胃ろうの造設を検討中。メリットやデメリット、手術やその後の生活について教えてください。

胃ろうのイメージ図

質問

質問者神経難病がある母親ですが、この1年ほどは口からの食事でむせることが多くなり、誤嚥性肺炎を繰り返しています。医師からは胃ろうをすすめられていますが、本人はしっかりしており、食事は数少ない楽しみなので、その楽しみを奪ってしまうようで迷っています。 胃ろうのメリットやデメリット、手術の流れ、胃ろう後の生活について教えてください。胃ろうの手術は一度手術したら、止めることはできないのでしょうか? 再び口から食べられるようになるのでしょうか?

 

専門家胃ろうとは、胃にあけた孔のことです。そこにチューブを通して、直接胃に栄養を送り込みます。様々な原因で口からの食事が難しくなった方に提案されるものですが、ご本人も家族も胃ろう造設後の生活を不安に思い、悩まれるものです。 ここでは、胃ろう手術の内容やメリット・デメリット、術後の生活、介護ポイントについてご紹介します。参考にして、後悔のない決断をしてください。

 

胃ろうとは

胃ろうについて知る

まずは、胃ろうとはどういうものなのかをみてみましょう。

胃ろうが必要な人

生きるためには、食事から栄養を摂取する必要があります。栄養がしっかり取れていないと、治療やリハビリをしても十分に効果が表れません。

しかし、食べ物を飲みこむ機能(嚥下機能)が低下してしまうと、必要な食事量がとれずに体力が落ち、また食べ物が食道ではなく気管に入ってしまうことで誤嚥性肺炎を繰り返すようになります。健康の維持や栄養状態の悪化が心配になると、選択肢の一つとして提案されるのが胃ろうです。

認知症や筋萎縮性側索硬化症(ALS)といった神経難病などのため、自分で食べることができなくなった方、経鼻経管などの栄養摂取方法が病状の変化で適さなくなった方などに、胃ろうの造設が提案されます。また、腸閉塞や胃拡張などの状態の時、胃の中に溜まったガスや液体などを体外に排出して、胃腸の中を減圧するために胃ろうを造ることもあります。

ただし、全身状態が非常に悪い方や終末期の方、極度の肥満の方、胃を切除している人の一部など、状態によっては胃ろうの手術ができないことがあるので、医師に確認をしてみてください。

胃ろうの種類

胃ろうのカテーテル(PEGカテーテル)は、胃の内側と皮膚の外側の両側から、ストッパーで固定され、お腹の孔から抜けないようになっています。

ストッパーのタイプ 交換の頻度(目安) 交換時の痛みや圧迫感 自己抜去の生じやすさ
バルーン型 1~2か月に1度 生じにくい やや生じやすい
バンパー型 4~6か月に1度 生じやすい 生じにくい

胃の内側のストッパーには、カテーテルの先端に風船のようなストッパーがある「バルーン型」と、お椀のようなストッパーがある「バンパー型」の2種類があります。

ストッパーのタイプ メリット デメリット
ボタン型
  • 動きやすい
  • 目立ちにくい
  • チューブが短いので内側が汚れにくい
  • 栄養剤のチューブと接続する際に、毎回ボタンを開ける必要があり、片手では難しい
チューブ型
  • 栄養剤のチューブとの接続が簡単
  • チューブが長いので内側が汚れやすい
  • チューブが外側に出ているので邪魔になることがある
  • 自己抜去が生じやすい

体外部のストッパーには、チューブが出ていて栄養剤を入れやすい「チューブ型」と、体外にチューブが出ていないので動きやすい「ボタン型」があります。 胃ろうカテーテルは、個人の状態に合わせてそれぞれのストッパーを組み合わせて使用します。

胃ろうの手術とは

胃ろうの手術では何をするのかを知る胃ろう手術を受ける高齢者は、少なくはありません。とはいっても、「手術」と聞くと心配になってしまうものです。ここでは、胃ろう手術の内容を解説します。

手術の内容

胃ろうは、一般的にPEG(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy:経皮内視鏡的胃瘻造設術)という、内視鏡を使った手術で胃ろうを造設します。開腹手術で行うことはほとんどありません。

手術は主治医ではなく、胃ろう造設手術の担当医師が行います。

入院日数

一般的な手術時間は30分程度ですが、胃ろうの孔がしっかり完成するまで1週間ほどかかるため、比較的状態が良く、術後に問題が出なければ、入院期間は1~2週間ほどとなります。病院によっては1泊2日などで行っているところもあります。詳しくは主治医にご相談ください。

手術にかかる費用

胃ろう造設にかかる費用は、造設方法や入院日数などによって異なります。医療費1割負担であれば、胃ろう造設手術自体は1万円程度です。この手術代に加え、薬代などの治療費や、入院基本料、食事代などが必要になり、一般的には10万円前後の自己負担がかかることが多いと言われています。

胃ろう造設にかかる手術費用や入院費用にも、ひと月で上限額を超えた場合に、超えた金額を支給する高額療養費制度が適用されます。ただし、食事代(栄養剤費用含む)や差額ベッド代は対象に含まれません。上限額は年齢や所得によって異なるので、詳しくは病院のソーシャルワーカーなどにご相談ください。

胃ろうのメリットとデメリット

胃ろうのメリットとデメリットについて考える

胃ろう手術を悩んでいる時に気になるのは、胃ろうのメリットとデメリットでしょう。どちらも知ったうえで、本人や家族同士で話し合ってみてください。

メリット

安定して栄養を摂取できる飲みこみが悪い、食事に時間がかかってしまうなどの理由で、口からの食事では十分に栄養が摂取できなかった方も、安定して栄養を摂取することができます。栄養状態が良くなることで、体力の回復などが期待できます。

日常生活を送りやすい

洋服を着ていると、外からは胃ろうがあることはわかりません。また、胃ろうは日々の管理が必要ですが、行動の制限も少なく、日常生活を送りやすいでしょう。

誤嚥性肺炎のリスクを減らすことができる

食事による誤嚥(食べ物が食道ではなく気管に入ってしまうこと)を起こしにくいため、誤嚥性肺炎のリスクを減らすことができます。

食事介護の負担を減らせる

誤嚥に気を付けながら一口ずつ食事の介助をしていた家族にとっては、食事の介助にかかる手間や時間を軽減できます。

並行して口からの食事の訓練ができる

質問にもありましたが、胃ろうを造設したら口からの食事ができなくなるというわけではありません。胃ろうでは、経鼻経管栄養と異なり、喉にチューブがないため嚥下訓練が行いやすく、リハビリによって口からの食事に戻ることも可能です。必要が無くなった際には、胃ろうの孔を閉鎖することもできます。

デメリット

皮膚トラブルが起こることがある

免疫力が低下していたり、栄養剤や胃液の漏れがあったりすると、胃ろうの周りに皮膚トラブルが起こることがあります。また、内部ストッパーが胃の粘膜内に埋没して、胃壁に埋もれてしまうバンパー埋没症候群が生じることがあります。完全に埋もれてしまうと外科手術が必要になるので、予防や早期発見が大切です。

費用が掛かる

栄養剤の費用が掛かります。また、交換時には交換するカテーテルの材料費と処置費用が掛かります。

胃からの逆流に気を付ける必要がある

胃に入れた栄養剤が胃から逆流して気管に入ってしまうと、誤嚥性肺炎を起こしてしまうことがあります。そのため、栄養剤を注入した後には、体を起こした状態でしばらく過ごしてもらう必要があります。

胃ろう手術後の生活

胃ろう導入後に生活はどう変化するか。胃ろう手術をした後、生活はどのように変わるのでしょうか。

胃ろうの管理について胃ろうの日常的な管理として大切なのは、皮膚に赤味や腫れがないかを確認することです。胃ろうから栄養剤を注入する手順や物品の管理については、医師や看護師の指示に従ってください。栄養剤の注入が終わったら、注入口をしっかりと閉じ、胃からの逆流を防ぐために、1時間程度は上体を起こしたままでいてもらいましょう。

内部ストッパーがバルーン型の場合には、1~2週間に1度はバルーン内の水が減っていないかを確認し、必要に応じて追加します。

胃ろうのカテーテルは定期的な交換が必要です。管理記録をつけて、適切な時期に交換ができるようにしましょう。

万が一カテーテルが抜けてしまった場合には、すぐに病院に連絡をしてください。

日常生活について

胃ろうの周囲は、常に清潔に保つようにしましょう。胃ろうカテーテルのキャップが閉まっていることを確認すれば、特に保護することなく入浴できます。胃ろう周辺をきれいにし、入浴後には清潔なタオルでしっかりと水気をふき取ってください。

栄養剤の注入は、医師の指示に基づいて行います。一般的に通常の食事と同様に1日3回です。

口から食事をしていなくても、毎日口腔ケアを行いましょう。口の中の汚れが気管に入ると、誤嚥性肺炎を起こしてしまうことがあります。

手術後にかかる費用

胃ろうのカテーテルは定期的な交換が必要です。交換にかかる手技料は2,000円で、材料費はバルーン型で約8,000円(1~2か月ごとに交換)、バンパー型で約20,000円(6か月ごとに交換)です。その他、交換時に使用する内視鏡やレントゲンの費用や医薬品の費用もかかります。造設手術を行う前に、交換にかかる費用も確認しておきましょう。

注入する栄養剤は医薬品として保険が適用されます。ひと月当たりにかかる費用は、保険適用前で2~3万円程度です。

口からの食事について

「胃ろうにしたら、口から食事ができなくてかわいそう」と、考えてしまうものです。実際には、胃ろうを設置しても口から食事を摂取することは可能ですし、また喉にチューブがないため嚥下訓練が行いやすく、リハビリをして口からの食事に戻すことも十分可能です。

胃ろうで安定して栄養を摂取して体力が回復することで、リハビリの効果が高まることが期待できるかもしれません。リハビリを開始する時期は、医師と相談をして決めましょう。

胃ろう後の施設入所について

胃ろうへの栄養剤注入は、基本的に医療行為となります。そのため、家族以外で栄養剤の注入ができるのは、医師や看護師、そして一定の研修を受けた介護職員となります。

胃ろうの方が入所できるのは、胃ろうの処置が行える人員を確保している高齢者施設に限られます。最近では、受け入れ態勢が整った特別養護老人ホームや介護付有料老人ホームも増えてきました。

高齢者施設を検索するサイトの多くでは、胃ろうの受け入れが可能かどうかでも検索できるので活用すると良いでしょう。

胃ろうの人を介護するポイント

胃ろう導入者の介護で気を付けるポイントとは?

家族が胃ろうを造設したら気を付けたい、介護のポイントを紹介します。

医師の指示に従う

胃ろうの管理や栄養剤の注入方法は、医師の指示に従って行いましょう。口からの食事に戻るためのリハビリを始める時期も、医師に相談をして、無理のない範囲で始めてください。

口腔ケアも忘れずに

口から食事をしていなくても、口の中の汚れが気管に入ると、誤嚥性肺炎を起こしてしまうことがあります。毎日、ブラシや口腔用スポンジ、洗浄液などを利用して口の中を清潔に保ちましょう。

無理をしない

在宅で暮らしている方は、必ず家族が栄養剤の注入をしなくてはいけないというわけではありません。ひとり暮らしの方や家族がいない時間の栄養剤の注入は、医師や看護師、一定の研修を受けた介護職員にお願いすることができます。

ケアマネジャーに相談をして、訪問看護や訪問介護などケアプランに盛り込んでもらうようにしましょう。

まとめ

口からの食事が難しくなった方に造設される胃ろうですが、栄養状態が改善して体力が付いたら、リハビリにより口からの食事に戻すことも可能です。

誤嚥の心配をしながら食事を介助する必要はなく、外出や入浴などの日常生活にも支障はありません。ただし、日々の胃ろうの管理や栄養剤の注入が必要となり、定期的なチューブの交換も必要となります。

2012年4月からは一定の研修を受けた介護職員も栄養剤の注入ができるようになり、胃ろうの方を受け入れる体制が整った施設も増えてきました。胃ろうのメリットとデメリットを理解したうえで、本人や家族で話し合って胃ろうを設置するかどうかを決めると良いでしょう。この記事が決断のお役に立てたら幸いです。

※この記事は2021年6月時点の情報で作成しています。

医師:谷山由華
監修者:谷山 由華(たにやま ゆか)

医師:谷山 由華(たにやま ゆか)

【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤

内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている