義母が正常圧水頭症だと診断されました。手術を受ければ治る病気とのことですが、85歳なので手術を迷っています。手術後の安全性や内容について教えてください。もともとアルツハイマー型認知症でしたが、どれくらい認知症の症状は治まるのでしょうか?

家族が正常圧水頭症に。どうすればいい?

質問

質問者

85歳の義母ですが、失禁するようになり、歩き方も危なくなってきたので検査をしたところ、正常圧水頭症だと診断されました。手術で治る病気とのことですが、85歳という年齢もあり、手術が耐えられるかを心配しています。 

手術の内容や安全性、手術後はどんな点に気を付けたらいいのかを教えてください。また、もともとアルツハイマー型認知症だったのですが、手術をするとどれくらい良くなりますか? 手術ではどれくらいの症状が治まるのでしょうか?

 

専門家

正常圧水頭症は、治療によって症状の改善が期待できる認知症です。正常圧水頭症では、歩行障害や失禁などの他に、認知機能障害が起こります。早いうちに治療を受けると、低下した歩行機能や失禁など、正常圧水頭症による症状については手術後に大きな改善が見込めます。もともとアルツハイマー型認知症があるとのことですが、手術は正常圧水頭症を治療するもので、アルツハイマー型認知症の症状を抑えるためのものではありません。

ここでは正常圧水頭症とアルツハイマー型認知症の症状の違い、安全性を含む手術の内容や術後についてご紹介します。現在や今後の生活の参考にしてください。

 

正常圧水頭症について知ろう

正常圧水頭症とはどんな病気?

まずは、正常圧水頭症の基礎知識をみてみましょう。

正常圧水頭症の特徴を知ろう

正常圧水頭症(Normal Pressure Hydrocephalus/NPH)とは、何かしらの原因で脳室に脳脊髄液が溜まる病気です。脳室内に溜まった脳脊髄液が脳を圧迫してしまい、様々な症状を引き起こします。そのため、脳脊髄液の流れを治療することで、改善できる病気です。70代から80代で多く発症します。

くも膜下出血や頭部外傷などにより二次的に発症するものは、続発性正常圧水頭症と呼びますが、この記事では、原因が特定できない特発性正常圧水頭症について説明していきます。

高齢者人口の1%程度に正常圧水頭症の疑いがあるとされています。症状が出ても、年齢のせいだと見過ごされてしまうことが多いため、症状を知り、疑いを持つことは大切です。

3大徴候と呼ばれる症状を知ろう

正常圧水頭症には、3大徴候と呼ばれるものがあります。必ずしも3つの症状がそろうわけではありませんが、心当たりの症状が複数あれば、病院を受診してみると良いでしょう。

歩行障害

初期症状として現れやすく、正常圧水頭症の90%の方に見られるのが歩行障害です。すり足で小刻み、足を開いたがに股気味の歩行になります。一歩目が出にくくなり、歩行が不安定になり、方向転換の際などに転倒することが多くなります。

表情が乏しくなる点も含めて、パーキンソン病と間違われやすい症状ですが、パーキンソン病では足を開いたがに股歩行にはなりません。

認知障害

正常圧水頭症の方の80%の方に見られる症状です。もの忘れがひどくなります。また、集中力や意欲、自発性が低下することで、今までの日課や趣味をしなくなり、1日中ボーっとしているといった症状が現れます。

尿失禁

正常圧水頭症の方の60%の方に見られる症状です。トイレが近くなり、我慢できる時間が短くなります。歩行障害があるので、トイレに間に合わず、尿失禁をしてしまうことがあります。

正常圧水頭症とアルツハイマー型認知症との違い

正常圧水頭症とアルツハイマー型認知症は、どちらもゆっくりと進行していきます。症状の最も大きな違いが、認知障害と歩行障害が一緒に現れるかどうかです。アルツハイマー型認知症では、初期のうちから歩行障害が現れることはありません。また、正常圧水頭症による歩行障害は、治療による改善が期待できます。

認知障害も正常圧水頭症では無気力や集中力の低下が主体で、アルツハイマー型認知症に比べるともの忘れは比較的軽度なことが多いです。

正常圧水頭症の手術について

正常圧水頭症ではどんな手術をする?

続いて、正常圧水頭症の手術の内容をみていきましょう。

外科手術の内容について

正常圧水頭症の手術で行われるのは、髄液の流れを良くするシャント術です。脳神経外科では、数多く行われている手術のひとつで、脳室内に溜まってしまった脳脊髄液を、腹腔(お腹の空間)などに排出するためにカテーテルを埋め込みます。排出された脳脊髄液は、体内に吸収されます。

日本では主に、腰椎から腹腔までカテーテルを挿入する「腰椎-腹腔シャント術(L-Pシャント術)」か、脳室から腹腔までカテーテルを挿入する「脳室-腹腔シャント(V-Pシャント術)」が行われています。「腰椎-腹腔シャント術(L-Pシャント術)」は、脳を穿刺せず、より体に負担がかからないため、高齢者に選択されることが多い方法です。

全身麻酔で行われます

シャント術は、一般的に全身麻酔で行われます。「腰椎-腹腔シャント術(L-Pシャント術)」の場合には、局所麻酔が選択されることもあります。詳しくは主治医にご確認ください。

手術を決めるポイント

症状や検査結果、身体の状態、全身麻酔が可能かどうかを見て、手術を行うかどうかが検討されます。腰から髄液を30mlほど排出する髄液タップ・テストにより、一時的に歩行状態が改善されると、シャント術による効果も期待できます。

本人や家族が希望しているかどうかも重大なポイントです。麻酔や合併症のリスクを主治医に聞いたうえで、よく話し合って決めましょう。

手術後の経過

正常圧水頭症の手術後はどうなる?

シャント術を受けた後の経過についてみてみましょう。

シャント術で改善される症状

「特発性正常圧水頭症ガイドライン第3版」によると、シャント術により歩行障害が約80%、認知障害は約70%、尿失禁は約50%が改善されるとされています。しかし、正常圧水頭症による症状が悪化して、手術に適した時期を逃してしまうと、手術をしても思ったような症状の改善がみられないこともあります。「もしかしたら」と思ったら、すぐに治療を受けることが大切です。また、人によっては症状がぶり返すこともあります。

シャント術により改善されるのは、正常圧水頭症による症状です。元々あったアルツハイマー型認知症などの症状を改善するものではありません。

退院後は定期的に通院しましょう

手術後は、せん妄などの影響が出る場合がありますが、徐々に改善していきます。症状が改善して日中の活動量が増えると、頭痛などが起こる可能性がありますが、バルブ圧の調整などにより改善できます。正常圧水頭症では、術後の変化が長期的に現れることもあるので、医師の提案する間隔で定期的な検査を受けましょう。

また、リハビリの継続も大切です。リハビリの専門職に関わってもらうように、ケアマネジャーと相談してみると良いでしょう。

まとめ

正常圧水頭症は、治療により改善が期待できる病気です。歩行障害や認知障害、尿失禁が、正常圧水頭症の特徴的な症状です。特に歩行障害では、すり足で小刻み、そしてがに股で歩くようになります。長期間症状が出ていた場合には、治療による改善が見込めない場合があります。「もしかしたら」と思ったら、病院で検査を受けるようにしましょう。

治療で行われるシャント術は、脳神経外科では基本的な手術です。検査の結果、正常圧水頭症であり、治療による改善が見込めると判断された場合、全身の状態や全身麻酔に耐えられるかどうかも含めて、手術が検討されます。本人や家族の希望も、重要ですので手術のリスクや術後の注意点といった説明を良く受けたうえで、話し合って決めましょう。手術後はリハビリと定期的な通院を続け、状態の維持や改善を目指します。

※こちらの記事は2021年11月の情報で作成しています。

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医師:谷山由華
監修者:谷山 由華(たにやま ゆか)

医師:谷山 由華(たにやま ゆか)

【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤

内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている