末期がんの実母についての相談です。自宅での生活を希望しているものの、体力が低下したこともあり、近隣に住む私が家事や入浴を手伝っています。最近では、使い慣れたお風呂用の椅子では、立ち上がることができず、姿勢も不安定になってきました。そこで、介護用の入浴椅子を購入しようと思っているのですが、選ぶ時のポイントがあれば教えてください。体力がさらに低下しても、使えるものが良いと考えています。
また、浴室用と脱衣室用に2つ購入することは可能でしょうか? 教えてください。
介護用の入浴椅子、一般的にシャワーチェアと呼ばれているものについての質問ですね。シャワーチェアは、介護保険を利用して購入できる福祉用具です。シャワーチェアには、背もたれやひじ掛けのあるなし、車輪のついているタイプなどがあり、身体の状態に合わせて選びます。
この記事では、介護用入浴椅子の基礎知識について、そして利用者の状態別に選ぶポイントについて解説しています。ぜひ今後の参考にしてみてください。
介護用入浴椅子(シャワーチェア)とは
まずは、介護用入浴椅子(シャワーチェア)の基礎知識についてみていきましょう。
介護用入浴椅子とは
介護用入浴椅子とは、主に浴室の洗い場で使用するシャワーチェアのことです。「シャワーチェア」の他に、「シャワーベンチ」、「シャワーイス」、「入浴用いす」などの名称で呼ばれています。一般用のバスチェアと比べて、床が濡れていても滑りにくく、高さがあるので立ったり座ったりがしやすいのが特徴です。
筋力の低下やマヒ、ふらつきなどがあるため、一般のバスチェアでは立ち座りや座った姿勢の保持が難しくなった方でも、シャワーチェアを利用することで、安全かつ快適にシャワー浴を行うことができます。転倒予防や介護予防のため、早い段階からの導入が望ましいです。
また、車輪がついているシャワーキャリーは、立ち座りや座った姿勢の保持だけではなく、浴室への移動も難しい方に使用されています。車輪がついているので、脱衣所から浴室まで座ったまま移動することができ、介護者の負担を軽減することができます。車輪が小さいため、脱衣所と浴室への段差を解消しておく必要があります。トイレの便器に合わせられるタイプであれば、トイレチェアとしても兼用可能です。
購入時には介護保険が利用できます
福祉用具によっては、介護保険の福祉用具貸与が適用されてレンタルできるものがありますが、直接肌に触れる介護用入浴椅子は、衛生面からレンタルの対象外です。
ただし、座面の高さが概ね35cm以上のもの、またはリクライニング機能が付いているものについては、特定福祉用具として介護保険が適用されます。年間(4月から翌3月まで)で10万円までであれば、原則1割(一定の所得以上の方は2割または3割)で購入可能です。
いったん全額を支払ってから申請をして給付を受ける「償還払い(しょうかんばらい)」となります。対象とはならない製品や店舗で購入すると、介護保険が適用されなくなってしまうので注意しましょう。詳細は、ケアマネジャーや地域包括支援センターにご確認ください。
同一品目を2つ購入することはできません
質問者さんのケースのように、浴室用と脱衣所用に2つのシャワーチェアを購入する場合、原則として2つ目には介護保険は適用されません。ただし、1つ目の製品の劣化が著しい場合などによっては認められることがあるので、詳しくはケアマネジャーや福祉用具専門員にご確認ください。
脱衣所用では、安定感のあるダイニングチェアを利用すると良いでしょう。バスタオルを敷いておくと、身体を拭く手間が省けますし、水気による椅子の劣化も防ぐことができます。
介護用入浴椅子(シャワーチェア)の使い方
それでは、シャワーチェアやシャワーキャリーといった介護用入浴椅子の使い方を見ていきましょう。高さの調節やお手入れ方法は、製品によって異なるので、説明書をよく確認してください。
シャワーチェアの使い方
- 折り畳み式の場合、座面をセットします。
- 座面が水平になっており、椅子が安定していることを確認してから使用しましょう。
シャワーキャリーの使い方
- ブレーキをかけた状態で、ベッドや車いすなどからシャワーチェアに移乗します。ズボンなどは脱衣してから移乗した方が介助の負担は軽減できます。ただし、移動中の寒さや羞恥心に配慮するようにしましょう。
- フットレストに足を乗せて、ブレーキを解除して洗い場に移動します。
- 洗い場ではブレーキをかけた状態で、シャワー浴を行います
- 入浴後は、床面が濡れてしまうのを避けるために、本体の水分をタオルで拭いてから脱衣所などに移動するようにしましょう。
介護用入浴椅子を使っても自宅での入浴が難しい場合
シャワーチェアやシャワーキャリーを使っても、自宅での安全で快適な入浴が難しい場合や体調が不安定などの理由で介護職に入浴介助をして欲しい場合であれば、デイサービスで入浴したり、訪問入浴サービスを利用したりすると良いでしょう。
訪問入浴サービスは、介護保険が適用されるサービスです。自宅に看護師と介護士2名がやってきて、持ち込んだ簡易浴槽で入浴します。詳しくはケアマネジャーにご相談ください。
介護用入浴椅子(シャワーチェア)の選び方
続いて、利用者の状態別に介護用入浴椅子の種類と選び方について解説していきます。下記の他には、浴室の広さに合っているか、折りたためるかどうも大切なポイントとなります。
安定して座れる方
◎背もたれがないタイプ
安定して座れる方には、背もたれがないタイプが良いでしょう。背もたれがないことで、座っている姿勢を保つための筋力の維持になる、背中が洗いやすい、パーツが少ないので軽いといったメリットがあります。
安定して座れない方
◎背もたれだけのタイプ
背もたれがないと座った姿勢が安定しないけれど、左右に姿勢が崩れることがない方は、背もたれだけでひじ掛けのないタイプがおすすめです。座ったまま身体の向きが変えやすいといったメリットがあります。
◎背もたれとひじ掛けがあるタイプ
背もたれだけでは左右に転倒・転落のリスクがある方、肘掛けがあれば座位姿勢が安定する方には、背もたれとひじ掛けの両方があるタイプがおすすめです。
ひじ掛けが可動式のものであれば、身体の向きを変える動きもスムーズに行え、身体を洗う際にも邪魔になりにくいでしょう。
座った姿勢が安定せず、移動も困難な方
◎シャワーキャリー
座位だけではなく浴室への移動も困難な場合には、車輪がついているシャワーキャリーが良いでしょう。体力や筋力が著しく低下した方の入浴を助ける福祉用具です。
視力の低下や白内障がある方
座面や背もたれ、ひじ掛けなどの色合いがはっきりしていて、利用者が見やすいものを選びましょう。
座面の選び方
座面は平らなものもあれば、両端が上向きにカーブしていてお尻が入りやすいもの、クッション性に優れているものがあります。座りやすさや立ちやすさを確認して選ぶようにすると良いでしょう。
座面がU字にカットされているものは、座ったまま陰部周辺も洗えるので便利ですが、小柄な方、座った姿勢を保持しにくい方は、U字部分に挟まってしまう危険性があるので注意が必要です。
介護用入浴椅子は早いうちからの導入がおすすめです
今回は介護用入浴椅子について解説しました。入浴は高齢者にとって楽しみのひとつではありますが、介助する人にとっては負担の大きなものです。介護用入浴椅子などの福祉用具を利用することで、入浴をより安全で快適にし、介護する人の負担を軽減することができます。
車輪のついたシャワーキャリーであれば、体力がさらに低下しても利用可能です。ただし、立ち座りや姿勢の保持が難しくなってからでも自宅のお風呂に入りたいのか、それともデイサービスや訪問入浴などのサービスを利用したいのかを、あらかじめご本人と話し合っておくと良いでしょう。
介護予防や転倒防止のため、早いうちからの導入がおすすめです。詳しくはケアマネジャー、福祉用具専門相談員、地域包括支援センターなどにご相談ください。
※この記事は2022年3月時点の情報で作成しています。

【経歴】
1982年生まれ。
医療福祉系学校を卒業後、約11年医療ソーシャルワーカーとして医療機関に勤務。
その後、一生を通じた支援をしたいと思い、介護支援専門員(ケアマネジャー)へ転身。
2017年1月 株式会社HOPE 設立
2017年3月 ほーぷ相談支援センター川越 開設
代表取締役と共に、介護支援専門員(ケアマネジャー)として、埼玉県川越市で高齢者の相談支援を行っている。
他に、医療機関で、退院支援に関するアドバイザーと職員の指導・教育にあたっている。
医療・介護に関する新規事業・コンテンツ開発のミーティングパートナーとしても活動。大学院卒(経営研究科)MBA取得している。
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