高齢の親と同居しているのですが、以前に比べて生活が不活発になってきているようです。一日中テレビを見ているときもあり、刺激が乏しいのではないかと感じています。まだ認知症ではないようですが、このままでは先が心配です。認知症予防や介護予防になる良い方法があれば教えてください。脳トレドリルを与えましたが、なかなかひとりでは進まないようです。楽しみながらできるようなものであれば、興味を持つと思います。
高齢になると家に閉じこもりがちになり、一日中テレビを見て過ごすという方も増えてきます。
認知症の予防に良いとされるものを親御さんにやってもらおうと思っても、ひとりで継続して行うことはなかなか難しいものです。まずは、本人が楽しめるものや、いつでも気軽にできるものであることが重要です。また、簡単すぎるものでは認知症予防としての効果は期待できません。
ここでは、認知症の予防に効果があるとされる手遊びについて、有効とされる理由や、具体的なやり方についてご紹介していきます。
認知症の予防には手遊びが効果的
認知症を予防する方法として、手遊びが有効だと言われるのにはどのような根拠があるのでしょうか。手遊びが脳に与える影響について見ていきましょう。
なぜ手を動かすと脳に良いの?
最近の研究で脳は身体の器官を支配するだけではなく、各器官から刺激を受けることで神経細胞が成長することがわかってきました。脳と身体の器官は双方向の関係があります。
手には指紋を始めとして、繊細な感覚をとらえるセンサーがたくさんあります。手は脳を刺激するための、強力な器官のひとつなのです。
脳科学により、脳の中の運動野(随意運動中枢)と体性感覚野(感覚中枢)とのつながりが明らかになってきました。
この関連性によって手や指を動かすと、脳への大きな刺激が与えられ、認知症予防に役立ちます。
精神的にも良い影響を与える
手遊びをするときには歌やリズムに乗せて、同じ動作をくり返していきます。
この動作のくり返しが、作業記憶(ワーキングメモリー)の訓練になります。
作業記憶とは何かの行動をする際に、必要な情報を一時的に保持することを指します。学習や、日常生活の行動すべてに必要な能力です。
またリズム感や反射神経を高めるという点でも、手遊びは効果的と言えるでしょう。
また手遊びにはその人にとっての、幼い頃の記憶が濃密に詰まっています。
思い出深い手遊びは、安心感につながり精神の安定にも良い影響を与えます。
遊びながら昔のことを思い出し、細部の記憶をよみがえらせるのも、認知症予防として有効に働きます。
なじみのない動きで活性化
手遊びの動きは、あまり日常生活ではしない動作が多く見られます。
身体を使って細かな動きを作る、リズムに合わせて腕や指を回す、相手に合わせるといったことが、普段あまり使っていない脳の部位を刺激します。
少し難易度が高い動きほど、効果も高くなり、また挑戦する意欲を刺激します。
手遊びであれば飽きずにでき、夢中になれるといった効果も期待できます。
認知症予防になる手遊びの種類
高齢者が楽しんでできる、手遊びの種類をご紹介していきましょう。
昔ながらの遊び歌
幼稚園や小学校時代に、友だちと遊んだ懐かしい昔ながらの手遊びは、忘れていてもすぐに勘を取り戻せます。
2人組、また複数で組になるので、コミュニケーションにも効果的です。
手を重ねたり、たたき合ったりと、他人とのふれあいによる刺激もあります。
大人になると、あまり他の人と接触する機会がなくなるものですが認知症の予防には、こうした動作がとても効果的とされています。
昔ながらの遊び歌には、茶摘み・みかんの花咲く丘・アルプス一万尺・お寺の和尚さん・ずいずいずっころばし・お茶らかホイ・おせんべ焼けたかな、などがあります。
でんでん虫
認知症の予防に効果があるとされるシナプソロジーは、「2つのことを同時に行う」や「左右で違う動きをする」ことで、脳に大きな刺激を与えるプログラムとして開発されました。
シナプソロジーのひとつに、でんでん虫という動きがあります。
グーとチョキででんでん虫の歌に合わせて形を作るという、一見簡単に見えるものですが、2人で行うことで複雑になっていきます。
最初はひとりで、リズム良くでんでん虫を作ります。シンプルな動きに慣れたら、間に手拍子を入れていきます。
次に2人組になってグーチョキを交互に出し合い、共同ででんでん虫を作ります。 連携プレーで行うことで緊張が高まり、さらに脳への刺激が強くなります。
指先トレーニング
ひとりでできる指先トレーニングでも、認知症予防の効果が期待できます。
暇なときに指を動かしたり、話し相手がいないときに行ったりする習慣にできれば効果も上がります。
右と左でひとりジャンケンをしたり、右左ずらして数を数えたりするなど、道具を使わずにトレーニングできるので気軽に取りかかれます。
左右の違う指同士をずらして合わせるトレーニングは、テレビを見ながらでもできるでしょう。
腕を大きく動かしながら右左で三角と四角を別々に作るトレーニングは、結構難しいものです。家族みんなでチャレンジしても楽しめます。
認知症予防のために手遊びを行うポイント
手遊びを認知症予防に、効果的に取り入れるポイントを解説してきます。
習慣化して継続する
認知症の予防にするためには、少しの時間でも毎日続けることが大切です。
認知症は、ある日突然起こるものではありません。
発症の要因はさまざまですが、いくつかが複合的に組み合わさっている可能性もあります。認知症のリスクを少しでも軽減されていくためには、毎日の生活の中での積み重ねが必要です。 認知トレーニングの一環として手遊びを習慣化し、手から脳への刺激を送り続けることで、認知機能の強化を図ります。
ただ、自分ひとりで手遊びを忘れずに続けていくのはなかなか大変です。難しい場合には、お茶の時間や夕食後などを有効活用し、家族みんなでサポートすると良いでしょう。
徐々に難易度を上げる
いつも同じことをしていると、飽きてしまいます。
本人の励みになり、楽しくできるようにするためにも少しずつ難易度を上げていくと、本人のモチベーションが向上します。
記録ノートを作成すると、トレーニングの様子や進歩の軌跡がわかります。
また自分で書き込むという行為も、認知症予防に効果があります。
楽しめる工夫をする
古い手遊び歌ばかりではなく、気分を変えて好きな音楽でリズムを取るといった工夫も必要です。
例えば子どもっぽいものが苦手な人には、脳トレや体操の要素の強いものを選んで進めてみると、興味を持ってもらえるかもしれません。
高齢者でも新しい音楽を好むという場合もあります。家族が協力して、みんなで振り付けを考えるのも楽しいかもしれません。
手遊びによる認知症予防は手や腕を使い、脳に刺激を与えるのが目的です。無理強いをせず、相手の好みに合わせることで、積極的に取り組めるものとなります。
手遊びを認知症予防に活用しよう
子どもの遊びとして親しまれてきた手遊びは、意外にも脳の活性化に大きな効果が認められています。
道具を使わずに、どこでも誰でも認知症の予防策として始められ、バリエーションも豊富です。家庭で行う際には、家族みんなで楽しみながら継続するのをサポートしていきましょう。短い時間でも毎日続ければ、そのたびに指先や腕、脳に刺激が与えられます。難易度の高い手遊びを探すのが、次第に楽しくなっていくかもしれませんね。
あまり難しく考えずに気軽に楽しく、認知症予防を始めていきましょう。
※この記事は2019年12月時点の情報で作成しています。
主任介護支援専門員 看護師
合同会社 カサージュ代表
看護師として病院勤務8年、大手介護事業者で約19年勤務し管理職を経験。
2019年8月合同会社カサージュを立ち上げ、「介護特化型研修事業」「介護離職低減事業」など介護に携わる人への支援を行っている。企業理念は「介護に携わるすべての人の幸せな生活をサポートする」。