経鼻栄養補給(経鼻経管栄養)は、病気や障害によって口からの食事が難しくなった方が、鼻の穴から通したチューブを通して胃に栄養剤を注入する方法です。メリット・デメリット、在宅でのケア方法など、医師に勧められた場合にぜひ知っておきたいことを解説します。
>>経鼻栄養補給(経鼻経管栄養)についてQ&Aを見る:安心介護Q&A
- 経鼻栄養補給(経鼻経管栄養)とは
- 経鼻栄養補給(経鼻経管栄養)のメリットとデメリット
- 在宅での経鼻栄養補給(経鼻経管栄養)のケア方法
- 在宅介護で気を付けたい症状
- 経鼻栄養補給(経鼻経管栄養)で使う栄養剤
- 導入後、口から食事できるまで回復する?
- まとめ
経鼻栄養補給(経鼻経管栄養)とは
経鼻栄養補給(経鼻経管栄養)とは、病気や障害によって口から十分に食事をとれなくなったり、嚥下機能(飲み込む力)が弱くなった人に、鼻に挿入した経鼻胃管(チューブ)を通じて、直接胃に栄養剤を注入する栄養摂取法です。
鼻から挿入する経鼻胃管(チューブ)は、塩化ビニルやシリコンゴムなどの柔らかい素材でできています。手術の必要はありませんが、鼻にチューブを通すので目立ちますし、本人には異物感があります。
経鼻栄養補給(経鼻経管栄養)を勧められるケース
高齢者が経鼻栄養補給(経鼻経管栄養)を勧められるケースには、以下のようなものがあります。
- 飲み込んだものが気管などに入りやすく、誤嚥性肺炎を繰り返す方
- 栄養が不十分だと考えられる方や食欲不振などの理由で口からの食事を嫌がる方
- 経管栄養の期間が一時的または短期間になると考えられる方
上記に当てはまる方で、消化管の消化や吸収能力が保たれている場合には、経鼻栄養補給(経鼻経管栄養)を提案されることが多いでしょう。
経鼻栄養補給(経鼻経管栄養)が困難なケース
経鼻胃管のチューブは、鼻腔、咽頭、食道を通じて胃まで挿入します。そのため、通過するそれぞれの部位の状態によっては、経鼻栄養補給が困難になります。例えば鼻出血が多い人、出血の危険性が高い食道静脈瘤、がんなどによりチューブそのものが通過できない場合などには経鼻栄養補給はできません。
また、認知症などにより頻繁に鼻のチューブを引き抜いてしまう場合には、医師から胃ろうや腸ろうなどの他の経管栄養法を勧められることがあります。
経鼻栄養補給(経鼻経管栄養)のメリットとデメリット
メリット
栄養を安定的に摂取できる
経鼻栄養補給により栄養状態が良くなれば、体力が回復し、元気に長く生きられる可能性が高まります。場合によっては、口からの食事に戻れるケースもあります。
栄養摂取方法として優れている
口から食べられなくなった時の栄養摂取には、大きく分けると、点滴などで栄養を直接血液に入れる血管ルートと胃腸を使うルートがあります。血管から栄養分を入れる経静脈栄養は、胃や腸の機能に問題があっても補給ができるものの、輸液管理や介護負担が大きかったり、腸の機能が落ちて再び口から食べることが難しくなる可能性があるなどの面があります。一方、経鼻栄養補給を含む胃腸を使う経腸栄養は身体の自然な栄養摂取に近いため、栄養の吸収に関する体の負担も少なく、血糖値の変動なども起きにくく、腸の免疫も保たれます。
手術の必要がない
経鼻栄養補給では、鼻から胃や腸までチューブを挿入するだけで、特別な手術は必要ありません。
デメリット
違和感があり目立つ
鼻から胃までチューブを通す経鼻栄養補給は、挿入・装着時に異物感があります。また、胃ろうや腸ろうは服に隠れる部分に小さな孔(ろう孔)をあけて栄養チューブと接続するのに対して、経鼻栄養補給は鼻に通したチューブをテープで頬や鼻に固定するのでとても目立ちます。テープによるかぶれなどの皮膚トラブルが起こることもあります。
頻繁にチューブの交換が必要
胃ろうでは3~6ヵ月ごとにチューブを交換します。一方で経鼻栄養補給は胃ろうと比べてチューブが細く詰まりやすいことや、チューブが汚れるとその汚れが肺に入って肺炎の原因になるため、通常1~4週間ごと交換が必要です。
経口摂取や嚥下訓練との併用が難しい
経鼻栄養補給ではチューブが鼻腔や咽頭を通るため、のどの違和感が強くなり、胃ろうや腸ろうのように経口摂取(口からの食事)と併用したり、経口摂取に戻るための嚥下訓練をしたりするのが難しくなります。
自分で引き抜いてしまうことがあり誤嚥の恐れがある
経鼻栄養補給は装着時の違和感があるため、寝ている間に無意識で触ってしまったり、自分でチューブを引き抜いてしまうことがあります。
チューブが抜けていることに気づかずに栄養剤を注入すると、重大な誤嚥事故につながる恐れがあります。
チューブが細いため詰まりやすい
経鼻栄養補給で使われているチューブは胃ろうよりも細いので、栄養剤や薬の投与により詰まりやすい欠点があります。
在宅での経鼻栄養補給(経鼻経管栄養)のケア方法
チューブの交換・挿入について
チューブは1〜4週間ごとに交換し、片方に負担がかからないように可能であれば左右の鼻に交互に入れ替えます。鼻腔から咽頭を通って胃まで届くチューブの交換・挿入は医療行為です。介護職員にはお願いできません。訪問診療や訪問看護などの際に医師や看護師に行なってもらいましょう。家族がかかりつけ医や訪問看護師などの指導を受けて、交換や挿入をすることも可能です。
経鼻栄養補給をしている人が認知症の場合には、1日に何度もチューブを引き抜いてしまうことがあります。チューブが抜けたことに気づいたけれど家族が再挿入できない場合には、医療機関や訪問看護などに連絡をしてください。
在宅での栄養剤投入について
在宅で家族が栄養剤を注入する場合には、準備や注入の手順、注意点、栄養剤や水分補給のタイミングや速度などについて、かかりつけ医や訪問看護師などの指導を受けましょう。これらは胃の大きさやチューブの太さ、便の状態、持病などによって各患者ごとにやり方が異なります。
特に注入前にチューブが抜けていないかを確認したり、注入が終わった後に上体を起こした姿勢のままで30分から1時間ほどいてもらったりなど、誤嚥を防ぐためのポイントを押さえておくと安心です。
在宅介護で気を付けたい症状
在宅で経鼻栄養補給をする場合には、以下のような症状に注意しましょう。
注入中に注意するべき症状
以下のような症状が出て場合には、注入を中止して医療機関に連絡をしましょう。
頻発するしゃっくり
注入中にしゃっくりが頻発する場合には、何らかの刺激により横隔膜の痙攣が起こっていることが考えられます。
吐き気や嘔吐
注入の中止と共に、誤嚥しないように横を向かせたりといった対応が必要です。
いつもと違う様子
苦しそうな呼吸や顔色の変化、痰が絡む、腹部膨満感を訴えるなど、いつもと違う様子があった場合にも医療機関への連絡が必要です。経鼻経管栄養チューブが外れており、肺に栄養剤が注入されてしまった死亡例もあります。
注入直後には、呼吸音の変化(ゴロゴロした音がないか)や苦しそうではないかを確認しましょう。
注入後に注意するべき症状
下記のような症状がみられた場合にも、かかりつけ医や訪問看護師などに相談をしましょう。
下痢
下痢とは便が液状になってしまう症状です。便の回数が増えても、液状でなければ下痢ではありません。栄養剤の濃度や水分量、温度により、下痢になることがあります。経管栄養チューブが不衛生な場合にも下痢になることがあり、原因をつきとめることが必要です。
便秘
排便の回数が減ったり、便が固くなったり、腹部の張りや痛みが感じられたりする症状です。水分不足や運動不足、食物繊維不足などが考えられます。
皮膚トラブル
チューブを固定しているテープの位置がかぶれたり、挿入部分にびらんや潰瘍などの皮膚トラブルを起こす場合があります。
経鼻栄養補給(経鼻経管栄養)で使う栄養剤
保険適用と不適用がある
経管栄養で使用する栄養剤(流動食)には、保険が適用される「医薬品タイプ」と保険が適用されない「食品タイプ」があります。どんな栄養剤を使用するかは医師の指示に従いましょう。
医薬品タイプ
医薬品タイプの栄養剤は、「経腸栄養剤」と呼ばれています。医療保険が適用されますが、医師の指示、処方箋が必要です。
経管栄養で使われるほかに、普通の食事を食べていても栄養状態の悪い方には、口から飲むために処方されることもあります。
食品タイプ
食品タイプには2つの種類があります。
ひとつは、通常の食事をミキサーなどで粉砕した食品を増粘剤などで粘度を調整したものです。家庭の食事に近く、治療食の対応がしやすいというメリットがありますが、粘度調整が必要であり鼻からの栄養補給では基本的に用いられません。
もうひとつが、少量で高カロリーが得られる濃厚流動食です。経口摂取(口からの食事)ができている方にも利用してもらえるように、おいしく食べられるように工夫されているものがあります。半固形化した栄養剤もありますが、鼻からの栄養補給では基本的に用いられません。
導入後、口から食事できるまで回復する?
経鼻栄養補給をする方は、消化機能が保たれています。そのため、食欲や嚥下機能が回復すれば口からの食事に戻れる可能性もあります。
ただし、経鼻栄養補給の場合、鼻腔から咽頭までチューブが通っているので嚥下訓練はしにくいでしょう。本格的な嚥下訓練が必要な場合は途中で経鼻栄養補給から胃ろうに変更が必要なこともあります。
また、口から食事をしなくても、チューブが通ることで口の中の細菌が増えやすくなっているので、誤嚥性肺炎の予防のために口腔ケアは大切です。
まとめ
経鼻栄養補給(経鼻経管栄養)は、手術の必要がなく始められる経管栄養です。ただし、鼻から咽頭を通って胃までチューブを通すため、見た目や装着時に違和感があります。また、並行して嚥下訓練がしにくいのもデメリットです。
本人の状態や生活スタイル、目標を考えて、他の栄養摂取法と比較しながら、本人や医療スタッフや介護スタッフと十分話し合って選びましょう。
※この記事は2020年1月時点の情報で作成しています。
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日本内科学会 総合内科専門医、日本老年医学会所属
15年目の内科医師です。大学病院、総合病院、クリニックでの勤務歴があります。訪問診療も経験しており、自宅や施設での介護についての様々な問題や解決策の知識もあります。