介護の現状とお金の問題に詳しい、「特定非営利活動法人 くらしとお金の学校」のファイナンシャル・プランナー等の方々に、介護にまつわるお金の問題について書いていただきました。
介護にはお金がかかる。それを考えると、ついつい財布のひもが固くなります。十分な貯蓄がありながらそれでも心配だと貯め込む高齢者は多いのですが、どのくらいかかるのかがわからないことも一因と言えるでしょう。また、これから老後の準備をする人も、漫然と貯蓄をしたのではなかなか貯まりません。目標とする金額と時期を決めて、計画的に資金準備をしたいものです。ここでは、介護に備えて準備しておきたい金額を確認し、準備の方法を考えてみましょう。
介護費用が必要になる時期
介護保険の給付の対象となるのは、通常は65歳からですが、この年代はまだまだ元気です。実際に介護が必要になるのは、もっと後からになります。下のグラフは、介護保険サービスを利用している人の、年齢別での割合です。
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出典:厚生労働省「平成27年度 介護給付費等実態調査」
70代はまだ利用が少ないのですが、80代に入ると急に増えていきます。男性に比べ、女性の上昇が早い傾向があります。データが5歳刻みとなっていますが、ここから推計すると、介護サービスの利用が30%を超えてくるのが、男性で86歳前後、女性は83歳前後と見られます。半分を超えるのは、男性で91-92歳、女性は87-88歳と見られます。介護が必要となっても、介護保険サービスを利用していない人もいますので、男性であれば80代後半から、女性であれば80代半ばから介護が必要になる、と考えておくとよいでしょう。60歳で退職金を受け取ってから約25年後、65歳で退職してから約20年後となります。退職してからもかなり先のことになります。多くの場合、貯蓄残高が最も増えるのは、退職金が入った時です。介護費用を確保するには、長い期間にわたって「貯蓄を維持する」ことが大切になります。
介護費用の目標金額
介護経験者への調査によると、介護を必要とする期間は平均59.1カ月(4年11カ月)となっています。((公財)生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」(平成27年度)より)ただ、厚生労働省の上記調査の結果と平均余命から推計すると、男性で4年、女性で6-7年は考えておきたいものです。後から費用が足りなくなってはいけませんので、資金準備という面からは少し多めに考える必要があります。
介護にかかる費用は、生命保険文化センターの同調査によると、平均で466.9万円と推計されます。ただし、自宅で介護をした場合と、老人ホームなどの施設に入居した場合では大きく違います。
介護費用の平均
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※介護保険3施設は、特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護療養型医療施設
出典:(公財)生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」(平成27年度)
上記の表で見ると、自宅の場合は総額で350万円程度ですが、民間の有料老人ホームに入居すると、平均でも1,000万円近くかかることになります。特別養護老人ホームなどであれば、少し安くなりますが、それでも600万円以上がかかります。それでも入居が、なかなか難しいのが現状です。
もし介護が必要となった時に、介護保険サービスなどの外部の手を借りながら、自宅で介護ができるのか、それとも施設への入居を考えなければならないのか。それによって、介護準備の目標とする金額はかなり違ってきます。ご家族の状況を踏まえて、まずは目標とする金額を設定するとよいでしょう。
有料老人ホームの費用は、まちまちで、介護保険3施設と変わらないところもあれば、トータルで数千万円もかかるところもあります。当然のことながら、費用が高い施設の方が設備は良く、介護職員、看護師の人員配置が充実していますが、高ければ良いとは限りません。筆者の感触からすると、5年間の費用の総額で1,500~2,000万円程度の施設であれば、安心して暮らせるのではないかと考えます。有料老人ホームへの入居を考えるのなら、このぐらいの金額を目標にしたいところです。
ただ、有料老人ホームは過当競争ぎみで、価格は下落傾向にあります。このぐらいの費用がなければ施設を選べないというわけではありませんので、心配する必要はありません。価格を抑えた施設の中で探すことはできます。
すでに資金がある場合の運用方法
介護費用の準備にあたっては、すでに資金がある場合と、これから貯めていく場合で異なります。退職金が入った、すでにある程度の貯蓄がある、などの場合は、介護で必要となる時期までに、いかに減らさずにキープしていくか、という点がポイントになります。その上で、少しでも増やしていければより良いでしょう。退職金を受け取ったばかりなら、介護費用が必要になるのは、20~25年後のことです。それだけの長い間、資金運用をしなければなりません。
具体的には、介護費用に充当できる貯蓄額を2つに分けて考えます。1つは、絶対に確保しておきたい、必要最低限の資金です。もう1つは、できれば充実した環境を得るために、増やしていく資金です。夫婦二人の間は自宅での介護、一人になったら有料老人ホームに入居するケースで考えてみましょう。先に介護が必要になった場合の自宅の介護費用として、300万円を確保します。一人になった後の有料老人ホームへの入居費用として1,000万円を考えます。合計で1,300万円は安全性の高い金融商品で確保しておくのがよいでしょう。銀行の定期預金、ゆうちょ銀行の定額貯金はもちろん、日本政府が発行している個人向け国債という債券もよいでしょう。生命保険の個人年金や一時払い終身保険も、検討の対象になります。ただし、外貨建てのタイプではなく、円建てのものに限ります。為替によって変動しないようにです。いずれも、金利が低く、ほとんど増えないのですが、まずは安全に確保することが優先です。
必要最低限を超える部分については、価格変動のある金融商品を検討してもよいでしょう。増えた分だけ、余裕のある介護や施設入居ができますし、もし損失となったとしても、直ちに老後の生活に影響を与えることはありません。資金運用の期間も10~20年、あるいは30年もあります。これだけの長期間、運用できるとなると、ある程度のリスクを承知で運用ができます。途中下がったとしても、その後の回復が期待できるからです。株式や海外の債券を組み入れた投資信託や外貨建て保険などを検討してみてはいかがでしょうか。
運用のポイントとしては、投資対象と投資のタイミングを分散させます。投資先が特定の分野に偏るとリスクが大きくなります。予想が外れることもあるからです。その点、投資先を分散させておくと、それぞれの動きが異なり、リスクが小さくなります。ただ、それでもすべてが下がってしまうこともあります。買った時点がもっとも高かった、とならないように、購入する時期を分散させることも大切です。運用資金が500万円であれば、毎年50万円ずつ、10年かけて購入します。運用期間が長いので、これぐらい時間をかけて購入しても問題ありません。
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上の表は、定期的な購入をする場合に、「毎回同じ株数を購入した場合」と「毎回同じ金額で購入した場合」を比べたものです。株価は変動しますので、前者は購入金額、後者は購入株数が変わります。5年間のトータルで見ると、後者の方が平均購入価格は低くなります。値上がりした時点で売却した際の利益も大きくなります。後者は、価格が下がった時は株数を多く、上がった時は株数を少なく購入するように、自然と調整され、平均購入価格が低くなるわけです。このような購入方法を「ドルコスト平均法」といいます。購入時期を分散させる際には、この方法を取り入れてください。
これから貯蓄をしてく場合の資金準備
一方、まだ現役である、十分な貯蓄がない、などの場合は、これから少しずつ貯蓄を増やしていく必要があります。ただ、50代であれば30年、60代でも20年はありますので、心配はいりません。70代など、すでに年金生活に入っていても、10年もの時間があります。毎月の生活費が夫婦二人の年金額よりも少なければ貯蓄ができるわけです。少しずつでも10年間貯めればある程度の金額になります。あきらめる必要はありません。
毎月、毎年少しずつ貯蓄を増やしながら、その貯蓄を維持していくことになります。銀行口座からの自動引き落としなどを利用して、積立貯蓄をしていくのがよいでしょう。途中で挫折してしまっては元も子もありませんので、続けられる金額の範囲内でできるだけ多く積み立てをするのが、貯蓄を増やすポイントです。いくらまでなら継続的に積み立てができるのかを把握するためにも、家計の把握をしっかりとされてください。支出のチェックをすることで、ムダ遣いの削減、家計の見直しにもつながります。
利用する積立商品は、年代によってことなります。すでに70代の人は、あまり積立期間は長くありません。安全確実な定期預金、定額貯金などがよいでしょう。運用で増やすのではなく、確実に積み立てをすることが大切になります。節約は最大の資産運用です。現在の支出を見直し、少しでも多く積み立てができるようにしたいものです。
60代であれば、ある程度の積立期間があります。変動商品での積み立てを取り入れるのもよいでしょう。金融機関によっては、積み立てで投資信託を購入できるところもあります。積み立てで毎月の金額を決めて、変動商品を購入していくと、先にご紹介した「ドルコスト平均法」での投資を行っていることになります。平均購入価格は、自然と低めになりますので、利益となりやすいでしょう。
50代までの人であれば、かなりの積立期間がありますので、変動商品で積み立てをしていくとよいでしょう。途中下がってしまうこともありますが、積み立てを続けていればその間は低い価格での購入が続きます。その後に上昇すると、早くプラスになります。確定拠出年金の活用も検討してみるとよいでしょう。
※この記事は2017年1月時点の情報で作成しています。
執筆者
村井英一
ファイナンシャル・プランナー。多くの家庭に資金計画の提案を行っている。マネー相談だけでなく、講演、記事執筆も多い。一般的な知識だけでなく、相談者の身になった提案に感謝の声が多い。老後の資金計画、資産運用、住宅ローンの設計などの相談を得意とする。
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