<父が口臭を気にしており、舌についた白いものが原因だと聞いたようで、歯ブラシでゴシゴシとこするようになりました。力を入れてこすっているので心配です。正しいケアの方法を教えてください。
また、舌についた白いものが、本当に口臭の原因なのでしょうか? その他に考えられる口臭の原因を教えてください。お願いします。
舌についている白いものは、舌苔(ぜったい)というものです。高齢者に限らず、誰にでもできるもので、舌の真ん中に薄く付着している程度であれば心配ありません。口腔機能が低下したり、自分でのケアが難しくなったりしている高齢者は、この舌苔が口臭の原因となってしまうことがあります。
この記事では、舌苔の基礎知識や正しいケア、その他に考えられる口臭の原因について解説しています。歯科医などへの相談と合わせて、ぜひ現在や今後の口腔ケアの参考にしてください。
舌苔(ぜったい)について知ろう
まずは、舌苔(ぜったい)の基礎知識についてみていきましょう。
舌苔とは
舌苔とは、舌の表面にある舌乳頭(舌の表面にある凸凹)に付着した苔のようなものです。鏡で見ると、舌の表面が白くなっているのが分かります。高齢者に限らず誰にでもできるもので、舌乳頭の間に古くなった口の中の粘膜や食べ物のカスなどの汚れが集まってできます。タンパク質を多く含んでおり、このタンパク質が菌によって分解されることで、口臭を引き起こします。
口腔機能が低下したり、手指が動かしにくいなどの理由で口腔ケアが難しくなったりしていると、この舌苔が分厚くなってしまうことがあります。舌の真ん中に薄く付着している程度であれば心配ありませんが、分厚くなってきた場合や味を感じにくいなどの口腔内のトラブルが引き起きている場合には、適切に対応するようにしましょう。
また、舌苔が厚くなることで口の中の細菌も増え、誤嚥(ごえん:飲食物や口腔内の分泌物などが気管や肺に入ること)によって誤嚥性肺炎が引き起こされるリスクも高まります。
舌苔が厚くなる原因
舌苔が厚くなる原因のひとつが、口の中の乾燥です。唾液には口の中の汚れや細菌を洗い流してくれる役割があります。この唾液の分泌量が少ないと、口の中が乾燥してしまい、舌苔ができやすくなってしまいます。
唾液の分泌量を減らし、口の中を乾燥させる原因には、加齢の他にタバコの吸いすぎ、口呼吸、ストレス、食事中にあまり噛まないなどがあります。気になる方は生活習慣を見直すようにしましょう。
舌苔(ぜったい)以外の口臭の原因
質問者さんのおっしゃる通り、舌苔だけが口臭の原因とは限りません。舌苔以外の口臭の原因についてみていきましょう。
生理的口臭
誰にでもある口臭です。起床時や空腹時などには唾液の分泌が減少するため、強くなる傾向があります。女性の生理や妊娠時などのホルモンバランスの変化に伴う口臭や年代固有の口臭などもあります。
飲食物などによる口臭
ニンニクやネギなどのにおいのある飲食物、酒やタバコなどの嗜好品によって生じる口臭です。時間が経過すると口臭は治まります。
ストレス
ストレスによって唾液の分泌量が減ると、口臭が強くなることがあります。
歯周病やむし歯
歯周病やむし歯が進行すると、口臭がきつくなります。定期的に歯科検診を受け、早期のうちから治療を受けるようにしましょう。
その他の口の中のトラブル
その他、義歯のプラスチック部分ににおいがついている、義歯の清掃不良などが原因で口の中が不衛生になっている…などの原因で口臭が起こることがあります。 また、口の中にできる癌(ガン)によって口臭が発生することがあります。
その他の病気
病的口臭の90%以上は、口の中に原因があると言われていますが、口の中に問題が無くても、副鼻腔炎(蓄膿症)や咽頭炎、喉頭炎などの炎症があると、血液や膿が口の中に出てきて、口臭が起こることがあります。また、呼吸器や消化器、糖尿病、肝臓疾患などが口臭の原因になっていることもあります。
舌苔をケアするポイント
最後に、舌苔をケアするポイントを紹介していきます。ただし、必ずしも口臭の原因が舌苔だとは限りません。口臭が気になる方は、まずは歯科医に相談してみると良いでしょう。
舌のケアは1日1回
舌苔のケアは、上記の写真のような専用の舌ブラシを使ってケアをします。歯ブラシでゴシゴシこするのは、舌の粘膜や味を感じる味蕾(みらい)を傷つけてしまうことがあるのでNGです。
ケアは起床時がおすすめです。まずは、鏡を見て舌のどの部分に舌苔が付いているのかを確認しましょう。口の中が乾燥している高齢者は、事前に口腔用の保湿剤を舌苔に塗ってから舌ブラシを使用するのがおすすめです。嘔吐反射が出ないように舌を前に出し、舌ブラシを奥から手前に軽く引きます。
舌ブラシを水道水で洗いながら、3回ほど繰り返します。舌苔を完全に取り切ってしまおうと考える必要はありません。舌苔の中に空気が入るだけで菌の繁殖を抑えて口臭を予防することができます。
舌ブラシは歯ブラシと同様に、1ヵ月を目安に交換をしてください。
過剰には取らないようにしましょう
舌のケアをする時に気を付けたいのは、過剰に舌苔を取ろうとしないこと。歯ブラシで力を入れて表面をこすってしまうと、舌の粘膜や味蕾を傷つけてしまう可能性があるので注意しましょう。
食べ物をよく噛む習慣を
しっかりとよく噛んで口の中を動かし、唾液の分泌を促しましょう。柔らかいものよりもできるだけ固いものを噛んで、舌の表面を刺激することも大切です。しっかりとよく噛んで食べるという習慣が、舌苔ケアにもつながります。
潤いも大切です
舌を動かすことで唾液の分泌が促進されます。唾液の分泌が減っている高齢者の場合には、嚥下(えんげ)体操をしたり、お話をしたり、歌を歌ったりなど、舌を動かすことを意識して生活しましょう。舌苔を予防できるだけではなく、口腔内の健康状態が向上しますし、消化しやすくなるなどの様々なメリットがあります。
まとめ
舌の表面に着いた白い苔のようなものは、舌苔(ぜったい)というものです。舌の凹凸に溜まった汚れの中のタンパク質を、菌が分解する際に口臭が発生します。
舌苔のケアは、1日に1回で十分です。舌ブラシで優しく表面をこすります。質問者さんのケースのようにゴシゴシこすると、舌の粘膜や味を感じる味蕾を傷つけてしまうことがあるのでNGです。
唾液が出るように食物を良く噛み口の中を動かす、口の中を乾燥させないように生活習慣を改めるなどが、舌苔による口臭を防ぐポイントになります。
ただし、歯周病やむし歯、不衛生な口腔環境なども口臭の原因になりますので、口臭が気になる方はまずは歯科医に相談してみると良いでしょう。
※この記事は2021年12月時点の情報で作成しています。
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医師:谷山 由華(たにやま ゆか)
【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤
内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている