老年症候群という言葉はあまり聞きなれない言葉かと思います。そのため言葉を聞いてもどんな状態なのかわからないというお声を良く聞きます。今回は老年症候群とはどういう状態なのかというところについてご紹介します。この記事を読むことで老年症候群について理解ができ、家族など周りの老年症候群の方の理解へ繋がればと思います。
老年症候群とは?
一般的には加齢により全身諸臓器の機能が低下し、さまざまな疾患が複合して起こることで、医師の診察や介護・看護を必要とする症状・徴候の総称です。危険な老化という意図もあります。
年齢層によって発現する症状や疾患が異なってきますが、後期高齢者にあたる75歳以上になると老年症候群となる方が多い傾向にあります。また、慢性疾患のある方は老年症候群を併用しやすいという特徴もあります。慢性疾患に加えて老年症候群が見られた場合は包括的な医療、介護を必要とすることとなります。
老年症候群は大きく分けて3つに分類されます。
1つは主に急性疾患に付随する症候であり、若い人と同じくらいの頻度でおきるが、対処方法が高齢者では若い人と違って工夫が必要な症候群であること。
2つ目は主に慢性疾患に付随する症候であり65歳の前期高齢者から徐々に増加する症候群であること。
3つ目は75歳以上の後期高齢者に急増する症候であり、ADL(日常生活活動度)の低下と密接な関連を持ち、介護が重要な一連の症候群となります。
老年症候群の特徴
老年症候群には以下3つの特徴があります。
明確な疾患として扱われない
後述する老年症候群の症状が見られるとそれは何かの病気の徴候なのかもしれないと考える方が多いかと思います。ですが、実際に医療機関を受診しても老化という言葉で片づけられてしまうということも少なくありません。専門医(老年内科医・老年病専門医)は常に考慮している状態ではあるものの臓器別診療科が単科で対処することがしばしば困難であることが多い症候群であるという特徴があります。
明確な疾患としてではなく老化として扱われてしまうのが老年症候群になります。
致命的な症状ではない
後述する老年症候群の症状は一見するといろいろな症状があります。これらの症状は、転倒、意識障害、不明熱、嚥下障害、褥瘡、尿失禁、便秘、呼吸困難、抑うつ、認知症など複数の原因疾患や身体の状態で起こるものですが、これらほとんどが命に直接かかわるものではありません。そのため、症状として出現している方にとってはとても辛いのですが、致命的ではないことからも前述したように老化という言葉で片つけられてしまう傾向にあるのです。
最初から日常生活障害が顕在化しない(自覚しにくい)
老年症候群の症状は、じわじわと増強していく傾向にあります。そのため、最初はあまりわからなくても気が付いたら日常生活に支障をきたしているということも少なくありません。このように日常生活に影響を及ぼすまで症状を自覚しにくいというのも老年症候群の大きな特徴になります。
老年症候群の具体的な症状
老年症候群はさまざまな症状があり、その数は50項目以上であるとされています。今回は、3つの段階での症状をご紹介します。
加齢変化がない症状
加齢の変化がない、つまり前期高齢者であっても後期高齢者であっても現れる可能性があり、症状の重さなどは変わらない症状です。
加齢変化がない症状にはめまい、息切れ、腹部にしこりができる、胸や腹に水がたまる、頭痛、意識障害、不眠、転倒、骨折、腹痛、黄疸、リンパ節腫脹、下痢、低体温、肥満、睡眠時呼吸障害、喀血、吐下血が挙げられます。
前期高齢者(75歳以下の高齢者)で増加する症状
前期高齢者、つまり75歳以下の高齢者に増加する症状のことを言います。これらの症状には認知症、脱水、麻痺、骨関節変形、視力低下、発熱、関節痛、腰痛、喀痰、咳嗽、喘鳴、食欲不振、浮腫、しびれ、言語障害、悪心嘔吐、便秘、呼吸困難、体重減少が挙げられます。
後期高齢者(75歳以上の高齢者)で増加する症状
後期高齢者、つまり75歳以上の高齢者に増加する症状のことを言います。これらの症状には認知症、脱水、麻痺、骨関節変形、視力低下、発熱、関節痛、腰痛、喀痰(痰が出る)、咳嗽(咳が出る)、喘鳴、食欲不振、浮腫、しびれ、言語障害、悪心嘔吐、便秘、呼吸困難、体重減少などが挙げられます。
また、上記の症状に明記はしていませんが、近年老年症候群の症状の中でも特に注目されているのがフレイル(虚弱)です。
フレイルの定義はさまざまあるのですが「体の予備能が衰えてしまい、少しの身体的、精神的ストレスに対して回復できない状態」というように言われています。米国の報告によると、65歳以上の高齢者の 6~7%がこのフレイルの状態にあるとされていますが、90歳以上になると30%以上がフレイルの状態にあると考えられています。フレイルとなると筋力低下、歩行速度の低下、意欲低下が顕著に見られ体重減少も起こります。
なぜ、このフレイルという状態が注目されているかというとフレイルは、フレイルとなる前段階で発見し、対処することができれば元の加齢にふさわしいレベルにまで改善することが期待できるからです。逆になかなかフレイルに気づけず放置してしまうと肺炎や脳卒中などの軽度の急性疾患に罹患した場合でも身体、精神状態が容易に悪化していき、最終的には介護状態の進行、命に影響を及ぼすということにつながっていきます。
老年症候群の予防
老年症候群が発症することによってQOL(生活の質)低下や日常生活機能低下を来すことが多いことから、老年症候群の予防は、高齢者の健康寿命のためにも非常に重要なポイントとなります。以下のような事に気を付けて、老年症候群を予防しましょう。
転倒防止・適度な運動
筋力が低下すると転倒から骨折し、寝たきりにつながる場合があります。ウォーキング、ストレッチなど、特に下半身の筋力が低下しないように、適度な運動を日々取り入れましょう。
口腔内のケア
噛むことは認知症の予防にもつながります。口腔ケアをすることで歯の健康を保ち、噛む力を衰えさせないようにしましょう。他にも口腔ケアをすることで、誤嚥性肺炎や病気の予防にもつながります。
高齢者の口腔ケアの方法は?誤嚥性肺炎の予防に口腔ケアが重要 - 介護の専門家に無料で相談「安心介護」介護の基礎知識
低栄養に気を付ける
食事量の減少から低栄養になると前項に紹介したフレイルにもつながります。毎日のバランス良い食事で低栄養を防ぎましょう。
高齢者に起きる「低栄養」とは? - 介護の専門家に無料で相談「安心介護」介護の基礎知識
感染症の予防
高齢者は、体力が減少することで感染症にかかりやすくなっています。ワクチン接種を行う事で、インフルエンザ等の感染症の予防ができます。
高齢者がかかりやすい感染症とは - 介護の専門家に無料で相談「安心介護」介護の基礎知識
人と会う機会を作る
家に引きこもり、外部からの刺激がない生活をしていると認知機能の低下を招く場合があります。外部の人と会って会話や交流をすることで脳に刺激を与えるようにしましょう。
老年症候群の症状が見られたら・・・
老年症候群の症状が見られたら、症状が進行する前に早めに医療機関を受診して対処してもらうことをおすすめします。ですが、前述したように医療機関を受診すると老化と捉えれてしまい適切に対処をしてもらうことができないかもしれません。また、高齢者であり長距離の移動は心身に負担をかけてしまうことも考えられます。
ですのでもしも近くに専門医(老年内科医・老年病専門医)がいればそういった医療機関を受診して、早めに対処することをおすすめします。
また、治療においてはリハビリテーションも重要です。リハビリテーションを行い機能回復をすることによって老年症候群の悪化を防ぐことにもつながることがあるからです。医療機関や機能訓練指導員などとの連携によりリハビリテーションを行い改善する可能性がありますので、相談することをおすすめします。
まとめ
老年症候群は症状が顕著に表れにくいため気が付いたらかなり進行していて日常生活に影響を及ぼしているということも少なくありません。逆に早めに気づき、早めに対処することができれば改善させることも可能です。早期発見がカギとなりますので、高齢者がご家族にいらっしゃる方は些細なことでもいつもと違うと思うことがあれば医療機関へ相談されることをおすすめします。
また、老年症候群を予防するためにも規則正しい生活を送る、お酒やたばこを控えるなど生活習慣を見直してみてはいかがでしょうか。老年症候群にならずに1日でも長く健康的に過ごしていきましょう。
老年症候群に早期に気づけるのは本人以上に家族や友人など周りにいる人たちです。ですが、そのためにはまず老年症候群とはどのような状態であるのかを知っておくことが必要になります。
この記事を読んで老年症候群について知ることができたという方はぜひシェアをしていただき、周りの大切な方にも老年症候群についてお伝えしていただければと思います。
※この記事は2019年11月時点の情報で作成しています。

2001年、介護福祉士養成校を卒業と同時に介護福祉士を取得し特別養護老人ホームにて介護職員として勤務する。
その後、介護支援専門員や社会福祉士も取得し、介護以外でも高齢者支援に携わる。現在はソーシャルワーカーとして、
特別養護老人ホームで勤務しており、高齢者虐待や身体拘束、成年後見制度などの権利擁護について力を入れて取り組んでいる。