認知症のある母と同居しています。だんだんと本人ができることが少なくなり、介護に時間がとられるようになってきました。仕事と介護の両立が難しくなってきたと感じていたところに、やっと要介護3の認定が出たので、特別養護老人ホームの入居を希望しています。 多床室は本人が嫌がっており、個室かユニット型個室的多床室を希望しているのですが、そうすると気になるのが部屋代です。収入によって部屋代や食費が安くなる制度があると聞きました。対象者や手続きなどを詳しく教えてもらえますか?
特定入所者介護サービス費(介護保険負担限度額認定)のことですね。施設入居では、食費や居住費(部屋代)が原則自己負担となっているため、所得の少ない方には大きな負担となってしまいます。低所得で預貯金が少ない方が手続きをすることで、食費や部屋代の負担が軽減される制度が特定入所者介護サービス費です。 ここでは、特定入所者介護サービス費の対象者や手続き方法などについてご紹介します。現在や今後の生活の参考にしてください。
特定入所者介護サービス費(介護保険負担限度額認定)とは
介護保険施設への長期入居、またはショートステイで利用すると、利用中の介護にかかる費用は原則1割(一定以上の所得のある方は、所得に応じて2割または3割)ですが、食費や居住費(部屋代)、おむつ代やレクリエーションの材料費などの日常生活費は別途自己負担が必要になります。
特定入所者介護サービス費とは、食費と居住費について、所得に応じた自己負担の限度額を超えると介護保険から給付される制度です。自動で給付されるのではなく、申請が必要なので注意しましょう。
特定入所者介護サービス費の対象となる施設
特定入所者介護サービス費が適用されるのは、介護保険施設に限られます。介護保険施設であれば、長期入所かショートステイかに限らず、申請したうえで特定入所者介護サービス費の適用を受けることができますが、有料老人ホームやグループホーム、デイサービスやデイケアには適用されません。
介護保険施設には、以下のようなものがあります。
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
- 介護老人保健施設(老健)
- 介護療養型医療施設(介護療養病床)
- 介護医療院
特定入所者介護サービス費の対象者
続いて、特定入所者介護サービス費が適用される要件をみていきましょう。
所得要件
所得に対する要件は以下の2つです。
- 本人とその同一世帯の人全てが市町村民税非課税者
- 本人の配偶者(世帯が別の場合も含む)が市町村民税非課税者
施設に入居している配偶者の所得が課税対象者の場合、世帯が別でも対象外となります。
預貯金が一定額を超えそうな方は要注意
特定入所者介護サービス費については、もう1点要件があります。それが預貯金等資産要件です。2021(令和3)年8月より、資産要件が厳格化されました。
所得段階によっては、預貯金等が500万円を超えると対象外となってしまいます。また、厳格化されたのは本人の預貯金等資産要件のみで、配偶者の上乗せ分は現行のまま1,000万円以下となります。
「預貯金等」にあてはまるのは、資産性があり、換金性が高く、かつ価格評価が容易なものとされています。生命保険、自動車、時価総額の把握が難しい貴金属、絵画や骨董品、家財といったその他の高価な価値のあるものは対象となりません。
不正に申告してしまうと、軽減された以上の金額の返還を求められることがあるので、見落としている貯金通帳がないかなど、十分に注意しましょう。
特例減額措置もあります
これらの要件に当てはまらない場合でも、食費と居住費の負担によって残された家族の生活が困難になると判断されるときに、特定入所者介護サービス費が利用できる特例もあります。詳しくはケアマネジャーにご確認ください。
どのくらい安くなる?
それでは、特定入所者介護サービス費が適用されると、どれくらい費用が安くなるのかを確認していきましょう。
所得に応じて3つの段階に分かれます
第1段階
生活保護者など。または、世帯全員が市町村民税非課税で、老齢福祉年金受給者。なおかつ、本人の預貯金等額合計が、単身の場合は1,000万円以下、配偶者がいる場合は2人あわせて2,000万円以下である。
第2段階
世帯全員が市町村民税非課税で、本人の公的年金収入額(非課税年金である遺族年金・障害年金を含む)と合計所得金額があわせて80万円以下。なおかつ、本人の預貯金等額合計が、単身の場合は650万円以下、配偶者がいる場合は2人あわせて1,650万円以下である。
第3段階
世帯全員が市町村民税非課税で、
- 本人年金収入など80万円超120 万以下である者。なおかつ、本人の預貯金等額合計が、単身の場合は550万円以下、配偶者がいる場合は2人あわせて1,550万円以下である。
- 本人年金収入など120万円超である者。なおかつ、本人の預貯金等額合計が、単身の場合は500万円以下、配偶者がいる場合は2人あわせて1,500万円以下である。
所得による負担額の目安
そして以下は、第1段階、第2段階、第3段階の方が、特定入所者介護サービス費の制度を利用した場合の負担額の目安です。※ それぞれの金額は日額です。
食費 | 居住費 | |||||
施設入所 |
短期入所 生活生活介護 |
ユニット型 個室 |
ユニット型 個室的多床室 |
従来型個室 | 多少室 | |
適用前 | 1,445円 | 2006円 | 1,668円 |
◇1,668円 〇1,171円 |
◇377円 〇855円 |
|
第1段階 | 300円 | 300円 | 820円 | 490円 |
◇490円 〇320円 |
0円 |
第2段階 | 600円 | 390円 |
820円 |
490円 |
◇490円 〇420円 |
370円 |
第3段階① | 1,000円 | 650円 | 1,310円 | 1,310円 |
◇1,310円 〇820円 |
370円 |
第3段階② | 1,300円 | 1,360円 |
◇=介護老人保健施設(老健)、介護医療院、介護療養型医療施設、短期入所療養介護
◯ = 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、短期入所生活介護
特定入所者介護サービス費の申請方法
特定入所者介護サービス費の制度を利用するには、本人または代理人がお住まいの各市区町村に申請する必要があります。申請が承認されると「介護保険負担限度額認定証」が交付されるので、利用する介護施設の窓口で提示しましょう。
持ち物
市町村に申請する際に必要なものは、以下の通りです。
- 介護保険負担限度額認定申請書・同意書(地域包括支援センターや各市町村の窓口、またはホームページなどで配布されています)
- 預貯金等申告書★
- 預貯金等を証明する書類の写し★
- 印鑑(スタンプ印不可)
- マイナンバーが確認できる公的書類(マイナンバーカード、通知カード、マイナンバーが記載された住民票の写しなど)
- 本人確認書類 ・委任状と代理人の身元確認書類(代理人が申請する場合のみ)
★資産を証明する書類について
★印を付けた、「預貯金等申告書」と「預貯金等を証明する書類の写し」ですが、この書類は特定入所者サービス費の預貯金等資産条件を満たすかどうかを判断するためのものです。
「預貯金等」の対象となるものと、その証明のための書類の写しは次の通りです。
●預貯金(普通・定期)
通帳の写し(インターネットバンクは口座残高ページの写し)直近2ヵ月分。申請日の直近2ヵ月分の残高ページのほか、金融機関名・口座番号・口座名義人の氏名などが記載されたページの写し
●有価証券(株式・国際・地方債・社債など)
証券会社や銀行の口座残高の写し(ウェブサイトの写しも可)直近2ヵ月分
●金・銀など(時価評価額が容易に把握できる貴金属)
購入先の銀行等の口座残高の写し(ウェブサイトの写しも可)直近2ヵ月分
●投資信託
銀行、信託銀行、証券会社等の口座残高の写し(ウエブサイトの写しも可)
●タンス預金
自己申告
●負債(借入金・住宅ローンなど)
金銭消費貸借契約書など。負債は預貯金等の合計額から差し引かれます。
「介護保険最新情報Vol.490(平成27年7月13日)(厚生労働省)」参照
1年ごとの更新が必要です
交付される「介護保険負担限度額認定証」の有効期限は、8月1日から翌年の7月31日までの1年間です。
有効期限後も、引き続き特定入所者介護サービス費の制度を利用するには、更新手続きをして再度審査を受ける必要があります。忘れずに更新手続きを行いましょう。
まとめ
特定入所者介護サービス費は、一定の所得や資産基準を下回る方の施設の居住費(部屋代)と食費を軽減する制度です。介護保険施設にのみ適用されます。所得段階や部屋タイプによって異なりますが、1日あたりの負担が数百円以上軽くなります。
例えば所得段階が第1段階でユニット型個室を利用した場合、居室代と食事代は1ヵ月(30日)で10万3,530円となりますが、適用後は3万3,600円となります
金銭面で施設入居をあきらめている方は、ぜひ利用を検討してみてください。この記事が、お役に立てればうれしいです。
※この記事は2022年3月時点の情報で作成しています。

【経歴】
1982年生まれ。
医療福祉系学校を卒業後、約11年医療ソーシャルワーカーとして医療機関に勤務。
その後、一生を通じた支援をしたいと思い、介護支援専門員(ケアマネジャー)へ転身。
2017年1月 株式会社HOPE 設立
2017年3月 ほーぷ相談支援センター川越 開設
代表取締役と共に、介護支援専門員(ケアマネジャー)として、埼玉県川越市で高齢者の相談支援を行っている。
他に、医療機関で、退院支援に関するアドバイザーと職員の指導・教育にあたっている。
医療・介護に関する新規事業・コンテンツ開発のミーティングパートナーとしても活動。大学院卒(経営研究科)MBA取得している。
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