータブルトイレを選ぶ時のポイント

ポータブルトイレとは

まずは、ポータブルトイレの基礎知識についてみていきましょう。

ポータブルトイレの役割と使い方

ポータブルトイレは、居室などに設置できる便器です。主にトイレまで移動することが困難な方が利用しています。また、夜間は暗くて寒いので転倒や体温低下のリスクが高くなります。そのため質問者さんのケースのように、夜間だけ利用している方も多いです。夜間だけポータブルトイレを使用することで、介護をする人もゆっくりと休むことができ、介護の負担も軽減されます。

ポータブルトイレは利用者本人のみが使用するものなので、座面の高さやアームレストの位置など、本人の体に合わせて調整できるのが特徴です。

ポータブルトイレは、おむつではなくトイレで排泄すること、移動によるリスクを減らすことを目的としたものです。機能維持や自立のためにも、日中はなるべく通常のトイレまで歩くようにしましょう。

ポータブルトイレの臭い対策について

室内に手軽に設置できるポータブルトイレですが、困っている方が多いのがその臭いです。処理前の排泄物だけではなく、蓄積された汚れ、寝具や壁に染みついた臭いがポータブルトイレの悪臭の原因となります。同居や介護をしている家族にとって大きな負担になるだけではなく、本人が「家族に迷惑をかけている」と落ち込んでしまうことも。

排泄物の臭いに特化した消臭剤を使用する、換気・空気清浄機を使う、汚れはすぐに掃除する、使用前にバケツの中にポータブルトイレ用消臭剤を入れておく、消臭や防水機能の付いたマットを使用する…などの臭い対策をしておくようにしましょう。

ポータブルトイレの掃除は、訪問介護員(ホームヘルパー)にお願いすることも可能です。家族が毎日掃除できずに困っているようであれば、ケアマネジャーに相談をしてみてください。

購入には介護保険が適用されます

福祉用具によっては、介護保険の福祉用具貸与が適用されてレンタルできるものがありますが、衛生面からポータブルトイレはレンタルの対象外です。

ただし、ポータブルトイレを購入する際には、特定福祉用具として介護保険が適用されます。ポータブルトイレやシャワーチェアなどの特定福祉用具は、年間(4月から翌3月まで)で10万円までであれば、申請をすれば原則1割(一定の所得以上の方は2割または3割)で購入可能です。

対象となるポータブルトイレは以下のように定められています。

・和式便器の上に置いて腰掛式に変換するもの(腰掛式に交換する場合に高さを補うものを含む)

・洋式便器の上に置いて高さを補うもの

・電動式又はスプリング式で便座から立ち上がる際に補助できる機能を有しているもの

・便座、バケツ等からなり、移動可能である便器(水洗機能を有する便器を含み、居室において利用可能であるものに限る)

出典:厚生労働省 介護保険の福祉用具に係る告示及び解釈通知

 

いったん全額を支払ってから申請をして給付を受ける「償還払い(しょうかんばらい)」となります。対象とはならない製品や店舗で購入すると、介護保険が適用されなくなってしまうので注意しましょう。詳細は、ケアマネジャーや地域包括支援センターにご確認ください。

ポータブルトイレの種類

続いて、ポータブルトイレの種類を解説していきます。

標準型

ブラスチック性の標準型のポータブルトイレです。背もたれや手すりがついています。掃除のしやすさや価格の安さから選ばれることの多いタイプです。軽くて動かしやすいのですが、その分安定感には不安があります。立ち上がる際にかかとが引けるスペースのあるものの方が、立ち上がりが容易にできます。

【こんな人におすすめ】

  • 比較的立ち座りが容易にできる人

家具調

家具となじみ、使わない時にはイスとして使える木製のポータブルトイレです。重量感があって移動はしにくいですが、その分安定感があります。

【こんな人におすすめ】

  • 安定感のあるポータブルトイレが良い人
  • リビングなど人が集まる場所にベッドを置いている人
  • 居室を居心地の良い空間にしたい人

金属製コモード型

軽いのですが、座面よりも足部分の基底面積が広くなっているため安定感があります。座面の高さを調節でき、かかとを引くスペースもあるので立ち上がりが簡単です。左右のアームも稼働するので、立ち上がりができない方でもベッドの端に座った姿勢から横移乗で座ることができます。価格が安い、掃除がしやすいといったメリットはありますが、居室にマッチしない点がデメリットです。

【こんな人におすすめ】

  • プラスチック製よりも安定感のあるポータブルトイレが良い人
  • 立ち上がりの動作が比較的困難な人

ベッドサイド設置型

ベッドマットと高さを揃えてベッドサイドに設置するタイプです。立ち上がりができない方でもベッドの端に座った姿勢から横移乗で座ることができます。キャスターが付いているものもありますが、基本的に重量感があるので移動は困難です。ただし、安定感はあります。

【こんな人におすすめ】

  • 安定感のあるポータブルトイレが良い人
  • 立ち上がりの動作が難しいけれどベッドの端に座ることはできる人

機能付きトイレもあります

ウォシュレット機能付き

質問者さんのように、自宅のトイレがウォシュレット機能付きという方に選ばれるポータブルトイレです。シャワー用の水の補給が必要、コンセントを使用する、比較的値段が高いといったデメリットがあるので、慎重に検討しましょう。

暖房機能付き

冷たい便座に座るのは誰でも辛いものですが、高齢者であれば体温が奪われる、血圧が上がるなどの危険性があります。暖房機能付きであれば、冬場や夜間であっても暖かい便座に腰かけることが可能です。ただし、長時間座ってしまう方は、設定温度によっては低温やけどを引き起こしてしまうので注意しましょう。

ソフト便座

お尻が痩せたり筋肉が萎縮したりしている方でも、長い時間座っていられる樹脂製のやわらかい便座です。

臭い対策機能付き

臭いにお困りの方は、価格は高くなりますが臭い対策付きのトイレがおすすめです。ただし、排泄物の量や形状の確認が必要な方には向いていません。

たとえば、ラップ式ポータブルトイレであれば、排泄物を自動的にラップで密封するため、臭いも気になりません。くるまれた排泄物は、おむつと同じように捨てることができます。

また、水を一切使わずに、微生物の力で排せつ物を分解することができるバイオトイレもあります。専用のバイオチップを敷き詰めたポータブルトイレに排泄すると、自動で撹拌されて埋まり、微生物によって排泄物が分解されます。排気ホースを使えば、さらに臭いは気になりません。バイオチップは年に数回の交換で良いため、後処理の負担がぐっと軽減される点もメリットです。

ポータブルトイレを選ぶときのポイント

最後に、ポータブルトイレを選ぶときのポイントを見ていきましょう。

選ぶ時の参考

身体状態にあったものを選びましょう

立ち上がりが不安定な場合には、重量感があるタイプやかかとが引きこめて立ちやすいタイプなどを選ぶようにしましょう。座ったままの姿勢を保ちにくい方は、背もたれのあるタイプが良いでしょう。ベッドの端に座ったままトイレに移乗する方は、アームレストが動くタイプのポータブルトイレやベッドサイド設置型が適しています。排泄に時間がかかる方には、ソフト便座がおすすめです。また、身体の小さい方が座面の大きいタイプを選んでしまうと、座ったままの姿勢を保ちづらくなります。

身体状態や使い方をしっかりと確認し、福祉用具事業所の専門員とよく相談して決めましょう。

設置場所を決めましょう

どんな機能が必要なのか、どんな見た目のものが良いのかは、設置場所によって異なるものです。ポータブルトイレを選ぶ際には、設置場所についてもよく検討しましょう。

便座やひじ掛けの高さについて

座ったままの姿勢の保持や立ち上がりやすくするために、便座やひじ掛けの高さが適しているものを選びましょう。便座やひじ掛けの高さが調節できるものであれば、身体状態の変化に応じて調整することも可能です。

予算を決めましょう

ポータブルトイレの価格は、素材や機能によって変わります。プラスチック製や金属製コモード型のシンプルな作りのものであれば3万円以下で購入できます。介護保険が適用されるので自己負担額は1割の方で3000円以下です。

木製で家具調の作りのもので機能がついているものであれば10万円を超えることもあります。例えば12万円だった場合、介護保険は10万円までしか適用されないので、自己負担額は1割の方で1万円(10万円の1割)+2万円(10万円を超えた分)の3万円となります。一定以上の所得がある方は、自己負担割合が2割または3割となります。

福祉用具事業所の専門員、本人、介護者が話し合って選びましょう

居室に設置できるポータブルトイレには、いくつかの種類があり、機能付きのタイプもたくさんあります。使う人の身体状態にあったもの、その人のニーズに合ったもの、設置場所や予算に合ったものを選ぶ必要があります。福祉用具事業所の専門員や本人、そして介護する人が良く話し合って選ぶようにしましょう。

また、ポータブルトイレはレンタルできませんが、特定福祉用具として介護保険が適用されます。対象外の製品や販売店舗で購入してしまうと、適用されなくなってしまうので、購入の際は、あらかじめケアマネジャーや地域包括支援センターなどに相談するようにしてください。

※この記事は2022年2月の情報を元に作成しています。

 

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ケアマネジャー:森裕司(株式会社HOPE)
ケアマネジャー  森 裕司(もり ゆうじ)

【経歴】 1982年生まれ。
医療福祉系学校を卒業後、約11年医療ソーシャルワーカーとして医療機関に勤務。
その後、一生を通じた支援をしたいと思い、介護支援専門員(ケアマネジャー)へ転身。
2017年1月 株式会社HOPE 設立
2017年3月 ほーぷ相談支援センター川越 開設
代表取締役と共に、介護支援専門員(ケアマネジャー)として、埼玉県川越市で高齢者の相談支援を行っている。
他に、医療機関で、退院支援に関するアドバイザーと職員の指導・教育にあたっている。
医療・介護に関する新規事業・コンテンツ開発のミーティングパートナーとしても活動。大学院卒(経営研究科)MBA取得している。

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