私たち一家と要介護4の義母とで同居しています。介護期間が長くなり、仕事と介護で身体的にも精神的にも休む時間がないので、ショートステイをもっと利用したいと考えているのですが、宿泊費や食費といった費用がネックです。
そのことをケアマネに相談すると、世帯分離という方法があることを教えてもらいましたが、どれくらい費用が安くなるのか、どんなデメリットがあるのかよくわかりません。わかりやすく教えていただけますか? また、どれくらい費用が安くなるのかも知りたいです。
役所に届け出をして、同居している家族を世帯ごとに分けることを世帯分離といいます。世帯分離をすると、親の収入がない、または低い場合には、質問にあるようなショートステイの費用などの介護費用が安くできる可能性があります。ただし、条件によっては国民健康保険料が増えるといったデメリットもあるので、慎重に手続きをするかどうかを考えなくてはいけません。
ここでは、世帯分離で安くなる可能性のある費用やデメリット、手続き方法などについてご紹介します。要介護の親と同居中の方や同居を検討中という方は、ぜひ生活の参考にしてください。
世帯分離とは
まずは、どんな時に世帯分離をするのかをみてみましょう。
世帯分離の目的
世帯分離は、それぞれが独立した家計を営んでいるという条件のもと、収入の少ない世帯の住民税を下げることが目的です。
同居をして介護をしている家族が、親世帯と子世帯で世帯分離をすることで、所得がない、もしくは少ない世帯の住民税を軽減できる可能性があります。住民税が軽減されることで、結果的に介護費用の自己負担額を抑えることができるため、世帯分離は選ばれています。
親と子の世帯を分けるだけではなく、夫婦間でも世帯を分けることは可能です。ただし、扶養義務のある夫婦では認められないケースもあります。
分離した世帯をまた一緒にすることも可能
世帯分離をした後でも、世帯合併の手続きをすれば、再び同一の世帯に戻ることが可能です。世帯分離も世帯合併も、世帯変更という手続きのひとつなので、手続きの煩雑さは変わりません。
世帯分離で軽減できる費用
それでは、世帯分離をして世帯の所得が少なくなることで、軽減できる可能性のある費用を見ていきましょう。
住民税
世帯分離をすることで、所得の低い世帯の住民税を下げることができます。所得が一定の金額を下回ると、住民税が非課税となります。
後期高齢者医療制度の保険料・国民健康保険料
75歳以上の後期高齢者に適用される後期高齢者医療制度の保険料は、所得が一定以下の世帯には軽減措置があります。 また、前年の所得によって計算される国民健康保険料が軽減される可能性があります。
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介護保険サービスの自己負担割合
介護保険サービスの自己負担額は原則1割ですが、一定以上の所得がある方は、所得に応じて2割または3割となります。現在、2割または3割に該当している方は、世帯分離によって所得が下がることで、自己負担割合が下がる可能性があります。
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高額介護サービス費の負担上限額
高額介護サービス費とは、介護サービスの1カ月の利用料が高額になった際に、申請により負担上限額を超えた分の金額が後から支給される制度です。この負担上限額は所得によって5段階に分けられているため、世帯の所得が少なくなることで、負担上限額が下がる可能性があります。
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高額医療・高額介護合算療養費制度も同様です。
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介護保険施設の居住費と食費
所得の低い方が介護保険施設に入所する場合に、食費や居住費の負担を軽減するための制度に、特定入所者介護サービス費があります。介護保険施設とは、特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院です。質問にあるショートステイについても、介護保険施設であれば適用されます。 この制度を利用するには、市区町村に自ら申請して「介護保険負担限度額認定証」を交付してもらい、それを利用する施設に提示する手続きが必要です。
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予防接種の無料制度
自治体ごとに、低所得の方のインフルエンザなどの予防接種費用を、軽減または無料にする制度があります。
同居しながら生活保護は受給できる?
介護中の方が、世帯分離と同時に検討することが多い制度に、生活保護があります。ただし、生活保護のために世帯分離をすることは認められていません。 また、生活保護は世帯分離の手続きに関係なく、同じ家に住んでいる家族を同じ世帯として考えるため、生活保護が受けられないと判断されることがあります。ただし、世帯分離後に親世帯が長期間の施設入所や入院が必要になった際には、生活保護を受けることが可能です。
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世帯分離のデメリット
介護をしている世帯にはメリットが大きいように思える世帯分離ですが、条件によってはデメリットもあるので注意しましょう。
国民健康保険料が増えるかも
どちらの世帯主も74歳以下の場合に注意したい項目です。国民健康保険料は、それぞれの世帯主が支払うので、同一世帯(=世帯主1人)と比べて、分離した世帯(=世帯主2人)のほうが高額になる可能性もあります。
介護費・医療費が合算できない
世帯を2つに分けて、どちらの世帯にも要介護者や医療費がかかる方がいる場合に注意したい項目です。高額介護サービス費や高額医療・高額介護合算療養費の申請の際に、今まで一つの世帯として合算できていたものが、合算できないため割高になってしまうことがあります。
住民票が別々になる
世帯分離をすると住民票が別々になるため、親世帯の住民票や印鑑登録証を取得するさいには委任状が必要になります。
扶養から外れてしまう
子世帯が世帯主となり、親世帯を扶養に入れていた場合、世帯分離をすると扶養から外れてしまいます。会社の扶養手当や家族手当の対象からも外れます。
世帯分離の手続き方法
続いて、世帯分離の手続きを紹介します。手続きは、住民票のある市区町村の役所の住民課または戸籍課で行います。詳細は各自治体にお問い合わせください。
持ち物
- 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど写真付きの物がよい)
- 印鑑
- 国民健康保険の方は国民健康保険証
- 国民健康保険の方は国民年金を支払っていくための通帳かそのキャッシュカード
手続きの流れ
- 「住民異動届」という書類を入手する
- その書類に必要なことを書き、捺印して、提出する
- (国民健康保険の方)国民健康保険の手続きをする
窓口で世帯分離の理由を聞かれることがありますが、適切な理由を告げるようにしましょう。世帯分離は同じ家に住んでいても、家計が別な場合に行う手続きであり、生活保護を受けたり介護にかかる費用を安くしたりするための制度ではありません。自治体によって対応がかなり違うようですが、申請前には、適切な判断ができる担当のケアマネジャーに相談をしてみると良いでしょう。
まとめ
同じ家に住んでいても家計が別の世帯を分ける世帯分離は、安心介護内でも質問が多く、気になっている介護者の多い手続きです。世帯を別にして所得を下げることで、住民税の他に、介護保険サービスの自己負担額や、介護保険施設の食費・宿泊費などの様々な介護費用を軽減できる可能性があります。
メリットしかないわけではなく、条件によっては国民健康保険料が高くなるなどのデメリットがあるので、慎重に判断すると良いでしょう。
世帯分離は世帯を分けることで、所得の低い世帯の住民税を下げるために行うものです。生活保護の受給や介護費用を抑えることが目的ではないことを理解したうえで、メリットとデメリットを比較して、手続きをするかどうか決めると良いでしょう。
※この記事は2021年12月時点の情報で作成しています。
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【経歴】
1982年生まれ。
医療福祉系学校を卒業後、約11年医療ソーシャルワーカーとして医療機関に勤務。
その後、一生を通じた支援をしたいと思い、介護支援専門員(ケアマネジャー)へ転身。
2017年1月 株式会社HOPE 設立
2017年3月 ほーぷ相談支援センター川越 開設
代表取締役と共に、介護支援専門員(ケアマネジャー)として、埼玉県川越市で高齢者の相談支援を行っている。
他に、医療機関で、退院支援に関するアドバイザーと職員の指導・教育にあたっている。
医療・介護に関する新規事業・コンテンツ開発のミーティングパートナーとしても活動。大学院卒(経営研究科)MBA取得している。
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