誤嚥性肺炎を繰り返す高齢の親。繰り返さないための注意点や予防方法を教えてください。

高齢者の誤嚥性肺炎で気を付けるポイントとは。

質問

質問者もうすぐ100歳になる父親ですが、飲みこみが悪くなり、誤嚥性肺炎を繰り返しています。体力が落ちてきていることもあり、高齢者の肺炎は急変するともいいますし、毎日とても心配です。終末期を意識する時期が近づいていますが、少しでも元気でいて欲しいと思っています。

誤嚥性肺炎を繰り返さないためにどんなことに気を付けたらいいのでしょうか。 今からでも胃ろうにした方が良いのでしょうか? いろいろとわからないことがあり、悩んでいます。

 

専門家誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)は、高齢者が引き起こしやすい肺炎です。誤嚥により食物や唾液が気管に入り、肺に炎症が起こって発症します。繰り返しやすいという点も特徴です。

この記事では、誤嚥性肺炎に早く気づくために知っておきたい誤嚥の症状、そして繰り返さないために気を付けたい予防ポイント、終末期の治療についてご紹介します。現在や今後の生活の参考にしてください。

 

誤嚥性肺炎とは

食事でむせる高齢者のイラスト

誤嚥性肺炎とはどのような肺炎なのか、まずは基礎知識を知っておきましょう。

誤嚥によって起こる肺炎

誤嚥性肺炎とは、誤嚥によって起こる肺炎のことです。誤嚥とは、正常な状態なら食道の中に流れ込む飲食物や唾液などが、誤って気管内に入り込んでしまうことを指します。

嚥下状態の解説

口の中には目に見えない多くの雑菌が潜んでいます。飲食物や唾液を誤嚥することで、肺に雑菌が入りこみ、炎症を引き起こして誤嚥性肺炎になるリスクが高くなるのです。 誤嚥性肺炎は繰り返しやすいのが特徴です。

2020年の死亡者数を死因別に見た場合、誤嚥性肺炎は全体の6位となりました。

2020年の死亡者死因内訳のグラフ

(画像引用元:厚生労働省「令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況」

わずかな誤嚥が誤嚥性肺炎を引き起こし、重篤な症状につながってしまうことがあるため、周囲の人が注意をする必要があります。

誤嚥性肺炎を起こしやすい方

誤嚥性肺炎を起こしやすいのは、飲みこみが弱くなった高齢者、脳梗塞の後遺症やパーキンソン病といった神経疾患のある方、寝たきりの方などです。

さらに、口腔環境が悪く口の中に菌が多く繁殖している方、胃液など胃の中のものが逆流しやすい方も注意が必要です。

こんな症状に要注意

身体症状を感じる高齢者のイメージ

誤嚥性肺炎に早く気づき、治療に繋げるために知っておきたい症状をみてみましょう。

誤嚥性肺炎のサイン

誤嚥性肺炎などの肺炎の典型的な症状は、「激しいせきこみ」「濃い痰が出る」「高熱が出る」「呼吸が苦しい」などです。しかし、高齢者の場合には、こうした典型的な症状が出にくいことが多くあります。

高齢者の場合には、次のような症状に注意しましょう。

  • 何となく元気がない
  • 食欲の低下
  • 食事の時間が長い
  • 食後に疲れている
  • ボーっとしていることが多い
  • 失禁など

普段とは違う様子がみられたら、それは肺炎によるものかもしれません。発熱やせきなどは出ていないか、痰に変化はないかなどを観察し、かかりつけ医に相談しましょう。

不顕性誤嚥に注意

不顕性誤嚥とは、寝ている間に唾液などが気管に入りこんで起こる誤嚥です。寝ている間に胃から逆流してきたものが気管に入って起こることもあります。

食事中ではなく、誤嚥する量も少ないので、本人や周りの人も気づきません。しかし、誤嚥によって少しずつ入り込んだ細菌により、気管や肺に慢性的な炎症を引き起こしてしまいます。

誤嚥性肺炎を予防するポイント

誤嚥性肺炎の予防に向けて

続いて、誤嚥性肺炎を予防するためのポイントについてみていきましょう。

嚥下障害のサインを見逃さないで

嚥下障害とは、嚥下機能(えんげ機能:飲みこむ機能)が低下して、飲食物や唾液が口の中に溜まったり、誤嚥したりしてしまう症状のことです。誤嚥性肺炎を引き起こす原因となります。

誤嚥を予防するためにも、4つの嚥下障害のサインは見逃さないようにしましょう。

  • 食事中にむせ込む
  • 食事時間が長くなる
  • 食事量が減る
  • 食べ終わってしばらくしても、口の中に食べ物が残っている

嚥下障害のサインに気づいたら、かかりつけ医にご相談ください。

飲みこむ力に合わせた食事を

具材は一口大でいいのか刻んだほうがいいのか、ご飯はどの程度柔らかくしたほうがいいのか、飲み物のとろみはどれくらい付けたほうがいいのか…など、誤嚥を防ぐために、その人に合わせた食事の形状や粘性などを調節しましょう。

飲みこみやすい工夫をした食事を、嚥下食と呼びます。介護者の方が手軽に作ることができる嚥下食のレシピ、市販されているレトルトや冷凍食品については、以下の記事を参考にしてください。

嚥下食とは? - 介護の専門家に無料で相談「安心介護」介護の基礎知識

 

嚥下体操・嚥下トレーニングを

誤嚥予防には、食べ物を噛んで飲みこむのに必要な筋肉を動かす「嚥下体操」を、食事の前に行うのがおすすめです。

やってみよう!嚥下体操 - 介護の専門家に無料で相談「安心介護」介護の基礎知識

嚥下機能は、リハビリテーションで維持や改善が目指せます。ケアマネジャーやかかりつけ医に相談して、訪問リハビリや通所リハ(デイケア)でリハビリ専門職から嚥下リハビリを受けたり、自宅でできる嚥下トレーニングを実践してみたりすると良いでしょう。

食事は正しい姿勢で

食事中の姿勢を整えることで、誤嚥を予防することができます。背筋をまっすぐ伸ばして、クッションなどで身体の傾きを正し、やや顎を引いた姿勢で食事をとりましょう。顎が上を向いてしまうと、食べ物が気管に入りやすくなります。

嚥下障害の食事方法|介護者の注意点 - 介護の専門家に無料で相談「安心介護」介護の基礎知識

また、食事中はテレビや会話を避け、食事に集中できる環境を作りましょう。

リスクを下げるために口腔ケアを

口の中には目に見えない菌がたくさん生息しています。すべてを無くすことは不可能ですが、口腔ケアで飲食物や唾液と共に飲みこむ細菌を減らすことで、誤嚥性肺炎のリスクを下げることができます。

特に睡眠中に唾液を誤嚥してしまう方には、寝る前の口腔ケアが大切です。

毎食後のケアの他に、定期的に歯科医や歯科衛生士にクリーニングをしてもらうのもおススメです。

終末期の誤嚥性肺炎

高齢者の介護食のイメージ



一般的な細菌性肺炎は、抗菌薬の投与によって治療が可能です。しかし、老衰の過程にある終末期の誤嚥性肺炎では、人工呼吸器などを用いた全身管理や強力な抗菌薬の投与を行っても、死が避けられない、あるいはわずかに延命できる程度ということがあります。そんな終末期の誤嚥性肺炎について、知っておきたい情報を紹介します。

終末期とは

がん患者などにとっての終末期とは、症状が進行して余命が半年または半年以内と考えられる時期のことです。老衰の過程にある高齢者にとっては、病状が不可逆的かつ進行性で、最善の治療によっても症状の好転や進行阻止の期待ができず、近い将来の死が避けられない状態になった時期のことを指します。

複数の医師が終末期だと診断すると、抗菌薬や人工呼吸器などを用いた積極的な治療ではなく、肺炎の不快や苦痛を取り除く緩和的な治療を提案されることがあります。

胃ろうについて

誤嚥性肺炎を繰り返す方に、選択肢として提案されるのが胃ろうです。胃ろうとは、胃にあけた孔(あな)のことで、そこにチューブを通して、栄養を直接胃に送り込みます。

胃ろうは、病気や誤嚥、食欲の低下により食事から必要な栄養が摂取できず、栄養を取って体力を回復し、治療やリハビリの効果が期待できる方に提案されます。体力をしっかりつけて嚥下リハビリをすることで、再び口から食事ができるようになることもあります。

終末期を意識し始めた家族や本にとって、胃ろうをするかどうかの決断は難しいものです。メリットやデメリットなど、決断をする際に知っておきたい情報の詳細は、以下の記事を参考にしてください。

医師から、親の胃ろうをすすめられていますが、食事の楽しみを奪ってしまうようで迷っています。メリットやデメリット、手術の流れ、胃ろう後の生活について教えてください。 - 介護の専門家に無料で相談「安心介護」介護の基礎知識

早いうちから本人の希望を確認しましょう

積極的な治療を継続する、胃ろうにする…などについて、本人が意思を示せない状態の時には家族が代わりに決断しなくてはいけません。

あとで後悔しないためにも、早いうちから終末期の迎え方や胃ろうなどについての本人の考えを確認しておきましょう。なかなか話題にしづらいのであれば、エンディングノートを書いてもらうのがおすすめです。

まとめ

誤嚥性肺炎とは、飲食物や唾液が気管に入ることで起こる肺炎です。嚥下機能が低下した高齢者に起こりやすい肺炎で、繰り返すことも少なくはありません。2020年の死亡者数を死因別に見た場合、誤嚥性肺炎は全体の6位となりました。

高齢者の場合、一般的な肺炎の症状が出にくいため、「何となく元気がない」「食欲の低下」などの変化に周囲の人が気づき、診察を受けることが大切です。また、誤嚥を起こさないためには、嚥下体操や嚥下トレーニング、食事中の姿勢、食事の形態、口腔ケアなど、やっておいた方が良いことや気を付けたいことがたくさんあります。家族だけで気を付けるのは大変です。ケアマネジャーやかかりつけ医に相談をしてリハビリを受けたり、市販の嚥下食などを活用したりしながら、予防を継続できると良いですね。

誤嚥性肺炎を繰り返すとすすめられることが多いのが胃ろうです。また、終末期になると積極的な治療ではなく、肺炎の苦痛をとり除く緩和的な治療を提案されることもあります。後悔のない判断をするためにも、早いうちから本人の希望や考え方を確認しておくようにしましょう。

医師:谷山由華
監修者:谷山 由華(たにやま ゆか)

医師:谷山 由華(たにやま ゆか)

【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤

内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている