疎遠の父が転倒で入院、要介護に。要介護でも養護老人ホームへの入居は可能ですか。

質問

質問者75歳の実父についての相談です。子供のころに両親が離婚してから一緒に暮らしたことがなく、いい思い出がないので同居するつもりはありません。しかし、年金が少額で生活できず、家賃も滞納していると連絡が来ました。こちらも生活に余裕はなく、実父が住んでいる地域の地域包括支援センターにどうしたらいいのか、一緒に暮らしたら虐待してしまいそうなこと、正直かかわりたくないことを相談しました。

すると、養護老人ホームへの手続きをしてくれて入居できるとの連絡が来たのですが、その直後に父が転倒をして入院。現在リハビリ中ですが、要支援2となり、以前のように掃除や買い物を自分ですることは難しくなりそうです。養護老人ホームは介護施設ではないとのことなので、せっかく決まった入居ができなくなるのではないかと不安です。

介護が必要になっても、養護老人ホームにすることは可能でしょうか。このまま私は、介護のために父と向き合わなくてはいけないでしょうか。教えてください。

専門家例え血縁関係があったとしても、介護をしたくない、できない事情があるのは仕方ないことです。今回は、きちんと地域包括に事情を相談して、養護老人ホームへの入所に向けて動いてもらえていたとのこと。介護が必要になったとのことですが、養護老人ホームでは外部の訪問介護サービスなどを利用して暮らすことが可能です。

この記事では、養護老人ホームに入居する条件や介護について、介護ができない事情があるときに利用できる制度、万が一入居できない時の選択肢について紹介します。ぜひ今後の生活の参考にしてください。

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養護老人ホームとは

まずは、養護老人ホームの基礎知識からみていきましょう。

養護老人ホームの特徴

養護老人ホームとは、自宅での日常生活が困難な高齢者を対象とした養護施設です。高齢者向けの施設ですが、介護施設ではありません。入所者が自立した生活を送れるように、食事、見守り、自立支援などのサービスを提供しています。

入所費用の一部または全部を、市町村が負担しています。有料老人ホームや特別養護老人ホームなどの介護施設との大きな違いは、契約をして入所する施設ではなく、原則として市町村が入所を判断する措置入所になるという点です。入所を希望しても、市町村の判断により入所できないことがあります。

養護老人ホームでは、入所中に介護が必要になっても、外部の在宅介護サービスを利用して暮らし続けることができます。ただし、寝たきりなどの要介護度の高い方は入所できません。

養護老人ホームに入所できる対象者

養護老人ホームのある自治体に住んでいる65歳以上の方で、市町村により入所が必要だと判断された方が対象です。判断基準は市町村により異なります。

例として東京都新宿区の要件を見てみましょう。

原則として65歳以上の人で、以下のアとイの要件を各々1つ以上満たす方。
ア 経済的状況
1.高齢者のいる世帯が生活保護を受けているとき。
2.世帯の生計中心者が区民税の所得割を課税されていないとき。
3.災害などのためその世帯の生活の状態が困窮していると認められるとき。

イ 環境などの状況
1.住むところがなかったり、住むところがあっても極めて環境が悪いとき。
2.家族などと折り合いがよくないとき。

(引用元:新宿区ホームページ

区分

収入対象

費用

区分1

270,000円以下

0円

区分2~38

270,001円以上
1,500,000円以下

1,000円~81,100円

区分39

1,500,001円以上

対象収入のうち
1,500,000円を超過した額×0.9÷12+81,100円
(100円未満は切り捨て)
上限は140,000万円

上記の他に、扶養義務者への費用徴収が発生する場合があります。

介護が難しい場合の相談先と利用できる制度

質問者さんのように事情があり、同居や介護ができない場合の相談先や利用できる制度について確認していきましょう。

相談窓口

相談窓口については、高齢者が住んでいる自治体の高齢者関連窓口、地域包括支援センター、入院中の場合は病院のソーシャルワーカーなどに相談しましょう。大切なのは、介護ができない事情をしっかりと説明することです。「冷静に説明できないかもしれない」、「取り乱してしまうかもしれない」と不安があっても、取り繕う必要はありません。ありのままの不安や事情を理解してもらうことが大切です。

生活保護

どうしても介護費用や生活費がままならない状況となったら、高齢者本人の生活保護の申請を考えましょう。年金を受給していても、年金も含めた世帯の収入が生活保護の基準を下回る場合には、その差額が支給の対象となります。資産についての条件もありますが、自宅については所有していても、「高額で売却できない」などの条件によっては住み続けることができます。まずは、市区町村の福祉課や福祉事務所に相談しましょう。窓口で状況を丁寧に説明することが大切です。

成年後見制度

施設の入所時などには、保証人や身元引受人が必要になります。金銭面の連帯保証や入院などの緊急時の連絡や手続き、死亡時の対処手続きなどの役割を、自分が引き受けたいか、引き受けられるかをあらかじめ考えておきましょう。

無理な場合には、高齢者本人に成年後見制度を利用してもらうようにしましょう。成年後見人というと、認知症の高齢者の財産などを守る制度というイメージがありますが、身内がいない方や相談相手がいない方にもメリットのある制度です。詳しくは地域包括支援センターなどに相談してください。

姻族関係終了届

姻族関係終了届は、死亡した配偶者の両親などに対して利用できる制度です。配偶者が亡くなっても、配偶者の血族との姻族関係は継続します。姻族関係終了届を出すことで、姻族関係を解消し、扶養義務を終了させることができます。配偶者が死亡した時期に関係なく、届出人が住んでいる市区町村のサービス窓口や出張所で手続き可能です。

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養護老人ホーム以外の選択肢

養護老人ホームは、契約して入所する施設ではないので、空き状況や本人の状況によっては入所できないことがあります。その場合の選択肢をみていきましょう。

特別養護老人ホーム

要介護度3以上あり、常時介護が必要なため養護老人ホームへの入所が難しい場合には、特別養護老人ホームを検討しましょう。介護保険施設なので費用が安く、さらに条件によっては特定入所者介護サービス費を利用して費用を抑えることができます。

費用に比べて手厚い介護が受けられるため人気があり、待機期間が長くなることがありますが、家族の介護が期待できないなどの事情により、優先順位は変わってきます。

自宅での生活の継続

住宅の環境は整っている場合には、生活保護を受けたうえで、介護サービスをフル活用して自宅での生活を継続することも選択肢のひとつです。質問者さんのように要支援要介護認定が出ている方については、ケアマネジャーについてもらい、介護ができない事情を説明しておきましょう。

ケアハウス(軽費老人ホームC)

ケアハウス(軽費老人ホームC型)とは、食事や日常生活の支援をしてくれる高齢者施設です。自治体の助成が受けられるので、比較的低額な料金で利用できます。原則として全室個室で、入居者は食事サービスなどの支援を受けながら、プライバシーが守られた空間で自由に生活することができるのが特徴です。

「自立型(一般型)」と「介護型」の2種類があり、「自立型(一般型)」は、養護老人ホームと同様に介護が必要になったら、外部の在宅介護サービスを利用できます。「介護型」は介護付有料老人ホームと同様に、「特定施設入居者生活介護」が利用でき、常駐している介護スタッフから入浴や排泄、食事などの介護や日常生活上の支援などの介護サービスを受けながら、要介護度が高くなっても暮らし続けることができます。

入居一時金または保証金が0円~数百万円ほどかかりますが、自立型(一般型)であれば、初期費用が掛からないところもあります。人気が高いため、施設によっては待機期間が長くなることがあります。

生活保護で入れる有料老人ホームなど

生活保護を受けたうえで、利用できる有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅を探してみるとよいでしょう。

有料老人ホームには「住宅型」と「介護付」があり、住宅型は養護老人ホームと同様に、介護が必要になったら外部の在宅介護サービスを利用します。サービス付き高齢者住宅も同様です。

「介護付」の有料老人ホームと一部のサービス付き高齢者住宅は、「特定施設入居者生活介護」が利用でき、常駐している介護スタッフから入浴や排泄、食事などの介護や日常生活上の支援などの介護サービスを受けながら、要介護度が高くなっても暮らし続けることができます。

施設を探す際には、生活保護の扶助で賄えるかどうか、生活保護者を受け入れているかどうかを確認しましょう。

まとめ

養護老人ホームでは、介護が必要になっても、外部の在宅介護サービスを利用して暮らし続けることができます。ただし、介護施設ではなく、自立支援を目指す養護施設なので、寝たきりなどの常に介護が必要な方は入所できません。

費用の一部または全部を市町村が負担する施設であり、入所の可否は市町村が判断をします。判断基準は市町村によって異なりますので、詳しくは市町村の高齢者関連窓口でご確認ください。

事情によって家族が同居や支援ができない場合、養護老人ホーム以外にも選択肢はあります。地域包括支援センターなどの力を借りて、後悔のない選択ができるといいですね。

 


 

ケアマネジャー:森裕司(株式会社HOPE)
ケアマネジャー  森 裕司(もり ゆうじ)

【経歴】 1982年生まれ。
医療福祉系学校を卒業後、約11年医療ソーシャルワーカーとして医療機関に勤務。
その後、一生を通じた支援をしたいと思い、介護支援専門員(ケアマネジャー)へ転身。
2017年1月 株式会社HOPE 設立
2017年3月 ほーぷ相談支援センター川越 開設
代表取締役と共に、介護支援専門員(ケアマネジャー)として、埼玉県川越市で高齢者の相談支援を行っている。
他に、医療機関で、退院支援に関するアドバイザーと職員の指導・教育にあたっている。
医療・介護に関する新規事業・コンテンツ開発のミーティングパートナーとしても活動。大学院卒(経営研究科)MBA取得している。

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