高齢の親と暮らしており、子どもたちはみな独立しています。まだ認知症の兆候はありませんが、自分たちももう若くないため、今後のためにも食生活を見直したいと思っています。テレビなどでも食事によって認知症が予防できるという話をしていますが、情報が多過ぎて良くわかりません。何か特別に効果のある食材はあるのでしょうか。あまり食費にお金はかけられないので、普通の食材で効果的な食べ方を教えてもらえれば嬉しいです。
食生活の改善は若い頃から行っておくと、より効果的です。認知症という観点で見ると、この食べ物で認知症を予防できるという特別な食材は残念ながらありません。しかし、認知症の原因となる病気を予防するために生活習慣を見直すことは有効です。特に食生活は生活習慣と密接なつながりがあるため、認知症の予防を意識した食事の改善はとても重要です。
ここでは、認知症予防に役立てるための、食材や食事のとり方、工夫についてご紹介していきます。家族みんなが健康で認知症の予防ができるよう参考にしてみてください。
認知症予防には食材選びが大切?
認知症の原因にはさまざまな要因がからんでいるため、完全な予防法というのは確立されていません。しかし、食事で認知症のリスクを低下させることは可能とされています。最初に食事と認知症の関連性について見ていきましょう。
認知症と食事の関係
認知症は脳の細胞に異常が発生し、認知力が低下した状態です。脳細胞ひとつひとつが元気になれば、認知症の発症を抑えられる可能性が高くなります。
そのため、認知症予防には脳の栄養が重要なのです。
認知症の代表的な病気であるアルツハイマー型認知症でも、予防方法の基本な部分は脳血管疾患の食事と共通しています。
塩分やコレステロールに配慮した血管に良い食事は、脳にも好影響を与えることがわかっています。
予防に効く食材はない?
認知症の治療法は脳疾患などを原因とする一部のもの以外、確立されていません。
認知症に至る要因は、既往症や生活習慣、体質など多岐にわたります。
症状によっては投薬で進行を遅らせることができますが、食材については「これを食べていれば絶対に大丈夫」というものがありません。
逆にひとつの食材が良いとされていても、そればかり食べていては逆効果です。食生活の偏りは、認知症のリスクを上げる原因となります。
食生活の見直しは効果あり
先にもあったように、血管を健康に保つ食生活は、認知症予防にも効果があります。
心疾患の予防に効果があると言われる「地中海式食事法」や、高血圧の抑制が期待できる「ダッシュ食」は、認知症予防を目指す上での参考になります。
塩分や糖分、脂質の取り過ぎなどの食生活の見直し、間食を控えるといった食習慣への配慮が認知症の発症を防止します。
血管や脳に良いと言われるものを積極的に取り入れ、バランスについて考えながら食べるという姿勢が、認知症リスク軽減につながります。
認知症の危険性を高める食生活って?
認知症を防止する上で知っておきたいのが、発症の危険性を高める食事です。ここではリスクが高まる理由も併せて見ていきましょう。
塩分の取り過ぎ
塩分の取り過ぎは高血圧の原因として良く知られていますが、認知症予防の観点からも注意が必要です。
最近の研究により、高血圧患者は認知症にかかるリスクが高いことがわかってきました。
塩分の過剰摂取は血管を老化させ、脳梗塞など脳血管性認知症の原因となります。
塩分摂取は住んでいる土地柄によっても変わりますが、出汁や酸味をうまく使うなど、味付けの工夫により取り過ぎを防ぐことも可能です。
コレステロール過多
脂質異常症の持病があると、認知症の要因となりやすいと言われています。血液中のコレステロール値や中性脂肪の値が、正常値以上になることで、血管にダメージを与えます。
「悪玉コレステロール」と呼ばれるLDLコレステロールが多く存在すると、動脈硬化が起きやすく、血流が悪くなります。
これにより脳への血液がスムーズに流れなくなると、認知症の発症リスクが高まります。
血管のしなやかさが失われて脳内の血管が詰まると、思考能力に大きな影響を与える可能性があります。
抗酸化物質の不足
老化は、体内の酸化と大きな関係があるとされています。
生命活動により発生する体内の活性酸素がうまく排除されなくなると、身体を形作る細胞が傷つけられ、血管壁が厚くなったりもろくなったりする危険性があります。
また活性酸素は、アルツハイマー病の原因となる物質であるアミロイドβとも深く関わっていると言われます。
抗酸化物質を多く含む食材を摂ることで、「体内のサビ」の蓄積を抑制します。
認知症予防のために避けたい食材
認知症予防のために極力避けたい食材としては、以下のようなものが挙げられます。
- 動物性の油
- 飽和脂肪酸
- ショートニング・マーガリン
- 高濃度の塩分を含むもの
動物性の油、ショートニング・マーガリンは、LDLコレステロールを増やして動脈硬化のリスクを高めます。
認知症予防のためには、ファストフードや市販のお菓子、また味付けの濃いお惣菜などは、なるべく控えるようにしたいものです。
認知症予防効果が期待できる食材
認知症リスクが下げられる食材を知っていれば、毎日の食事作りに活用できます。認知症予防の効果が期待できる食材について紹介していきましょう。
青魚
さんま、あじ、いわし、さばなどの青魚には、オメガ3脂肪酸のDHAやEPAが多く含まれています。
DHAは脳を構成している成分のひとつで、認知機能の向上やアルツハイマー発症の抑制効果が期待できます。
EPAはいわゆる「血液さらさら成分」として働き、体内の各所の血管を拡張し、血液の流れを促進します。生活習慣病が気になる人は、積極的に青魚を選んで食べると良いでしょう。
野菜・果物
野菜の中でも特にほうれん草や小松菜、菜の花などの緑黄色野菜は、認知症予防に効果があると言われています。緑黄色野菜に含まれるカロテノイドは、高い抗酸化作用があります。
また果物の中では、いちご、キウイ、オレンジなどに含まれるビタミンBの一種である葉酸によって、動脈硬化やアミロイドβを抑制する効果が期待できます。
豆類
豆類には、豊富な植物性タンパク質が含まれています。認知症予防を意識するのであれば、納豆、枝豆、そら豆などがおすすめです。
これらの豆類に含まれるイソフラボンは抗酸化物質として知られており、活性酸素が引き起こす認知症のリスクを低下させませう。
オリーブオイル
調理には、オリーブオイルを積極的に取り入れていきましょう。オリーブオイルは、脳血管障害の抑制効果が高いとされる「地中海食」で良く使われており、魚や豆、野菜との相性もぴったりです。
アルツハイマーの原因物質であるアミロイドβの発生を抑制し、脳の「お掃除」役を果たすと期待されています。
認知症を予防するための食生活のポイント
認知症の予防効果が見込める食材はたくさんありますが、それらを食べていれば安全という意味ではありません。認知症を予防するためのポイントを見ていきましょう。
食材を妄信しない
オリーブオイルや青魚、野菜など、認知症予防が期待される食材を食べることは大切ですが、もっとも重要なのはそのバランスです。
果物や野菜ばかり食べていては、身体を作るためのタンパク質が不足します。また、極端な糖分制限はかえって脳の働きを悪くしてしまう恐れもあります。
食材は薬ではありません。
ひとつのものを妄信するのではなく、今までの食生活を振り返りながら、良いと言われるものに置き換えていくという姿勢が長続きするコツです。
楽しい食事が第一
高齢者は食事が何よりの楽しみです。いくら認知症予防のためとは言っても、好物を取り上げ過ぎるとストレスになります。 あまり身体に良くないものに関しては食べる頻度を落としたり、調理を工夫したりしながら理想的な食生活に近づけていきましょう。 身体に良いものだからといって無理強いをせず、できるだけ自然な形で摂取できるように仕向けていくことが大切です。
持病がある場合は医師に従う
食材によっては、薬との飲み合わせで健康に支障が出る恐れがあるため注意が必要です。
例えば健康食材の代表格である納豆も、血液凝固に関わる薬と同時に摂取できない場合があります。
認知症予防にはなっても、体質的に受け付けないという食材がある人もいるでしょう。
持病がある場合や体質に不安がある人は、医師と相談しながら、食生活を考えていく必要があります。
食材を活用して健康的に認知症予防
人間の身体を作っているのは、食事です。認知症予防のために食材を選ぶのは、とても有意義なことと言えるでしょう。
一方で、食事だけでは完全とは言えません。不規則な生活や寝不足、不安な精神状態などもまた、認知症のリスクを高めます。
食事内容の見直しとともに生活全般についても考慮し、心身の健康状態を良くすることで認知症予防の効果が向上していきます。
※この記事は2019年12月時点の情報で作成しています。
主任介護支援専門員 看護師
合同会社 カサージュ代表
看護師として病院勤務8年、大手介護事業者で約19年勤務し管理職を経験。
2019年8月合同会社カサージュを立ち上げ、「介護特化型研修事業」「介護離職低減事業」など介護に携わる人への支援を行っている。企業理念は「介護に携わるすべての人の幸せな生活をサポートする」。