実父が前頭側頭型認知症だと診断されました。自分勝手な行動が増えており、同居している母が心配です。これからもっとひどくなるのでしょうか? 困った行動にはどう対処したらいいのでしょうか?

認知症の家族を説得するイメージ

質問

質問者

実父が万引きを繰り返し、そのたびに反省していないことから何かがおかしいと思い、検査を受けて前頭側頭型認知症だと診断されました。社会のルールが理解できなくなっていると感じるのですが、これから暴力をふるったり、大きな罪を犯したりするようになるのでしょうか。

現在は母と2人で暮らしており、母親への態度も非常に横暴で、もともと気の弱い母が気の毒です。さらに病気が進行して自分勝手な行動が増えるのではないかととても不安ですが、あまり情報が無くて、よくわかりません。これからもっとひどくなるのでしょうか? 困った行動にはどう対処したらいいでしょうか? 教えてください。

専門家

前頭側頭型認知症は、50~60代と比較的若年で発症することの多い認知症です。かつては「ピック病」という名前で呼ばれていたので、その名前のほうを聞いたことがあるかもしれません。

社会的な関係や周囲への配慮がまったくみられずに行動してしまう症状があり、周囲の方が大変な思いをすることのある認知症です。行動をいかにコントロールするかが、大切になってきます。家族でのコントロールが難しい場合には、短期入院をして、困った行動を他の行動に置き換える方法もあります。

ここでは前頭側頭型認知症の症状や進行、困った行動への対処方法についてご紹介します。現在や今後の生活の参考にしてください。

 

前頭側頭型認知症について知ろう

前頭側頭型認知症とは?

前頭側頭型認知症の症状や対応方法を知る前に、まずは前頭側頭型認知症とはどんな病気なのかを知っておきましょう。

原因と特徴を知ろう

前頭側頭型認知症(fronto-temporal dementia;FTD)とは、脳の前頭葉と側頭葉前方が萎縮する認知症です。50~60歳代と比較的若い人に発症しやすく、65歳未満で発症する若年性認知症の主な原因のひとつになっており、厚生労働省による指定難病に認定されています。前頭葉や側頭葉の機能に関連した症状が現れます。

原因ははっきりとはしていませんが、前頭葉と側頭葉の神経細胞が変性し萎縮することで発症します。前頭側頭葉型認知症の中でも、神経細胞にピック球が見られるものを「ピック病」と呼びます。前頭側頭型認知症の約8割を、ピック病が占めているといわれています。

前頭側頭型認知症の診断

前頭側頭型認知症かも? と思ったら、まずはかかりつけ医に紹介状などの作成をお願いし、認知症に詳しい医師や病院を紹介してもらいましょう。

もし、かかりつけ医がいない場合には、神経内科や精神科などを受診しましょう。認知症サポート医など認知症を得意とする医師についての情報は、自治体がまとめており、地域包括支援センターなどで教えてもらうことができます。

病院では、本人への問診や家族から日常の様子を聞いて、現在の症状を確認するところから始まります。気になる言動の内容やいつ気付いたのかをメモしておくと良いでしょう。

続いて、一般的な身体検査、CTやMRIなど画像検査、脳血流SPECTなどにより、症状が前頭側頭型認知症なのかどうかを鑑別します。

前頭側頭型認知症の症状と進行

前頭側頭型認知症の患者の症状について理解する

「人格、社会性、発語」を司る前頭葉と「記憶・聴覚・言語」を司る側頭葉に萎縮が起こる前頭側頭型認知症は、非常に幅広い症状を引き起こします。

前頭側頭型認知症の主な症状

主な症状には、次のようなものがあります。

社会性の低下、脱抑制

質問にあるように、万引きなどの反社会的行動をしても反省しないというのは、前頭側頭型認知症の症状のひとつです。他にも、相手に合わせることができない、暴力をふるう、葬儀中に笑い出す、会議中に鼻歌を歌い出す…など、状況に合わせた行動をしたり、衝動にブレーキを掛けたりすることができなくなります。

周囲の人といさかいを起こしやすくなり、家族が対応に苦労することの多い症状です。よく関わる人には認知症の症状であることを説明しておくとよいでしょう。万引きを繰り返してしまう場合には、1人で行動する時間をなるべく減らす工夫が必要です。また、お店にあらかじめお金を預けておいたり、後でまとめて清算をしたりといった対策もしておきましょう。

病的な規則正しさ

天候に関わらず同じ時間に散歩をする、決まった時間に食事や入浴をするなど、時刻表のような規則正しい生活をするようになります。

強引に止めたり、急に変更したりすると、興奮させてしまい暴力を振るうなどの行動を起こしてしまう可能性があるため、介護者がこのリズムに合わせるようにしたほうがよいでしょう。初期のうちからデイサービスなどを習慣に組みこんでおくことで、病気が進行してからも規則正しい生活サイクルで過ごすことができます。

行動の繰り返し

「常同行動」と呼ばれ、毎日同じルートを歩き回る(周徊)、いつも同じメニューを作る・食べる、なくなるまで食べ続けるといった行動がみられます。また、異なる質問に対しても同じ答えを返してしまったり、始めた行動をいつまでも繰り返してしまったりします。例えば、「眠れましたか?」という質問に「眠れました」と答えた後に、「お腹がすきましたか?」、「今日は何をするんですか?」という質問にも「眠れました」と返してしまったり、一度始めた拍手をずっと続けたりしてしまいます。

行動を辞められないこと、繰り返してしまうことに対しての葛藤は見られません。

こちらも上記と同じく、強引に止めてしまうと暴力を振るうなどの行動を起こしてしまう可能性があります。ケガや事故の防止ためにしっかり見守りをして、なるべく自由にさせてあげましょう。

食行動の異常

甘いものや濃い味付けのものを好むようになります。進行期には、食べ物だけではなくなんでも口に入れて確かめようとすることがあるため、口に入る大きさのものは目の届かないところにしまっておくようにしましょう。また、同じ料理や食品にこだわって食べ続けることがあります。

自発性の低下、無関心、被影響性の亢進

自分から何かをしようとすることがなくなり、質問に対して適当に答える(考え不精)、ボーっとして何もしないといった様子がみられます。また感情が鈍くなるので、他者に対して無関心となり、共感や感情移入ができないなどが起こります。

その他、周囲で起こっていることに影響されやくなり、注意や集中力がささいな刺激でそがれて反射的に反応してしまう被影響性の亢進もみられます。相手の言葉をオウム返しする、動作を真似るなどがあげられます。

前頭側頭型認知症の進行

海馬の萎縮により起こるアルツハイマー型認知症とは異なり、早期のうちには記憶障害は目立ちません。上記のような症状がゆっくりと進行していきます。本人には病気であるという自覚はありません。

移動、入浴、食事、更衣、排泄などの日常生活動作(ADL)は、軽度のうちには以前とは変わりませんが、進行と共に徐々にできないことや失敗が増えていき、最終的には寝たきりの状態になります。発症してからの平均寿命は6~9年といわれています。

困った行動への対処方法について

前頭側頭型認知症の問題行動への対処法を説明する



前頭側頭型認知症の方への介護については、症状に苦労しているという声や介護者を心配する声が安心介護内にも投稿されています。 質問者さんのように前頭側頭型認知症の方の対応に困った場合の対処方法についてみていきましょう。

困った行動への対処方法

前頭側頭型認知症に対しては、進行を止める薬や治療方法はありません。行動を観察し、自然体で接しながら、生活環境を整え、行動を適切にコントロールすることが大切です。

規則正しい生活を好むので、急激な変化や刺激を避け、パターン化した生活を送るようにしましょう。早期のうちから、デイサービスを習慣に組みこむのもポイントです。

また、問題を起こす行動を繰り返してしまう場合、その時間を折り紙やビデオ鑑賞、お絵描き、パズルなど得意な作業や好きな活動を日課に変える「ルーチン化療法」という方法もあります。注意や集中力を持続することが苦手なため、できるだけ静かな環境を用意しましょう。

甘い食べ物を食べ続けてしまったり、車に乗るとあおり運転をしてしまったりなどに対しては、目の前に問題となりそうなものを置かないようにすることも大切です。

本人や周囲に悪影響を与える症状に対しては、症状を落ち着かせるために抗精神病薬など薬を使用することもあります。詳しくは主治医にご確認ください。

前頭側頭型認知症の方の入院について

家族では問題行動をコントロールできない場合、一時的に入院をして、その行動を別の問題のない行動に置き換えるようにする方法もあります。

前頭側頭型認知症の方は病気だという自覚がないため、任意での入院が難しいかもしれません。その場合は、家族の同意または精神保健指定医(または特定医師)の診察により入院できる「医療保護入院」となります。もし、自傷や他害の恐れがあると精神保健指定医2名の診断結果が一致すれば、「措置入院」となることもあります。

退院後も在宅での介護が難しい場合

入院中に症状が落ち着き、自宅で生活できるようになるのが理想です。

しかし、自宅での介護環境が整わず、他の病院に転院または施設への入居を希望する場合には、病院の担当医に在宅への復帰が難しいことを伝え、病院のソーシャルワーカーなどに退院後について相談するようにしましょう。

家族が前頭側頭型認知症と診断されたら

家族が前頭側頭型認知症になったらどうする?

家族が前頭側頭型認知症だと診断されたときに、意識したいことを紹介します。

病気について理解しましょう

まずは、前頭側頭型認知症とはどういう認知症なのかを理解するようにしましょう。本人の性格や行動の変化が、認知症の症状によるものだとわかれば、対応もしやすくなるでしょう。進行によって起こりえる症状を知っておけば、心構えもできます。

本人を介護するためだけではなく、自分の心を落ち着かせるためにも、病気について理解することは大切です。

介護の相談相手を作りましょう

家族の介護は難しいものです。分からないことがあったり、耐えられないことがあったりしたら、一人で抱え込まずに、ケアマネジャーなどの介護の専門家などに相談をしましょう。

介護者同士が集まって情報交換や相談をする「家族会」に参加してみるのもおすすめです。通いやすい地域にある家族会を探してみてください。家族会の中には、「前頭側頭型認知症の人を介護している家族の会」など、対象を限定しているものもあります。

また、安心介護の「介護のQ&A」では、匿名で介護の専門家に質問をすることができます。「こんなこと相談していいのかな?」と思える悩みや疑問を投稿してみてはいかがでしょうか。

レスパイトも大切です

レスパイト(respite)とは、一時中断や小休止、息抜きなどを意味する英語です。介護では、高齢者などを介護している家族が、介護から離れる時間をつくり、リフレッシュしてもらうことを意味しています。

無理をして体調を崩してしまったり、仕事を辞めなくてはいけなくなったりすることがないように、ショートステイや通所介護(デイサービス)などを上手に利用して、介護から離れる時間をつくるようにしましょう。

まとめ

前頭側頭型認知症は、前頭葉や側頭葉の萎縮によって引き起こされる認知症です。指定難病に認定されています。記憶は保たれることが多く、反社会的行動や脱抑制、同じ行動の繰り返しなど、アルツハイマー型認知症とは異なる症状がみられます。本人には病気だという自覚はなく、反社会的行動にも悪気がないため、家族が戸惑ってしまうこともあります。

この記事では症状や進行などに加え、特徴的な症状への対処方法もまとめました。前頭側頭型認知症は、現役世代に発症することの多い認知症です。若年性認知症の支援についても、あわせて確認しておくと良いでしょう。

※この記事は2021年11月の情報で作成しています。

 

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医師:谷山由華
監修者:谷山 由華(たにやま ゆか)

医師:谷山 由華(たにやま ゆか)

【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤

内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている