住居への出入りのために必ず通る玄関。そのため、特に外出の機会が多い高齢者がいるご家族ではバリアフリー化を考えられることも多いのではないでしょうか。住居内より決して利用する機会が多いわけではないものの、バリアフリー化をして介護負担を少しでも軽減させていきたいもの。ここでは玄関のバリアフリー化についてご紹介します。
玄関のバリアフリー化の目的
玄関をバリアフリー化しようと考えるその目的は多くの場合以下の2つに大別されます。
段差解消
まず一つ目の目的は、出入り時の転倒防止です。玄関は家の出入り口となるため、外出のために必ず利用する場所になります。日本には古く昔から土間で靴を脱いで部屋に上がるという習慣があり、この習慣によって上り框(あがりかまち)という土間と部屋を隔てる段差があることが多いです。この段差は健康な方であればなんでもないものですが、足腰が弱っている高齢者などにとっては大きな壁となり、これが転倒の原因になり得ます。
特に戸建ての場合はこの上り框があるだけでなく、段が高くなっている住居が多いため、この段差を解消するために玄関のバリアフリーを考える方も多くいます。ちなみに玄関で転倒の事故を起こしたことのある方の割合は65歳以上で5.2%となり、住居の中でも41位:台所・食堂、2位:洗面所、3番:風呂場、4番:玄関と4番目に転倒する可能性が高い場所となっています。転倒する場所を一つでも減らすためには玄関の段差を解消することが必要であると考えられます。
玄関の段差は単につまづいて転ぶだけでなく、玄関の段差に腰かけて靴を履いたり脱いだりしようととしたときにそのまま前のめりに転倒してしまうという例も少なからずあるようです。
車椅子
二つ目の目的は、車椅子での出入りを可能にすることです。
前述したように日本古来の生活習慣によって日本の玄関にはほとんどの場合段差があります。この段差は特に戸建ての場合歩行でまたぐのも足腰が弱っている方では大変ですが車椅子であればなおさら大変です。
また、車椅子で乗り越えることが難しい段差であるため車椅子を一旦降りて要介護者が上がりそのあと車椅子を家に入れる、あるいは外用と家用で車椅子を分けている場合はその乗り換えをすることとなり、かなり大変です。
これらの負担を軽減し、転倒の可能性を少しでも少なくするために玄関のバリアフリーは必要となるでしょう。
玄関のバリアフリー化にかかる費用と期間
玄関をバリアフリー化するためにはどのようなことができるのでしょうか。費用等についてここで詳しくご紹介します。
段差解消
段差解消のためにできる玄関のバリアフリー化は段差をなくしてしまうことや、スロープの設置をすることがまず1つです。
実は、上り框の理想的な段差は15cm以内となっています。例えば、高齢者だけでなく家族で生活をされている場合には、段差を完全に解消してしまうと高齢者以外の家族が玄関を使いにくくなってしまいます。そのため、高齢者以外にも多くの世代で生活をしている場合にはスロープの設置を、高齢者が利用する頻度が高い場合には完全な段差の解消がおすすめです。
もう1つは手すりの設置です。この場合段差そのものを解消することはできませんが、手すりを設置して上がるための上がり台を取り付けることでスムーズに昇降することが可能になり、上り框を残すこともできます。スロープを設置する場合、スロープにもよりますが1日で設置できるものが多く、費用は利用するスロープによって異なります。
また、手すりの場合は上がり台と合わせて5~8万円内ででき、1日かからず工事が終了できることもあります。
車椅子の場合
車椅子を利用している人のために玄関をバリアフリー化する場合、前述した段差解消方法に加えて昇降機の利用、車椅子でも入りやすいように玄関ドアを引き戸にするなどがあります。
昇降機は車椅子ごと上がれるものや、本人のみ椅子に座って上がれるものなどさまざまな種類があり設置するものによって値段や工事期間は異なります。また、ドアについては、間口を広くしたり、段差をなくすことで車椅子でも通りやすくするため上吊り引戸を選択される方が多い傾向にあり、費用は10万円前後、多くの場合は1日での設置が可能です。
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玄関のバリアフリー化に使える補助制度
玄関をバリアフリー化するにあたって使える補助制度は、国から支給される介護保険制度と自治体から支給される補助金制度があります。
介護保険制度は介護保険制度の一環である居宅介護(介護予防)住宅改修費という項目で補助金が支給されます。支給限度基準額は20万円です。これは対象者の介護・生活を継続するための家のリフォーム全体でかかる料金の上限です。工事にかかった費用の最大9割(1割負担の方は最高18万円、2割負担の方は最高16万円、2割負担の方は最高14万円)が支給されます。
そのため、玄関をバリアフリー化した際に20万円を超えてしまった部分は、全て実費での支払いになります。例えば玄関で15万円分の補助を使い切ったがトイレも10万円分使いたいという場合も、両方のトータルで20万円ですので、はみ出た分は実費になるということを理解しておきましょう。
「介護リフォーム(住宅改修)」に関する解説・記事 | 安心介護
ですが、この支給される補助金がリセットされる場合もあります。
- 3階級介護度が上がった
- 引越した
この場合はまた20万円の工事費用まで、補助を受けることができるようになります。この支給額は要支援、要介護いずれにしても変わりません。
自治体から支給される補助制度については、それぞれの自治体によって制度や受けられる補助、支給限度額や支給対象となるバリアフリー工事の内容が異なります。そのため、ご自身の居住するあるいは居住予定のある自治体へ相談をされることをおすすめします。
介護保険制度と自治体の補助金制度どちらを使えばいいの?
介護保険制度と自治体の補助金制度どちらを使うとお得かというのは前述したように自治体によって条件や支給額が異なりますのでこの点を自治体に確認してから判断されるのが良いでしょう。
もし、どちらを利用すればいいかと考えた際にはどの程度バリアフリー化の工事をするのかというところがポイントとして考えましょう。
特に玄関の場合は、玄関という場所の性質上ほかの場所と異なり、バリアフリー化に伴いできることがかなり少ない傾向にあります。そのため、介護保険制度の活用のみの補助でも損をすることがない場合もあります。
特に玄関のみならず、玄関から道路までの(建物と一体ではない)バリアフリー化を考えている方には、屋外での工事にも補助金の支給が可能となったため、介護保険制度の活用もよいでしょう。
ですが、自治体の補助金制度の場合、金額も多かったり、できることの範囲が広かったりもするので、自分で調べて検討することに限界を感じた場合には一度担当のケアマネジャーへ相談し情報を提供してもらうのも1つの手ではないでしょうか。
まとめ
玄関をバリアフリー化することで、高齢者の方の出入りが楽になり生活がしやすくなることが考えられます。玄関のバリアフリー化に伴いできることはさまざまあり費用や期間も異なります。玄関のバリアフリー化をする際にも補助金を受け取ることができます。自分たちが行いたいバリアフリー化の内容やどの補助金制度を活用すればいいかなどは一度担当のケアマネジャーへ相談してみるとよいでしょう。
高齢者のQOLの維持、向上のためにも外出はなくてはならないものと考えます。高齢者だけでなくその家族も快適に外出ができるような玄関が理想的です。この記事を読んでもしバリアフリー化した玄関のイメージができれば、ぜひシェアをしていただき情報を広めてくださると幸いです。

2001年、介護福祉士養成校を卒業と同時に介護福祉士を取得し特別養護老人ホームにて介護職員として勤務する。
その後、介護支援専門員や社会福祉士も取得し、介護以外でも高齢者支援に携わる。現在はソーシャルワーカーとして、
特別養護老人ホームで勤務しており、高齢者虐待や身体拘束、成年後見制度などの権利擁護について力を入れて取り組んでいる。