病気やケガ、認知症の症状により、自宅での生活が不安になることがあります。リハビリを受けて、在宅での生活を続けたい方にお勧めなのが、介護老人保健施設(老健)です。本記事では、そのサービス内容や対象者、費用などについて解説しています。ぜひご確認ください。
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- 介護老人保健施設(老健)とは?知っておきたい基本ポイント
- 介護老人保健施設(老健)のメリットとデメリット
- 介護老人保健施設(老健)の対象者
- 介護老人保健施設(老健)のサービス内容
- 介護老人保健施設(老健)でかかる料金
- 介護老人保健施設(老健)に入所するまでの流れ
- 看護・介護を受けながら在宅復帰を目指したい方に
介護老人保健施設(老健)とは?知っておきたい基本ポイント
介護老人保健施設(老健)の基本ポイントを確認していきましょう。
在宅復帰を目指してリハビリに専念する施設
介護老人保健施設(老健)とは、自宅での生活復帰を目指している病状が安定期の方が、医師による医学的管理の下で、日常の介護や医療的ケアや専門的なリハビリテーションを受ける施設です。医療法人や社会福祉法人などが運営しています。
認知症により家族が目を離せない状態の方や入院するほどではないけれど自宅での生活に不安がある方、退院後に自宅に戻る前にリハビリを受けたい方などが利用しています。
有料老人ホームとは異なり、介護保険が適用される公的な施設です。入所時に支払う初期費用もありません。また、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)とは違い、医療や看護のサポート体制が充実しているため、医療ニーズの高い方も安心して入所することができます。“終の棲家”ではなく、自宅に戻るためのリハビリをする施設です。リハビリが必要ないと判断されると退所となります。
介護老人保健施設(老健)では、短期入所や通所リハビリテーション(デイケア)、訪問リハビリテーションなどのサービスも提供しています。
また、在宅復帰率が高くて入所期間の比較的短い「在宅強化型」、療養病床から転換された「療養型」があります。ここでは「基本型」について説明をしていきます。
介護老人保健施設(老健)に入所できる期間
家庭環境やリハビリの効果などを、3ヵ月ごとに行われる入所継続判定会儀にて話し合い、入所継続の必要性を検討します。 そこで入所の継続が決まれば、また入所期間が3ヵ月更新されることになります。
在宅復帰を目指す施設ですので、終の棲家にはなりません。公益社団法人全国老人保健施設協会によると、介護老人保健施設(老健)の平均在所日数は311日となっています。
介護老人保健施設(老健)の職員体制
介護老人保健施設の職員体制は、以下の通りです。
- 医師:入所者数が100人あたり1人以上。常勤1人以上
- 看護と介護職員:入所者3人に対して1人以上。看護と介護職員の総数の7分の2程度は看護職員
- 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士:入所者数が100人あたり1人以上
その他、支援相談員、栄養士、介護支援専門員などが配置されています。
介護老人保健施設(老健)のメリットとデメリット
介護老人保健施設(老健)のメリットとデメリットを比較してみましょう。
介護老人保健施設(老健)のメリット
- 看護や医師の人員配置が手厚く、医療ニーズが高い方でも安心して入所することができる
- 在宅復帰に向けてリハビリを受けることができる
- 初期費用がかからない
- 介護保険施設なので、有料老人ホームなどと比べると比較的安く利用でき、所得によっては住居費や食費が減免される費用軽減措置を利用できる
介護老人保健施設(老健)のデメリット
- 長期の利用はできない
- 看護や医師の人員配置が手厚いため、特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)と比べると割高
- 洗濯は家族に任されることが多く、生活支援は充実していない
介護老人保健施設(老健)の対象者
それでは、介護老人保健施設(老健)に入所できる対象者を確認しましょう。
介護老人保健施設(老健)が利用できる方
要介護度1~5の方で、リハビリテーションを必要とされる方が利用できます。病状が安定していて入院治療の必要がない方が対象です。
介護老人保健施設(老健)のサービス内容
介護老人保健施設(老健)のサービス内容を見ていきましょう。
介護老人保健施設(老健)のサービス内容
介護老人保健施設は、日中はできるだけベッドから離れて過ごす施設です。下記のようなサービスを提供しています。
- 日常生活上の支援
- 医師や看護師による管理の下で、排泄介助や移動の介助、口腔ケア、入浴や食事などの日常生活上の支援を行います。
- 食事は、施設に在籍している栄養士が栄養バランスを考えた食事が、利用者の状態に応じて提供されます。糖尿病・腎臓病などの制限食にも対応が可能です。
- リハビリテーション
- 利用者の心身の状態に合わせて、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などから日常生活に根差した個別リハビリや集団リハビリが受けられます。
- 健康管理や療養上の世話
- 医師や看護職員による健康管理や、症状や体調などに応じた療養上の世話、医療的ケアが受けられます。
- レクリエーション
- 内容は施設によって異なりますが、楽しむことよりもリハビリテーションにつながる内容のものが多いのが特徴です。
- 退所前の自宅への訪問
- 自宅を専門家が訪問し、利用者やその家族に対して療養上の指導をしてもらうことが可能です。
※サービスの内容は、サービス提供事業者によって異なります
介護老人保健施設(老健)でのリハビリについて
介護老人保健施設(老健)では、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士による週に2回の個別または集団リハビリを行っています。
また、入所から3ヵ月以内であれば、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などによる20分以上の個別リハビリを週に3日以上受けることが可能です。
脳卒中や骨折を治療した方への身体的なリハビリだけではなく、認知症の症状により自宅での生活が難しくなった方へのリハビリも行っています。
介護老人保健施設(老健)で入所する部屋のタイプ
- 従来型個室
- トイレや浴室は共用で、居室が個室になっているタイプです。洗面台やトイレ、ミニキッチンが個室内にあるところもあり、個室内の設備は施設によって異なります。
- 多床室
- 1部屋4床以下の相部屋です。ベッドの間には棚などで仕切りが作られており、プライベートが確保できるように工夫されています。
- ユニット型個室
- 居室が個室になっているタイプです。10人ほどを1つのユニットとして、共同で食堂や生活室、トイレ、浴室を利用します。
- ユニット型個室的多床室
- 以前は「ユニット型準個室」と呼ばれていた部屋タイプです。天井と壁との間に隙間があるため、隣室から音や臭気、照明の明かりが漏れるため、完全な個室とは呼べません。10人ほどを1つのユニットとして、共同で食堂や生活室、トイレ、浴室を利用するのはユニット型個室と同様です。
介護老人保健施設(老健)でかかる料金
介護老人保健施設(老健)は、基本型や在宅復帰型、療養型などの介護老人保健施設(老健)の種類、看護体制によって異なります。
ここでは、介護老人保健施設(老健)の【基本型】の料金を見てみましょう。
介護老人保健施設(老健)の1日ごとの基本料金
介護老人保健施設(老健)費は、以下の金額となります。
介護保健施設サービス費 |
従来型個室 |
要介護1 |
714円 |
要介護2 |
759円 |
||
要介護3 |
821円 |
||
要介護4 |
874円 |
||
要介護5 |
925円 |
||
多床室 |
要介護1 |
788円 |
|
要介護2 |
836円 |
||
要介護3 |
898円 |
||
要介護4 |
949円 |
||
要介護5 |
1,003円 |
||
ユニット型介護保健施設サービス費 |
ユニット型個室 ユニット型個室的多床室 経過的ユニット型個室 経過的ユニット型個室的多床室) |
要介護1 |
796円 |
要介護2 |
841円 |
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要介護3 |
903円 |
||
要介護4 |
956円 |
||
要介護5 |
1,009円 |
※自己負担割合が1割の方の金額です。一定の所得がある場合は、所得に応じて2割または3割負担となります。
※上記は基本的な利用料(「介護報酬の算定構造」令和3年4月改定版)です。サービス内容、サービス提供事業所の所在地などによって金額は異なります。詳しくは担当のケアマネジャー、もしくは市区町村の高齢者窓口や地域包括支援センターにお問い合わせ下さい。
その他にかかる費用
上記の金額の他に、部屋代と食事代がかかります。基準費用額は、1日当たり以下の通りです。
- 食費:1445円
- 従来型個室:1668円
- 多床室:377円
- ユニット型個室:2006円
- ユニット型個室的多床室:1668円
また、利用者の所得に応じた軽減制度があります。詳しくは担当のケアマネジャーにご確認ください。
その他、おむつ代や洗濯代などの日常生活費、理美容代(実費相当額)がかかります。
ひと月毎にかかる費用
ひと月毎にかかる費用は、「介護保険の基本料金」+「部屋代」+「食事代」+「日常生活費」+「各種加算」などです。
「要介護3の方が多床室を利用した場合」では、部屋代と食事代を基準費で計算すると、30日当たりで81,600円となります。
部屋代、食事代は施設によって異なりますのであくまでも目安としてください。また、日常生活費や各種加算は入っていません。
※「介護報酬の算定構造」(令和3年4月改定版)を基に計算しています。
入所時にかかる費用
入所時にかかる保証金などはありません。
介護老人保健施設(老健)に入所するまでの流れ
最後に、介護老人保健施設(老健)を利用する基本手順を確認しておきましょう。
介護老人保健施設(老健)の利用方法と入所手続き
- 入所したい施設を探す
- ケアマネジャーまたは治療を受けている病院の地域連携室に相談するか、インターネットなどを利用して自分で探すといいでしょう。サービス内容だけでなく、立地や周辺環境、利用料金などにも注意しましょう。
- 気になる施設に見学に行く
- 条件に合う施設を見つけたら、まずは見学に行き、実際の施設の雰囲気や食事の内容を見たり、実際に利用している方やスタッフとお話したりして、利用者にとって適した環境であるかどうかを確認することが大切です。体験入所を申し込んだり、ショートステイで利用してみたりしてもいいでしょう。
- 申し込みをして契約
- 見学して気に入った施設を見つけたら、事業者に直接申し込みます。入所要件や利用方法についての検討がされ、各施設の基準に照らし合わせて入所の可否が決定。その後、入所のための契約を施設と結ぶようになります。契約時は、疑問に思うことは積極的に質問をしましょう。
※上記は基本的な流れです。サービス提供事業者やケアマネジャー、利用者の状況によって異なります。
看護・介護を受けながら在宅復帰を目指したい方に
病気やケガ、認知症の進行などをきっかけに、それまでできていたことができなくなり、自宅での生活が難しくなることがあります。介護老人保健施設(老健)は、一定期間入所して看護や介護を受けながら、在宅復帰を目指してリハビリを行う施設です。医師や看護職員の配置も手厚いので、医療的ケアが必要な方も安心して利用できます。退院後に在宅への復帰が不安な方や、自宅での生活に不安が出てきた方は一度ケアマネジャーや病院の地域連携室に相談してみてはいかがでしょうか。

訪問介護事業所職員、福祉用具専門相談員。2015年から安心介護に関わっており、お話を伺った介護家族や介護職員の影響で介護職員初任者研修を取得し、訪問介護の仕事をスタートしました。2022年には介護福祉士、認知症ケア専門士の資格を取得し、自宅で介護をされる人・介護をする人、どちらも大切にしながら訪問介護の仕事を続けています。