母が2年前に脳梗塞を起こしました。リハビリのかいもあり、杖で自由に移動できるまで回復。現在は、私の家の近くのサービス付き高齢者住宅でひとり暮らしをしています。頻繁に電話しているのですが、記憶力が低下していることや時々会話が理解できないことに自信を無くしてしまっています。いわゆるまだら認知症の症状が出ているのですが、「わかんない。もうバカになってしまった」と、よく口にするようになり、ふさぎ込むことが多くなりました。聞いている私も辛いです。
どうすれば、不安を取り除けるでしょうか? また、これからどのように症状は進んでいくのでしょうか? 教えてください。
脳梗塞後にまだら認知症の症状が出ているとのこと。脳血管性認知症の診断を受けているのではないでしょうか? まだら認知症は脳血管性認知症の方によくみられる症状で、症状を自覚している方が多く、そのためふさぎ込んでしまうこともあります。
ここでは、質問内容であるまだら認知症の方への対応や進行に加えて、症状や原因、アルツハイマー型認知症との違いについて解説します。現在や今後の生活の参考にしてください。
まだら認知症について知ろう
まだら認知症とは、認知症の種類ではなく症状のことです。症状に波があり、日時やタイミングによって症状が変動します。また、できることとできないことの差が大きいといった特徴もあります。まずは、まだら認知症とは何かという基礎知識からみていきましょう。
まだら認知症の原因
●脳血管性認知症
まだら認知症は、さまざまな種類の認知症の中でも、脳血管性認知症に起こりやすい症状です。脳血管性認知症は、脳のダメージを受けた部位によって症状が異なります。脳のダメージを受けた部位の機能が低下し、ダメージを受けていない部位の機能は比較的保たれるので、症状がまだらの状態になりやすいのです。
特にラクナ梗塞という脳の深部を流れている細い血管が詰まるタイプの脳梗塞で、まだら認知症になりやすいといわれています。脳梗塞の経験がない、脳血管性認知症と診断されていないけれども、まだら認知症と思わしき症状が見られるという場合には、ラクナ梗塞を発症しているという可能性もあります。
脳の血流の変化によるもの
脳の血流が低下したタイミングで、まだら認知症の症状が出る場合があります。脳血管性認知症に限らず、寒暖の差がある時、食後、起床時、水分不足の時など脳の血流が低下しやすいときに症状がみられやすくなります。
自律神経の乱れや身体の不調など
自律神経は、意識の覚醒や血圧のコントロールに関わっています。この自律神経のバランスが乱れたときに、まだら認知症のような症状が出ることがあります。レビー小体型認知症やパーキンソン症状がある方は、自律神経の調整が難しくなっているため、症状に変動がみられやすくなります。
また、認知症のある方は、体調が悪くてもうまく周りに伝えることができないことがあります。便秘や痛みなどの不快感から、まだら認知症のような症状が出てしまうことがあります。食事の量や身体の動かし方などに変化がないかを注意してみてみましょう。
アルツハイマー型認知症との違い
全般的に認知機能が低下するアルツハイマー型認知症との違いのひとつが、このまだら認知症の症状です。脳血管性認知症では、時間や日によってまだらに症状が出るだけではなく、記憶力が低下しているのに、判断力や理解力は保たれているなど、出る症状にばらつきが見られます。
認知症を自覚しているかどうかも大きな違いです。脳血管性認知症の場合は初期から認知症であるという自覚があることが多いのに対して、アルツハイマー型認知症は自分が認知症であるという自覚がないことが多いです。 また、アルツハイマー型認知症と診断されている方の中には、脳血管性認知症を併発している「混合型認知症」のケースもあります。
まだら認知症の症状と進行
まだら認知症の症状が出る脳血管性認知症は、脳のどこが障害されているのかによって、症状も進行も様々です。主な症状とどのように進行していくのかを確認していきましょう。
まだら認知症の症状の特徴
まだら認知症では、症状の強さが日時やタイミングによって変化します。記憶が断片的になるだけではなく、注意力や集中力、理解力も時間や日によって変わります。
そのため「朝できたことが、夕方になるとできない」、「昨日のことは覚えているのに、今日のことは覚えていない」という症状になり、怠けている、とぼけているなど、周りの人から誤解を受けてしまうこともあります。
また、もの忘れは激しいのに、判断力や理解力は保たれているなど、症状にばらつきがあるのも特徴です。
症状の自覚について
質問者さんのケースのように、まだら認知症を伴う脳血管性認知症の方の多くに、認知症だという自覚があります。そのため、もの忘れや失敗を気にしてしまったり、悲観的になったり、自信を無くしたりと、抑うつ状態や意欲の低下がみられやすいです。また、他人をひがんでしまうこともあります。
脳血管性認知症の症状について
脳血管性認知症でみられるその他の症状についてもみてみましょう。
身体症状の例
- 運動麻痺や感覚麻痺
- 歩行障害
- 嚥下障害や構音障害(言葉をうまく発音できない障害)
- パーキンソン症状 など
物を覚える能力の低下
新しい出来事を覚える能力の低下がみられます。アルツハイマー型認知症とは異なり、忘れたことを自覚しているのが特徴です。記憶が入り混じるため、混乱してしまうこともあります。
遂行能力の低下
遂行能力とは、目的を成し遂げるために、計画し、順序立て、効率的に進める能力のことです。効率的に家事や料理を進めたり、1度に2つのことを同時進行したりすることが苦手になります。
感情失禁
ささいなきっかけやきっかけがないのに感情があふれ出てしまう現象です。急に泣いたり笑ったり、怒りっぽくなったりします。
脳血管性認知症の進行について
脳血管性認知症では、出る症状や順番は人それぞれです。進行しない状態が続いたかと思えば急に悪化し、また安定した状態が続く…といったように、階段状に進行していきます。
まだら認知症の方への対応方法
続いて、質問にもあった、まだら認知症の症状が出ている方への対応をみていきましょう。質問者さんのご家族はサービス付き高齢者向け住宅にお住まいとのことですが、自宅で介護をする場合の対応方法もあわせてご紹介します。
症状が出ている時には落ち着ける環境を
まだら認知症の症状が出ていてぼーっとしている時には、落ち着ける環境で過ごせるようにしましょう。お住まいのサービス付き高齢者住宅や利用しているデイサービスなどに症状を説明し、配慮してもらえるようにすると良いでしょう。
自覚への配慮を
認知症だと本人が自覚している場合、もの忘れや失敗を指摘されることで、不安や落ち込み、ひがみなどの症状が強くなってしまうことがあります。非難されたと羞恥心を感じたり、自尊心を傷つけたりしないような配慮が必要です。本人が感じている辛さに寄り添うような対応を心がけましょう。
また、「私はバカになってしまったから」というような発言が、認知症を自覚している人から出ることがあります。大切な家族からこの言葉を聞くと、質問者さんのように辛い気持ちになるのは当然です。口癖のようになっている場合は、「これだけ話せればバカじゃないよ」など、できるだけ前向きな言葉をかけると良いでしょう。本人が真剣に困っているようだったら、否定をせずに「辛いよね」と気持ちを受け止め、共感を示すようにしてください。
症状を観察して記録しておきましょう
観察して記録することで、まだら認知症の症状がどのようなタイミングで出るのかを探ると良いでしょう。
記録で分かったことを主治医やケアマネジャーなどに相談することで、血圧の変動や脱水など、まだら認知症を引き起こしている原因がわかり、改善できるかもしれません。まだら認知症の症状を改善することで、ご本人の辛さも軽減されるでしょう。
まとめ
まだら認知症は、特に脳血管性認知症の方でみられる症状です。時間や日によって症状の強さに波があり、周囲の人に「怠けている」、「とぼけている」と誤解されてしまうことがあります。また、アルツハイマー型認知症とは異なり、認知症の自覚がある方が多いのが特徴です。そのため、ご本人が辛い思いをしていることも少なくはありません。
ご本人だけでなくご家族の辛さも軽減するために、知っておきたいまだら認知症への対応などを、この記事ではご紹介しました。まだら認知症の症状がみられているご家族がいる方の、お役に立てればうれしいです。
※この記事は2021年11月の情報で作成しています。
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医師:谷山 由華(たにやま ゆか)
【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤
内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている