認知症の家族がいる場合の相続
相続人に認知症の人がいる場合
被相続人(亡くなった人)の遺産を相続するときに、相続人の中に認知症の方がいることは珍しくありません。
また、現在日本は、高齢者の人口が増える一方なので、認知症の方が相続人であるケースは今後も増加するだろうと予想されます。
相続の方法は3通りあり、被相続人が遺言書を残していた場合には、原則として遺言書の内容が最優先されます。
遺言書がない場合には、遺産分割協議によって各相続人に遺産が分配されるといった運びになります。
預貯金などきっちり分けられるものであれば、法定相続分通りに分配しやすいため、さほど問題ないかもしれません。
しかしながら国税庁が発表している「相続税の申告事績の概要」によると、相続財産のおよそ4割が土地や家屋などの不動産で構成されています。
そのため法定相続分通りに遺産分割をするには、土地や家屋の売却や共同管理をしなければいけないケースもあるのです。
そこで遺産分割協議をおこなうケースが多いのですが、ひとつ問題が発生します。
遺産分割協議は、相続人全員が話し合い、取り決めをおこなわなければなりません。
しかし認知症の方が相続人である場合には、遺産分割協議での取り決めに同意をしたとしても判断能力が不十分だとして、法的には無効とされてしまう可能性があります。
こういった場合、認知症の方に後見人等がいれば、法定代理人として認知症の方の代わりに遺産分割協議に参加することが可能です。
したがって、相続が発生する前に、被相続人の配偶者の方に認知症の疑いがありそうな場合には、早めに家庭裁判所へ成年後見人等の申立てをおこなった方が良いかもしれません。
亡くなった人が認知症だった場合
被相続人(亡くなった人)が認知症だった場合に確認すべきことは、「遺言書」があるかどうかです。
「遺言書」があった場合、認知症を発症する前のもの、もしく作成時に相応の認知能力があれば、遺言書の効力は発揮されます。
基本的に認知症を発症した状態で、認知能力が認められないまま、残された遺言書は無効になります。
なお、「認知症を患っていても認知能力があると判断される」状況とは、医師2人以上が立会い、遺言書には認知能力があったという文言を記載する必要があります。加えて、立ち会った医師の署名・押印が無ければ遺言書としては認められません。
相続人に認知症の人がいる場合の相続手続き
成年後見人を利用する場合
認知症を発症している方が遺産を相続する場合には、基本的に成年後見の申立てによって選定された、補助・保佐・後見人が同意権や代理権を持つことになります。
後見人等が選定されていない場合には、親族、もしくは3親等以内の姻族の方が家庭裁判所へ申し立てをおこないます。
補助が比較的軽度の認知症の方が認定されるもので、保佐・後見に行くにつれ症状が重い方が認定されます。
被後見人になったかたは、常に認知能力が不足している状態であると判断されるので、後見人が法定代理人として遺産分割に関しての手続きをおこないます。
被補助人、被保佐人については、家庭裁判所が遺産分割について「同意権」を付与するかどうかによって対応が異なります 。
同意権とは、被補助・被保佐人がおこなう法律行為に対し、補助・保佐人が同意するものです。
遺産分割に関して同意権のある補助人や保佐人の同意なく、被補助・被保佐人が遺産分割を決めた場合、基本的にその決め事は法的に無効です。
なお、家庭裁判所が補助人に同意権を付与しなかったときには、被補助人・被保佐人が単独で遺産分割をおこなうことが出来ます。
成年後見人を利用しない場合
認知症の方で、成年後見制度を利用せずに相続する状況は、主に2つが考えられます。
1.比較的軽い症状の認知症にある状態の方。
一概には言えませんが、成年後見人制度でいうと、「補助」程度の認知能力を持っている人のことを指します。 具体的にいうと以下に当てはまる方は、ある程度の判断能力を持っていると考えて良いかと思います。
- 支障なく日常生活を送ることが出来る。
- 契約等の書面を理解し、判断できるが、独力のみで契約をおこなうことに不安を覚える。
なお、法律では遺産分割協議に明確な期限(※1)は定められていません。
したがって、話し合いが難航していた場合、かなりの時間を要してしまうケースもあります。
その間に、認知症が進行してもおかしくはないので、「大丈夫」だと思っていても、のちのちに響くこともあるので、成年後見制度の利用を検討も考えた方が良いでしょう。
2.任意後見
認知症である相続人の方に、任意後見人がいた場合には、本人に代理して遺産分割協議に参加することが可能です。
なお、任意後見人が、共同相続人(※2)であったときには、任意後見監督人が代理することになります。
※1 相続税の申告がある場合には、原則として申告期限である相続開始から10か月以内に終わらせることが望ましいといわれています。
※2共同相続人…認知症である相続人と同様に、相続人の立場にいることを指します。
亡くなった人が認知症だった場合の相続手続き
遺言書がある場合
被相続人(亡くなった人)が認知症であった場合、遺言書の効力の可否は、作成したときに認知能力(遺言能力)があったかどうかで決まります。
遺言書の種類には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言と3つあります。
公正証書遺言を作成するには様々な条件をクリアする必要がある遺言書なので、遺言能力があるときに残したとされるケースがほとんどでしょう。
問題は、自筆証書遺言や秘密証書遺言が自宅で見つかった場合です。
まず、注意していただきたいのは被相続人の自宅などで見つかった自筆証書遺言や秘密証書遺言をすぐに開封しないことです。
こちらの遺言書は家庭裁判所で検認と言う手続きをしなければ、後の紛争の原因となるだけでなく、過料を課せられる怖れもあります。
そのため、まずは検認の手続きをおこなって、開封をしてください。
その上で、その遺言書が遺言能力のある状態の時に記載されたのかどうかの判断をすることが大切です。
遺言能力の可否を判断する手段としては、病院の記録と、遺言書に記載されている日付を照らし合わせることが挙げられます。
遺言書の内容によっては、「本当に遺言者本人が書いたのか」が、しばしば相続の火種となり、裁判所で判断されることもあります。
遺言書がない場合
被相続人(亡くなった人)が認知症で、遺言書をないケースでは、通常の遺言書が無い場合と同様に、「遺産分割協議」によって遺産相続がなされます。
さいごに
今回は「相続人」、「被相続人」の方が認知症である場合のお話をしました。
相続人に認知症の方がおり、遺産分割協議などの相続の手続きが必要な場合には、後見人等が代理人になるということを覚えておきましょう。
なお、家族信託で、相続人から指名を受け、受託者になったとしても、相続に関しての法定代理人にはなれません。
受託者は信託された財産の管理権限しか持っていないので、家庭裁判所に成年後見の申し立てが必要です。
また、認知症の方(もしくは、疑われる方)の遺言書は、時として骨肉の争いにつながることがあります。
そのため、まだ元気なうちに将来について話し合い、遺言書を公正証書で作成するのも手段のうちです。
とはいえ、遺言書や成年後見制度、家族信託といった制度を利用してみたいけれど、いまいちつかめないという方もいらっしゃると思います。
そんな時には、弁護士や司法書士、行政書士といった専門家に一度相談してみてはいかがでしょうか。
※この記事は2020年7月時点の情報で作成しております。
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