高齢の父には浴槽が深すぎます。浴槽用手すりを設置すれば入浴しやすくなりますか?

お風呂用の手すりとは?

質問

質問者

最近84歳でひとり暮らしの父がいます。要支援2で、週に2回ほど市の総合事業サービスで、買い物と掃除のサービスを受けています。毎日のお風呂を楽しみにしていたのですが、最近では自宅の浴槽が深いため、浴槽から出るのに苦労するようになってきて、シャワーで済ませているそうです。

すでに浴室の壁に手すりは取り付けてあるのですが、それでもまたぐときに不安定になってしまうとのこと。浴槽用手すりがあれば、解決できますか? 他にどのような対策があるでしょうか? 父は身体が大きいため、私や妹が介助するのには不安があります。

 

専門家

日本の住宅では、足が延ばせる浅めの浴槽もあれば、肩までしっかりとつかれる深めの浴槽もあります。深めの浴槽は、足を高く上げなければ入れないため、高齢者にはあまり適していません。

そこで利用したいのが、質問にもあるような浴槽用手すりなどの福祉用具です。この記事では、浴槽用手すりを中心とした、浴槽の高さを解消したい時に利用できる福祉用具について紹介しています。その他の解決方法についても説明していますので、ぜひ参考にしてください。

浴槽用手すりとは

浴槽用の手すりはどんな人に向いているか

まずは、浴槽用手すりの基礎知識についてみていきましょう。

浴槽用手すりの役割と対象者

浴槽用手すりは、浴槽の縁にはさんで使用する福祉用具です。足腰が弱くなった方、膝や腰に痛みがある方、賃貸住宅にお住まいのため工事で手すりを設置できない方などに使われています。

浴槽の縁を挟んで固定しているものなので、大きく体重をかけると手すりが外れたりずれたりする危険性があります。そのため、浴室用手すりは、立位の保持はできるものの、浴槽をまたぐ時にバランスを保つサポートが必要な方に使われています。

浴槽用手すりの注意点

浴室用手すりは、浴槽の厚みや素材によっては取り付けられないことがあります。また、取り付け場所によっては、介助をする際に邪魔になることがあります。浴槽の出入りの動きや、介助の仕方を考慮して、設置場所を決めるようにしましょう。

購入には介護保険が適用されます

福祉用具によっては、介護保険の福祉用具貸与が適用されてレンタルできるものがありますが、浴槽用手すりはレンタルの対象外です。

浴槽用手すりは、数千円から2万円程度で購入でき、購入する際には特定福祉用具として介護保険が適用されます。特定福祉用具は、年間(4月から翌3月まで)で10万円までであれば、申請をすれば原則1割(一定の所得以上の方は2割または3割)の自己負担で購入可能です。

いったん全額を支払ってから申請をして給付を受ける「償還払い(しょうかんばらい)」となります。対象とはならない製品や店舗で購入すると、介護保険が適用されなくなってしまうので注意しましょう。詳細は、ケアマネジャーや地域包括支援センターにご確認ください。

浴槽の出入りを助ける福祉用具とは

入浴を助ける福祉用具

浴槽の高さを解消して浴槽の出入りを助ける福祉用具には、浴槽用手すりの他に次のようなものがあります。

工事を伴う手すり

立位が保持できる方、手すりがあれば体重を支えて浴槽をまたげる方が使用するものです。立った状態で浴槽をまたぐ際には、浴槽のふちの位置に垂直に取りつける手すりがあると便利です。

浴槽台(バススツール)

浴槽台は、浴槽が深い場合などに浴槽への出入りのための踏み台として使われる福祉用具です。浴槽内のイスとしても使用できます。踏み台として使う場合には、慣れるまでには滑ったり転倒したりするのではないか恐怖心を感じる方も少なくはありません。必要に応じて浴槽用手すりと併用して使用すると良いでしょう。

バスボード

立位の保持が難しい方が使用する福祉用具です。浴槽の両縁に渡しておき、浴槽に入る際にいったん腰を掛けて座った姿勢で浴槽に出入りします。浴槽用手すりがあると、またぐ際に邪魔になってしまうことがあるので、併用することはあまりありません。

浴槽内すのこ

浴槽内に敷き詰めて、深さを調整する福祉用具です。洗い場に敷き詰めて浴室の出入り口や洗い場と浴槽の高さを調節する浴室内すのこもあります。いずれも必要に応じて浴槽用手すりと併用して使用すると良いでしょう。

入浴介助ベルト

要介護者の腰に装着する握りのついたベルトです。浴室内での移動や浴室の出入りなどの際に、介助者がベルトの握りを握って動作を介助します。立位の保持やバランスを取ることが困難な方を介助するためのものです。浴室用手すりがあると、介助の妨げになることがあります。

入浴用リフト

立位や座位の保持が困難な方で、ひとりの介助では入浴が難しい方が使用する福祉用具です。シートまたはイス上の吊り具に座り、床や壁に固定された支柱を軸に回転して浴槽に移動します。浴室用手すりがあると、介助の妨げになるでしょう。

その他の解決方法

入浴介助の悩みを解決する方法

最後に、福祉用具の利用の他にはどんな解決方法があるのかを確認していきましょう。

デイサービスを利用する

福祉用具を使うと浴室が狭くなってしまう、体調が不安定など他にも不安があるため介護職に入浴介助をして欲しいといったケースであれば、デイサービスで入ってもらうようにすると良いでしょう。デイサービスのお風呂は、高齢者でも入りやすい仕様になっています。

住宅改修をする

福祉用具を使用する以外の方法では、住宅改修をするという選択肢があります。介護のためのリフォームには、20万円までを対象に介護保険が適用されます。特定福祉用具を購入する際と同様に、いったん全額を支払い、申請をして9割(一定以上の所得がある方は8割または7割)が返還されます。

浴槽の深さを解決するリフォームとしては、工事を伴う手すりの設置、浴槽を浅いものに交換、洗い場の床のかさ上げ、床のかさ上げに伴う浴槽水栓などの位置の変更などがあります。ただし、支給限度額である20万円以内に抑えるのは難しいかもしれません。まずはケアマネジャーにご相談ください。

「浴槽が深い」という困り事は福祉用具で解決できるかもしれません

浴槽が深くて入浴をしたくてもできない場合には、福祉用具で解決できるかもしれません。立位が保持できる方で、体重を支える手すりがあれば浴槽をまたぐことができるのであれば、浴槽用手すりと浴槽台を併用するのがおすすめです。

他にも、浴槽内すのこや浴室内すのこ、バスボードなど、利用する人の状態や浴室の環境に合った福祉用具をケアマネジャーや福祉用具の専門家とよく話し合って決めるようにしましょう。

入浴にかかわる福祉用具を購入する場合には、一度全額を支払う必要がありますが、申請により介護保険から9割(一定以上の収入がある方は8割または7割)が戻ってきます。詳しくは、購入前にケアマネジャーや地域包括支援センターなどにご相談ください。

※この記事は2022年3月時点の情報で作成されています。

ケアマネジャー:森裕司(株式会社HOPE)
ケアマネジャー  森 裕司(もり ゆうじ)

【経歴】 1982年生まれ。
医療福祉系学校を卒業後、約11年医療ソーシャルワーカーとして医療機関に勤務。
その後、一生を通じた支援をしたいと思い、介護支援専門員(ケアマネジャー)へ転身。
2017年1月 株式会社HOPE 設立
2017年3月 ほーぷ相談支援センター川越 開設
代表取締役と共に、介護支援専門員(ケアマネジャー)として、埼玉県川越市で高齢者の相談支援を行っている。
他に、医療機関で、退院支援に関するアドバイザーと職員の指導・教育にあたっている。
医療・介護に関する新規事業・コンテンツ開発のミーティングパートナーとしても活動。大学院卒(経営研究科)MBA取得している。

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