介護費用はときに家計に大きな負担になることがあります。そんなときにぜひ検討してほしいのが「負担限度額認定制度」です。所得などの条件はありますが、それを満たせば介護費用の負担を減らすことができる可能性があります。制度を勉強して、条件に合う方はすぐにでも申請してみましょう。
介護保険負担限度額認定証とは?
介護保険制度を使って、訪問介護、訪問看護、通所リハビリテーションなどの介護サービスを利用すると、所得によってサービス費用の原則1割(一定以上の所得がある方は、所得に応じて2割または3割)を自己負担することになっています。金銭的に余裕があれば問題ないかもしれませんが、少しでも安く済ましたいという方にとって、自己負担額はできるだけ少なくしたいものです。 そんな方にちょっとお得な制度が、介護保険の「負担限度額認定制度」です。全員が対象ではありませんが、所得や預貯金額によっては自己負担額を少なくすることができる制度で、申請して「負担限度額認定証」が発行されれば、減額してもらえるという仕組みです。
介護保険の負担限度額認定制度
介護保険の負担限度額認定制度をもう少し詳しくみてみましょう。 介護サービスは利用者の自宅に訪問する「訪問サービス」、施設に通う「通所サービス」、施設に短期間宿泊する「短期入所サービス」などがありますが、負担限度額認定制度で対象となるのは、「介護保険施設」に入所した場合で、そこでかかった食費と居住費が減額されます。 介護保険施設とは、特別養護老人ホーム(特養)、老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院で、申請して負担限度額認定証が発行されると、それらを利用したときの食費と居住費に上限額が設けられ、それ以上の金額を支払う必要がなくなります。 もし、上限額に達しなかった場合は、施設が定める金額と自己負担額上限額の差額分が支給されます。 対象者は簡単にいうと、所得額も預貯金額も少ない方になります。限度額は所得額などによって全部で4段階に分かれています。所得額が少なければそれだけ自己負担額も少なくなります。いずれも下に詳しく紹介します。
対象者は?
申請して「負担限度額認定証」が発行されるには、所得や預貯金が条件を満たしていなければなりません。所得と預貯金は次の基準があります。
●所得 本人及び世帯が住民税非課税であること。別世帯も含む配偶者も住民税非課税であること
●預貯金 預貯金(有価証券[株式、国債、地方債、投資信託など]、現金、負債なども含む)が次の金額以下であること。
・配偶者がいる人:夫婦で2,000万円
・配偶者がいない人:1,000万円
負担額はどれくらい軽減されるの?
気になる自己負担の軽減額はどれくらいなのでしょうか。 先にお伝えしたように全部で4段階あり、「利用者負担段階」と呼ばれています。第1段階がもっとも軽減額が大きくなり、第2、第3と数字が大きくなればなるほど軽減額も少なくなっていきます。ちなみに、第4段階は軽減対象から外れるため、自己負担額は減りません。
利用者負担段階は次の4つになります。
第1段階 |
住民税が非課税の世帯 生活保護などを受給している方 |
第2段階 |
世帯全員が住民税非課税で、合計所得金額と公的年金などの収入の合計が年80万円以下の方 |
第3段階 |
住民税が非課税の世帯で、第1段階、第2段階にも該当しない方 |
第4段階 |
第1~第3段階までに該当しない方(負担限度額の設定はありません) |
負担限度額の設定(日額)は、次のようになります。
利用者負担段階 |
多床室 |
従来型個室 |
ユニット型 個室的多床室 |
ユニット型個室 |
食費 |
第1段階 |
0円 |
◯ 320円 |
490円 |
820円 |
300円 |
第2段階 |
370円 |
◯ 420円 |
490円 |
820円 |
390円 |
第3段階 |
370円 |
◯ 820円 |
1,310円 |
1,310円 |
650円 |
第4段階 (負担限度額の設定なし) |
◯ 855円 |
◯ 1,171円 |
1,668円 |
2,006円 |
1,392円 |
多床室:1部屋に複数人数が入る部屋
従来型個室:1部屋に1人が入る部屋
ユニット型:1部屋1人だが、浴室などを10名ほどの単位で共有する
◯ = 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、短期入所生活介護
◇=介護老人保健施設(老健)、介護医療院、介護療養型医療施設、短期入所療養介護
「第4段階」の特例減額措置
第4段階の方は原則的に負担限度額の設定はありません。しかし、夫婦世帯などで一方が施設に入所して居住費と食費を負担した結果、もう一方の方の生活が困難になってしまうこともあります。そうしたケースを想定して、次の要件を「すべて」満たした場合は第3段階の負担限度額となります。
- 世帯の構成員が2人以上である。
- 介護保険施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養型医療施設、地域密着型特別養護老人ホーム)に入所か入院していること(ショートステイは対象外)。
- 世帯の年間収入から、施設の利用者負担(介護保険負担分、食費、居住費)の年間の見込額を除いた額が80万円以下である。
- 世帯の現金・預貯金、有価証券などの合計額が450万円以下である。
- 世帯員全員が、日常生活に必要な資産以外に利用しうる資産を所有していないこと。
- 世帯員全員が介護保険料を滞納していないこと。
介護保険負担限度額認定証の申請方法
負担限度額認定制度を利用するには、お住まいの市区町村に「負担限度額認定証」を発行してもらわなければなりません。申請に必要なものと申請方法は次のとおりです。
申請に必要なものは?
市区町村には、「介護保険負担限度額認定申請書」「同意書」のほかに、資産を証明する次の書類が必要です。ちなみに申請書類は市区町村のホームページからダウンロードできるほか、地域包括支援センターや市区町村の窓口でも受け取れます。
預貯金(普通・定期) |
通帳の写し(インターネットバンクの場合は口座残高ページの写し) |
有価証券(株式、国債、地方債、社債など) |
証券会社や銀行の口座残高の写し(ウェブサイトの写しの可) |
金・銀など購入先の口座残高によって時価評価が容易に把握できる貴金属 |
購入先の口座残高の写し(ウェブサイトの写しの可) |
投資信託 |
銀行、信託銀行、証券会社などの口座残高の写し(ウェブサイトの写しの可) |
タンス預金 |
自己申告 |
申請の流れ
申請書と資産を証明する必要な書類を市区町村の窓口に提出してください。郵送でも受け付けているところもあるので、郵送希望の場合は事前に確認しましょう。 なお、負担限度額認定証の有効期限は1年間で、翌年からは更新時期が近づくと必要書類が送付されますので、改めて申請書を作成し、必要に応じて添付書類を用意しましょう。
まとめ
負担限度額認定制度、いかがでしたでしょうか。この制度を使うことで、食費と居住費のいずれとも利用者負担段階によってそれぞれ1日1,000円以上も安くなりますので、1か月間居住すると6万円以上も出費を抑えられる可能性があります。ぜひ賢く利用して介護費用の負担を少しでも減らしてください。 「第4段階」の方でも、条件を満たせば第3段階になる可能性があるので、あきらめずに条件を満たしているか確認してみましょう。
この記事が介護費用削減の参考になった方は、ぜひシェアをお願いします。
(編集:株式会社物語社)
※この記事は2021年3月時点の情報で作成しています。
介護保険の自己負担分と利用できる限度額や負担軽減策について | 介護の無料相談&ハウツー「安心介護」

東葛病院臨床検査科科長。1984年広島大学医学部卒。 認定病理医、臨床検査専門医、プライマリケア指導医。『最新 目で見る介護のしかた全ガイド』『家庭でできるリハビリとマッサージ』『介護用語ハンドブック』(成美堂出版)、『絵を見てわかる認知症の予防と介護』(法研)、『体位変換・移動・リハビリの介助』(桐書房)、『身近な人の上手な在宅介護のしかたがわかる本』(自由国民社)など、著作・監修多数。