認知症の介護では早期から専門家に相談し、アドバイスを受けられる体制を作っておくことが大切です。まずはお近くの地域包括支援センターや役所の相談窓口に行き、要介護認定の申請を行い、介護について相談したいと伝えましょう。
その際には、ご本人やご家族の意向を整理しやすいように予備知識を持っておくと良いでしょう。
ここでは、介護保険サービスの種類や手続きについてご紹介していきます。
- 認知症の介護に欠かせない公的サポート
- 種類は?介護保険サービスの多角的な支援
- 施設サービス
- 福祉用具サービス
- 住宅改修支援
- 介護保険サービスを利用するまでの基本ステップ
- 相談しながら最適な介護保険サービスを利用しよう
認知症の介護に欠かせない公的サポート
認知症の方の在宅介護には、介護保険サービスで利用できる公的サポートが欠かせません。まずは、介護保険サービスの重要性や概要を確認しておきましょう。
家族だけの介護生活は限界がある
認知症の方の介護は負担が大きく、ご家族だけで生活全般をサポートするのは困難です。なぜなら、認知症介護は長期化することが多く、認知症の症状も年とともに悪化しやすいからです。
認知症の症状は多岐にわたり、その現れ方には個人差があります。徘徊をするようになる人もいれば、暴言や暴力を振るうようになる人も。昼夜を問わず排泄のサポートが必要になる人もいるでしょう。
初期段階は物忘れ程度だったとしても、症状が進むと様々な言動の変化が見られるようになり、サポートする側の負担も増大してしまいます。過酷な介護生活が続けば、ご家族の体も心も限界を迎えてしまうでしょう。
早めに検討しておきたい介護保険サービス
ご家族が心身ともに疲弊してしまう前に、早めに検討しておきたいのが介護保険サービスです。
介護保険サービスは65歳以上の方が対象ですが、認知症と診断された場合は40歳から利用可能です。利用方法は後述しますが、お住まいの市区町村の窓口や地域包括支援センターに申請して手続きを進めます。
介護保険サービスを利用すれば、在宅介護の負担軽減につながるだけではなく、ご本人のQOL(Quality of life:生活の質)の向上も期待できます。介護の専門家のアドバイスも受けられるので、何かと心強いでしょう。
利用するには「要介護認定」が必要
介護保険サービスを利用するには、市区町村の要介護認定を受ける必要があります。
要介護度とは「必要な介護の度合い」のことです。要介護1〜5、要支援1・2の7段階に分かれていて、専門員による訪問調査や、医師による意見書などに基づいて判定されます。利用可能なサービスも要介護度によって異なります。
種類は?介護保険サービスの多角的な支援
では、介護保険サービスのおもな種類をご紹介していきます。
居宅介護支援
居宅介護支援とは、介護が必要な方が適切なサポートを受けられるように各種手続きを代行するサービスのこと。ケアマネジメントとも呼ばれ、介護の専門家であるケアマネジャーが様々なサポートをしてくれます。
おもなサービス内容は、今後の介護方針や必要な介護サービスについてまとめた「ケアプラン」の作成と、それに伴うサービス提供者や事業者との調整です。
介護サービスは多岐にわたるため、専門知識があるケアマネジャーの存在は頼りになります。
居宅サービス
自宅で暮らす人を支援するためのサービスです。大別すると訪問型・通所型・短期滞在型の3種類あり、以下のようなサービスが受けられます。
【訪問型:介護や医療の専門家が自宅に訪問】
- 入浴や排泄のサポート
- 看護師による身体状況の確認や看護ケア
- 自宅に簡易浴槽を運び入れる訪問入浴介護
- 専門家によるリハビリテーション
- 居宅療養管理指導(医師や歯科医、栄養士による指導)
【通所型:日帰りで施設に通う】
- デイサービス(食事や入浴など身の回りのサポート、リハビリ、レクリエーション)
- デイケア(おもにリハビリのために施設や病院に行き、理学療法士や作業療法士の指導を受ける)
【短期滞在型:施設に短期間滞在する】
短期滞在型のサービスは「ショートステイ」と呼ばれ、食事・排泄など身の回りのお世話やリハビリなどが行われます。ご家族の負担軽減のほか、施設に入居する前の準備として利用されることもあります。
施設サービス
介護が必要な方が入居する施設のことです。介護保険サービスで利用できる公的施設としては以下の4種類があります。
- 特別養護老人ホーム(特養)
- 介護老人保健施設(老健)
- 介護療養型医療施設
- 介護医療院
介護がメインとなるのは特養で、要介護3以上の方が対象です。老健はおもにリハビリを目的としており、滞在できるのは原則的に3ヶ月までとなっています。介護療養型医療施設は長期療養が必要な方のための施設で医療サービスが中心です。
福祉用具サービス
介護に必要な器具類をレンタルまたは購入できるサービスです。
レンタルサービスは「福祉用具貸与」といい、車いすや歩行器、介護ベッド、床ずれ防止用具などを原則1割負担で借りられます(所得額によっては2割または3割負担)。
簡易浴槽やポータブルトイレのように、衛生上、再利用にふさわしくないアイテムは「福祉用具購入」として買い取ることになっています。
住宅改修支援
要介護者が暮らしやすい住環境を整えるための住宅改修を支援します。介護保険の対象となるのは、以下のような改修です。
- 手すりを取り付ける
- 段差や傾斜を解消する(スロープの設置や敷居を低くする工事など)
- 滑りにくい床材に変更する
- 扉を引き戸や折り戸などに変更する
介護保険による補助金は最大20万円までで、自己負担分はそのうちの1割です(所得額によっては2割または3割負担)。例えば、改修工事に18万円かかった場合、自己負担額は1.8万円です。費用が20万円を超えた場合、オーバー分は全額自己負担となります。
介護保険サービスを利用するまでの基本ステップ
さいごに、介護保険サービスを利用するまでの流れを確認しましょう。
申請・手続きの流れ
基本的な手続きの流れは以下の通りです。
- 市区町村の窓口または地域包括支援センターに申請
- 認定調査員が自宅を訪問し、聞き取り調査を実施
- 医師が意見書を作成(主治医意見書)
- 2および3の結果に基づき介護認定審査会で審査
- 要介護度の決定・通知
- ケアプランの検討・作成
聞き取り調査では、ご本人の心身の状態や普段の生活の様子について確認されます。その後、要介護度が決まるまでは1ヶ月程度を考えておきましょう。そして、後日郵送される介護保険被保険者証を受け取れば、介護保険サービスを利用できるようになります。
利用するサービスはケアプランに組み込む
利用するサービスが決まったら、ケアプランに組み入れます。ケアプランはご自身で作成することも可能ですが、適切なサービスを選択するには一定の知識が必要なので、経験豊富なケアマネジャーに依頼することをおすすめします。
ケアマネジャーに相談すれば、ご本人やご家族の要望を踏まえたケアプランを提案してもらえます。客観的かつ専門的な視点からアドバイスを受けられるため、ご家族の心の負担も軽くなるでしょう。
相談しながら最適な介護保険サービスを利用しよう
認知症介護は介護者の負担が大きいうえ、終わりが見えないところも悩ましい点です。在宅介護が長期化するとサポートするご家族の疲弊が蓄積してしまうので、介護保険サービスを上手に利用することが大切です。
介護保険サービスの種類は多岐にわたり、ご本人の状況に合ったサービスを選べます。選択肢の多さに戸惑われるかもしれませんが、ケアマネジャーなどの専門家に相談すればご本人・ご家族にとって最適な選択ができるでしょう。
主任介護支援専門員 看護師
合同会社 カサージュ代表
看護師として病院勤務8年、大手介護事業者で約19年勤務し管理職を経験。
2019年8月合同会社カサージュを立ち上げ、「介護特化型研修事業」「介護離職低減事業」など介護に携わる人への支援を行っている。企業理念は「介護に携わるすべての人の幸せな生活をサポートする」。