
親と同居していますが、最近少し様子がおかしいので調べてもらったところ、軽度の認知症の疑いがあると言われました。まだ先のことかと考えていたので、家族もショックを受けています。これ以上進行して欲しくないのですが、予防の方法はあるのでしょうか。基本的なことも良く知らなかったことに今頃気づきました。家族として何かできることはあるのか、またどう接していけば良いのか悩んでいます。
思わぬ認知症の診断に、ご家族の受けておられるショックは大きいことでしょう。認知症は脳の細胞がダメージを受けることによって、記憶障害や行動障害などの症状をきたすものです。一度ダメージを受けた脳細胞をもとに戻すことは難しいですが、日常生活上の今できていることを維持し、認知症の進行を緩やかにするための方法はあります。
ここでは、認知症の進行を予防するためにはどのようなことをすれば良いのか、また家族としてどのように接すれば良いかといった内容をご紹介していきます。
認知症とは?加齢によるもの忘れとの違いは?
認知症と言うことばは、社会のさまざまなところで良く聞かれるようになりました。しかし、認知症について正確に答えられる人はそう多くはないようです。そもそも認知症とはどのようなものなのか、基本的な知識を確認していきましょう。
認知症は病名ではない
認知症というのは、ひとつの病気の名前ではありません。
認知症とは脳の細胞がダメージを受けた状態を指し、原因となる要因はさまざまです。
そのため高齢者でなくても、脳の細胞に何らかの障害が起きれば認知症となる可能性があります。
認知症の状態になると記憶力や判断力が低下し、日常生活に支障が出て通常の暮らしが送りにくくなります。
認知症ともの忘れはどう違うの?
年齢を重ねると、若い頃のような記憶力が保てなくなります。
しかし、もの忘れと認知症はまったく異なるものです。
もの忘れは一時的に思い出せない状態です。それに対して認知症は「あったこと」そのものを忘れてしまいます。
例えば朝食に何を食べたのか思い出せないのはもの忘れですが、食べたこと自体を忘れてしまうのが認知症です。
人の名前が出てこないのではなく、その人自体がわからなくなるといったことも、認知症の典型的な症状です。
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認知症は治るもの?
認知症が治せるのかという問題は、非常に難しいと言われています。
慢性硬膜下血腫といった脳に関する疾病など、原因によっては治療することが可能な認知症もあります。
一方、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症は治療法が確立されていません。そのため、今のところ完全に回復できる方法はないと考えられます。
しかし栄養摂取、運動・トレーニングの実施、生活環境の改善などによって進行を遅らせられる可能性はあります。
認知症の進行を予防するために知るべきこと
認知症の進行を予防するために、家族として知っておきたいことについて解説していきます。
認知症の治療法は2つ
認知症の治療法には、薬物による治療と薬以外の方法とがあります。
認知機能を強化したり、せん妄や強迫症状を和らげたりといった薬を投与することで、認知症状が改善する患者もいます。
家族が支える非薬物療法
薬によらない非薬物療法では、家族が大きな役割を果たします。
アルツハイマー型認知症は緩やかに進行するため、まだ本人ができることはたくさん残されています。
自分でできることは、なるべく自分の手で行わせるようにして、自信を持たせながら前向きに生活をすることが大切です。
多少の失敗があってもことばを選んで勇気づけたり、うまくできたときには一緒に喜んだりするなどの接し方がポイントとなります。
家族の対応によって行動や心理症状(BPSD)の大きな改善が見られる可能性もあります。
認知症と生活
認知症の中でもアルツハイマー型認知症は、生活環境や習慣に大きく関係していると言われます。
不活発な生活や刺激のない生活は、アルツハイマー病を進行させる傾向があります。
暮らしに楽しみを見出し、家族以外の人とも交流を持つことで、進行を緩やかにしていける可能性が高くなります。
手術や薬などの決定的な治療法がないからこそ、進行を予防するための生活全般についての取り組みが重要なカギとなってきます。
認知症の進行を予防するためにできること
認知症の進行を予防するために、家族ができる具体的な対策と向き合う姿勢について解説していきます。
家族が対応で気をつけるべきことは?
家庭でできる認知症進行予防の対策はありますが、それをしたからといって劇的に改善するということではないのを、良く理解しておく必要があります。
長い目で見て、「現状維持ができれば良し」というのんびりとした心構えで接していきましょう。
何かができないからといって、責めたりプライドを傷つけたりするようなことばをかけないように気をつけてください。
認知症を患っていても相手は子どもではなく、人生を歩んできた先達であるのを忘れてはなりません。
できることは命令するのではなく、「お願いする」「促す」といった気持ちが大切です。
嫌がることがあっても、「わがまま」と決めつけずにしっかりと理由を聞いてみてください。
例えば着替えをしたがらない場合にはちくちくする、肌触りが悪い、ボタンがかけづらいといった本人にしかわからない原因が潜んでいるときもあります。
日常の動作の様子を良く観察し、得意・不得意を見ておくと、次回に何かをしてもらう際にも役立ちます。
生活環境・生活習慣の見直し
生活環境や生活環境の見直しも、認知症進行の予防には重要なポイントです。
高血圧や糖尿病、脂質異常症など、生活習慣病の治療が正しくできるよう、服薬管理や食事内容に注意をしていきます。
栄養バランスに注意し、カロリー過多や不足を防ぎます。
筋力が衰えると不活発な生活になりやすいので、毎食タンパク質を補えるように工夫していきましょう。
青魚の脂肪酸DHAとEPAは、認知機能に良い影響があると言われています。
また動脈硬化防止に効果のあるオリーブ油はビタミンEを豊富に含み、若々しさを保ちます。こうした食材を積極的に取り入れることは、家族の心身の健康にも貢献します。
身体の調子が整うと、日常生活の活性化につながります。ウォーキングやゲーム、趣味のサークル、ペットと遊ぶなど、笑顔が増やせるような時間を考え、促します。
楽しみながら進行を予防する方法
人生を楽しむことは脳の活性化に働き、認知症進行の防止の有効策にもなります。
家族のだんらんで気軽にできる「回想法」は、思い出話を楽しみながら脳に刺激を与えます。「あのときはこうだったね」という他愛もない話が、精神を安定させ、記憶の機能を活性化させます。
「作業療法」では手先を動かすことが、脳の刺激となります。編み物や縫物、陶芸、工芸、塗り絵、お手玉やあやとりなど、得意なことや好きなもの何でも構いません。
畑仕事、草取り、園芸なども作業療法に利用できます。
その他にも、歌を歌ったり楽器を演奏したりする、音楽鑑賞をする「音楽療法」などがあります。
パズルが好きならば、脳トレやドリルに取り組むのも良いでしょう。
家族で毎朝ラジオ体操をする、お風呂上りにストレッチをするといった身体への刺激も効果があります。
無理をせずに自然な形で、生活の中に認知症進行予防の方法を取り入れていきましょう。
悲観的にならずにできることから
これまでしっかりしていた親が認知症と診断されると、家族の方がパニックを起こすということは良くあります。しかし、嘆いていても状況は良くなりません。認知症は穏やかに進行するケースが多いので、今できることが何かを考えながら、現状維持を目指していきます。劇的な改善は望めなくても、毎日楽しく暮らす方法はきっとあります。あきらめずに、家族みんなでできることを続けながら、認知症の進行予防に向き合っていきましょう。
※この記事は2019年12月時点の情報で作成しています。
主任介護支援専門員 看護師
合同会社 カサージュ代表
看護師として病院勤務8年、大手介護事業者で約19年勤務し管理職を経験。
2019年8月合同会社カサージュを立ち上げ、「介護特化型研修事業」「介護離職低減事業」など介護に携わる人への支援を行っている。企業理念は「介護に携わるすべての人の幸せな生活をサポートする」。