母が重度の骨粗しょう症で脊椎圧迫骨折を繰り返しています。日常生活で気を付けることを教えてください。

質問

質問者

同居中の実母ですが、重度の骨粗しょう症です。ここ1年間は脊椎圧迫骨折を繰り返していて痛みがあるため、寝ていることが多くなり、気持ちがだいぶ落ちこんでいます。

まだ78歳で、脊椎圧迫骨折前の要介護認定では要支援1でした。友人と旅行に行くこともあるほど元気でしたが、ベッドから体を起こす動きが一番辛いらしく、今では一度横になったらずっと寝て過ごしています。このまま寝たきりになってしまうのではないかと心配です。

骨粗しょうp症や脊椎圧迫骨折の人が日常生活で気を付けることを教えてください。また、落ちこんでいる母には、どのように対応したらいいでしょうか? 教えてください。

 

専門家

骨粗しょう症は高齢者、特に女性に多い疾患です。脊椎圧迫骨折を起こしやすく、痛みを感じない人もいれば、身体を動かす時に強い痛みを感じる人もいます。圧迫骨折では、痛み止めを飲んで痛みを軽くし、コルセットを着用して骨折した部分を固定する治療が一般的です。1ヵ所が圧迫骨折を起こすと、他の箇所も起こしやすく、質問者さんのケースのように落ちこんでしまうことがあります。

この記事では骨粗しょう症や脊椎圧迫骨折の基礎知識に加えて、日常生活で予防のために気を付けたいこと、前向きになってもらうために家族がしたいことなどをまとめています。ぜひ、現在や今後の参考にしてください。

 

骨粗しょう症について知ろう

骨粗しょう症とは?原因と症状を解説

まずは、骨粗しょう症の基礎知識をみてみましょう。

骨粗しょう症の原因と症状

骨粗しょう症(骨粗鬆症)とは、骨の量が減ってスカスカになり、骨折しやすくなっている状態です。古くなった骨を壊す働き(骨吸収)と骨をつくる働き(骨形成)のバランスが崩れ、骨形成よりも骨吸収が上回ってしまって起こります。

特に閉経後の女性に多く、女性ホルモンの分泌量の減少、加齢によりカルシウムの吸収が悪くなること、カルシウムの吸収を助けるビタミンDをつくる働きが弱くなること、食事量や運動量の減少などが骨粗しょう症に関係しています。また、関節リウマチや副甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患、糖尿病などの特定の病気やステロイド薬の長期服用などが原因となって発症する骨粗しょう症もあります。

転倒だけではなく、手をつく、手や足をぶつける、尻もちをつくなどのはずみで骨折をしやすくなります。

骨粗しょう症に注意したい人

高齢者、閉経後の女性、運動不足の人、過度のダイエットをしたことのある人、喫煙者、過度の飲酒をする人、糖尿病や慢性腎臓病などの持病がある人、骨粗しょう症の家族歴がある人などは、特に骨粗しょう症に注意しましょう。

女性では50歳くらいから、1年に1度は検査を受けたほうが良いでしょう。男性であれば生活習慣病などの気になる項目があったり、寝たきりの状態が長かったりした場合に検査を受けるようにしましょう。

検査については、お住まいの地域の保健センターや保健所に問合せください。また、インターネットでお住まいの地域と「骨粗しょう症 検査」で検索すると、検査ができる医療機関を探せます。

骨粗しょう症の治療を受けるには?

骨粗しょう症センターや骨粗しょう症クリニックなど、骨粗しょう症を専門に扱う医療機関もありますが、骨粗しょう症の治療はさまざまな診療科で治療を受けることができます。

腰痛や骨折などの治療をきっかけに骨粗しょう症の治療を始める場合なら整形外科、更年期障害の症状を緩和する治療の一環で始めるなら婦人科で治療ができます。内科でも治療はできるので、まずはかかりつけ医に相談をしてみましょう。

患者の状態により、骨の吸収を抑える薬、骨の形成を助ける薬、吸収と形成のバランスを整える薬などを使って、骨粗しょう症を治療していきます。

脊椎圧迫骨折について知ろう

脊椎圧迫骨折とは

続いて、脊椎圧迫骨折の基礎知識をみていきましょう。

脊椎圧迫骨折の原因と症状

脊椎圧迫骨折とは、背骨がつぶれたように折れてしまった状態です。主に骨粗しょう症でスカスカになった骨に、衝撃が加わることが原因で起こります。また、身体の重さでいつの間にかつぶれてしまうこともあります。

身体を動かすと強い痛みを感じることもありますが、痛みなどの症状がないケースも多いです。背骨は1ヵ所が圧迫骨折を起こすと、他の場所も圧迫骨折を起こしてしまうことがあります。脊椎の圧迫骨折を繰り返すことで、円背(背中が丸くなること)や、身長が低くなるなどの変化が起こります。背筋が伸ばせなくなることでバランスを崩しやすくなり、転倒しやすくなってしまいます。

圧迫骨折を放っておくと、変形した状態で治癒してしまいます。背が縮んだ、背中が丸くなった、寝返りや立ち上がる時に背中や腰が痛い、バランスを崩しやすくなったなど、「年のせい」と考えてしまいそうな症状に気が付いたら、まずはかかりつけ医や整形外科の医師に相談をしてみましょう。

脊椎圧迫骨折を起こしやすいケース

脊椎圧迫骨折を起こしやすいのは、しりもちをついた時、くしゃみをした時、重たいものを持った時、体をひねった時などです。

ぎっくり腰と勘違いしてしまうことがありますが、骨粗しょう症の診断を受けている方は、脊椎圧迫骨折の可能性があるので、整形外科できちんと調べてもらうようにしましょう。

脊椎圧迫骨折の治療方法

脊椎圧迫骨折を起こすと、骨折した部分をコルセットで固定して、できるだけ安静にして過ごし、痛み止めなどで痛みをコントールしていきます。

脊椎圧迫骨折の治療で最初に使用するコルセットは、固くて着け心地が悪く、苦しいので認知症の方は嫌がる傾向があります。外そうとするたびに説明して理解してもらう必要があります。どうしても固いコルセットを付けられない場合には、柔らかいものに変更できるかを医師に相談してみましょう。

コルセットを着用する期間の目安は2ヵ月程度です。基本的には寝ている間も着用しますが、痩せている方などは褥瘡(じょくそう、床ずれのこと)ができやすいので注意が必要です。

また、脊椎圧迫骨折を治療する手術もあります。詳しくは医師にご確認ください。

日常生活で気を付けたいこと

骨粗しょう症の生活で気を付けるポイントは?

最後に、骨粗しょう症の方が日常生活で気を付けたいことをみていきましょう。

骨を強くする生活を

骨を強くするためには、骨密度を保つ食事を心がけましょう。摂取したい栄養素は、カルシウムやビタミンD、ビタミンKなどです。カルシウムはビタミンDと一緒に取ることで、吸収が良くなります。アルコールやカフェインの過度な摂取、喫煙などは避けましょう。

《カルシウムを含む食品》

牛乳や乳製品、骨ごと食べられる魚、小松菜、チンゲン菜、海藻類、大豆製品など

《ビタミンDを含む食品》

カレイ、鮭、サンマ、メカジキなどの魚類、シイタケやきくらげなどのきのこ類、卵など

《ビタミンKを含む食品》

モロヘイヤやホウレン草などの葉の色の濃い野菜、海藻類、納豆など 体内でビタミンDを生成するためには、紫外線を浴びることが必要です。また、ウォーキングや筋トレなどの骨に刺激が加わる運動で骨を強くすることができるので、散歩などで外出する習慣をつくりましょう。

転倒を予防しましょう

骨を強くするのと同時に、転倒による骨折を防ぐようにしましょう。転倒しない環境づくりのポイントには次のようなものがあります。

  • 廊下や階段などに、必要に応じて手すりを設置しましょう
  • 床面の段差が1~2センチでもあると転倒しやすくなるので、段差をなくすようにしましょう
  • 床にコードや小物などがない状態にしましょう
  • 転倒しやすくなるのでスリッパは避けましょう ・足元は明るくしましょう

介護保険の申請をしましょう

それまで要介護認定を受けていないのであれば、要介護認定を受けて介護保険サービスを利用するようにしましょう。

住宅改修や福祉用具を利用して転倒をしない環境を整え、訪問リハビリやデイケアなどで転倒をしにくい身体づくりや日常生活の動きを改善するリハビリを受けるようにしましょう。

圧迫骨折を起こしてしまった時の対応方法

痛みがある時の対応方法

骨粗しょう症の方が圧迫骨折を起こして痛みがある場合には、痛み止めでコントロールします。圧迫骨折が治癒するにつれて痛みは緩和されていきますが、いつまでも痛みが残る場合には、医師にご相談ください。骨折箇所に不適切な力が加わるのを防ぐためにも、コルセットを着用するようにしましょう。

どんな動きをしている時に痛みがあるのかを観察し、福祉用具などで解決できないかをケアマネジャーに相談すると良いでしょう。

質問者さんのケースでは、ベッドの起き上がりに苦労されているようなので、背中が上がるタイプの介護ベッドをレンタルすると良いでしょう。まだ要支援1であり一時的な利用なので、介護保険でのレンタルはできないと判断される可能性は高いですが、自費で一時的にレンタルすることも可能です。詳しくはケアマネジャーにご確認ください。

ご本人はもちろん、家族も痛みに対して何もできず、辛い思いをしてしまうものです。痛み止めは飲みすぎないように注意し、医師の指示通りに服用しましょう。

落ちこみがある時の対応方法

「痛いよね、辛いよね」、「早く良くなるといいね」など、気持ちに寄り添う言葉をかけるようにしましょう。「がんばって」や「みんな我慢しているんだよ」などの声掛けはNGです。

落ちこんでいるとできないことに目が行きがちですが、できていることやできるようになったことに目を向けるようにしましょう。強い痛みが治まれば、リハビリを開始できます。リハビリを目標にした声掛けなどをして、希望を持ってもらうことが大切です。

まとめ

加齢などが原因で発症する骨粗しょう症は、特に女性に多い病気です。脊椎圧迫骨折を起こしてしまうと、身体を動かす際に強い痛みを感じ、痛みのために気持ちが落ちこんでしまうことがあります。気持ちに寄り添うような声掛けをして、リハビリなどの目標に向かい、医師の指示に従って生活や治療を続けるようにしましょう。

脊椎圧迫骨折では必ずしも強い痛みを伴うわけではありません。背中が丸くなった、身長が縮んだ、寝返りや立ち上がる時に背中や腰が痛い、バランスを崩しやすくなったなどの症状が出てきたら、まずはかかりつけ医や整形外科の医師に相談をしてみてください。

骨粗しょう症には継続的な治療が必要です。あわせて骨を丈夫にするための食事や運動を生活に取り入れましょう。要介護認定を受けて、住宅改修で転倒しない環境をつくり、必要な福祉用具を利用し、リハビリを受けるようにしましょう。

医師:谷山由華
監修者:谷山 由華(たにやま ゆか)

医師:谷山 由華(たにやま ゆか)

【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤

内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている