経口摂取とは口から食べ物を摂取することです。食事は高齢者にとって大切な楽しみの1つですが、食べ物を噛み砕いて飲みこむ力が弱くなると、安全に口からの食事ができなくなることがあります。この記事では経口摂取の意義や継続するポイントなどをまとめています。ぜひご確認ください。
経口摂取とは
食べ物を口から入れて噛み砕き(咀嚼)、飲みこみやすい形状にして飲みこむという、いわゆる一般的な食事によって栄養を摂ることを、医学的な言葉では「経口摂取」といいます。
若くて健康な方の多くは、口から食べることを当たり前と思っているかもしれません。しかし病気や嚥下障害などにより口からの食事が困難になり、「経管栄養法」や「点滴」といった方法で栄養を摂らざるを得ない人もいるのです。
経口摂取の意義
食事の目的は、十分な栄養をとって生命を維持することだけではありません。
口から食事をとることによって、摂食嚥下機能(食物を口の中に入れて飲みこむ機能)だけではなく、唾液の分泌や発語などの口腔機能、食器を扱うなど生活動作を維持することができます。 また、目で見て、香りをかいで、舌で味わうことで感覚が刺激されますし、誰かと一緒に食事をすればそこにコミュニケーションが生まれます。
口から食事をとることは、QOL(生活の質)に大きくかかわる行為です。
経口摂取が難しくなると
咀嚼嚥下機能が低下すると、誤嚥(ごえん)を起こすことがあります。 誤嚥とは、飲みこんだ飲食物が食道に入らず気管に入ってしまうことです。誤嚥によって細菌が肺に入ってしまうことで、誤嚥性肺炎を引き起こしてしまいます。
誤嚥を繰り返してしまったり、何らかの事情によって口から食べ物を摂取できなくなったりした場合は、鼻または胃や腸にチューブを通して栄養を補給する経管栄養を行うことがあります。もしくは、心臓近くの血管を利用して点滴で栄養を補給することもあります。
- 鼻から胃にチューブを通す「経鼻栄養補給」
- 腹壁から腸や胃にチューブを通す「胃ろう」や「腸ろう」
- 心臓近くの血管から点滴で栄養補給する「中心静脈栄養」
経口摂取のメリットとデメリット
経口摂取のメリット
- 食事で使う動作や機能を維持できる
- 知覚や感覚が刺激され、脳の活性化につながる
- 唾液が分泌され口腔内の自浄作用が働き、免疫力も向上する
- 食べるという行為が楽しみや癒しにつながる
経口摂取のデメリット
- 嚥下機能が低下している場合、気管に食べ物が入る誤嚥(ごえん)を起こす可能性がある
- 食事に必要な機能が衰えたことにより食べるのが面倒になり、低栄養に陥ることがある
食事中の注意点
食事の楽しみを長く味わってもらうためにも、誤嚥の予防が大切です。食事中には次の点に注意してください。
ゆっくりと噛む習慣を
ゆっくりと噛んで飲みこむことを意識してもらいましょう。テレビなどは消しておき、噛むことに集中できる環境をつくってください。忙しいとついせかしてしまうので、家族がゆとりを持つことも大切です。
また、一度にたくさんの量を口に入れると、誤嚥を起こしやすくなります。次々に口の中に食べ物を入れてほおばってしまうようであれば、「ゆっくり食べてね」「一口ずつ食べてね」など、声をかけてください。食事の介助をしている場合には、1回に飲みこめる量ずつ口に運ぶようにしましょう。
しっかりと覚醒している状態で食べる
食事を始める前にコミュニケーションを取り、しっかりと目覚めていることを確認しておく必要があります。普段と違う様子や眠そうな様子、発熱などの不調がないかをしっかりと確認しておきましょう。
正しい姿勢を取る
正しい姿勢を取ることで、誤嚥を予防することができます。
ムセや咳に注意する
ムセや咳は、異物の侵入から気道を守るために出るものです。食べるのに疲れてくるとムセや咳が出やすくなります。何分以上食事にかかるとムセや咳が出るようになるのかを観察しておくといいでしょう。
状態によっては、食事の後半に飲みこやすいものを持ってきたり、1食の量を減らして食事の回数を増やしたりといった対策を取る必要があります。
楽しく食べる
「おいしいね」「きれいだね」と声をかけたり、好みの食事や懐かしい食べ物、季節の食べ物を用意したりと楽しく食べる工夫も大切です。
経口摂取を続けるためのポイント
口腔ケア
口腔内の環境が悪くなると、虫歯や歯周病など様々な口腔トラブルが生じてしまいます。また、舌にあるコケ状の舌苔(ぜったい)が厚くなると、味覚を感じにくくなってしまうので合わせてケアをしていきましょう。
また、口の中の細菌が増えると、食べ物や唾液を誤嚥した時に細菌が一緒に肺に入り、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが高まります。
食べる力をアップするリハビリテーション
咀嚼する力や飲みこむ力の向上を目指す練習や誤嚥した時に異物を出せるように咳をする練習、舌の筋肉を鍛える練習など、食事に関するリハビリテーションの中には、家でもできるものもたくさんあります。
無理のない範囲で暮らしの中に取り入れてみてはいかがでしょうか。
また、こうした食事に関するリハビリテーションは、言語聴覚士(ST)が専門とする分野です。訪問リハビリやデイケアなどで、言語聴覚士(ST)によるリハビリを受けてみてもいいでしょう。
適切な食事の形態を選ぶ
噛む力が弱くなったからといって必要以上に柔らかいものを食べていては、余計に噛む機能が低下してしまいます。
少し柔らかくすれば大丈夫なのか、一口大に切ればいいのかそれとも刻んだ方がいいのかなど、その人の噛む力に合わせた食事を選ぶことが大切です。また、サラサラしたものや口の中でバラバラになる細かいものには、トロミをつけるなどの工夫も必要になります。食事の形態については、言語聴覚士(ST)や栄養士、ケアマネジャーなどに相談をしてみてください。
家族の食事とは別に介護食の調理をするのは、時間や手間がかかって大変です。必要に応じて、食事宅配サービス(宅食・配食サービス)や市販品を活用するといいでしょう。
経管栄養から経口摂取へ戻すには?
胃ろうや腸ろうになったからといって、諦める必要はありません。経管栄養から経口摂取に戻ったという人も少なくないのです。特に術後や病状の悪化で一時的に経管栄養になった人は、経口摂取に戻りやすい傾向があります。
次のポイントを参考に、経口摂取を目指してください。
専門家によるリハビリテーションを行う
経管栄養の方が口から食事をする機能を取り戻すには、専門家によるリハビリテーションが欠かせません。
言語聴覚士(ST)によるリハビリテーションだけではなく、歯科医師や看護師、作業療法士の指導のもとで嚥下訓練を行い、経口摂取に戻ったという声も安心介護内には投稿されています。
まずは本人や家族の「口からの食事に戻りたい」という意思をケアマネジャーに伝え、必要なサービスの相談をしましょう。
口腔ケアを行う
経管栄養を行っている間も口腔内を清潔に保ちましょう。誤嚥性肺炎の予防だけではなく、経口摂取に戻った時に味をしっかりと感じられる状態に保つ目的もあります。
専門家の指示に従う
経口摂取へ移行する場合、「本当に経口摂取が可能か」をきちんと見極めなければなりません。食事中に姿勢を保てるか、咳払いができるか、本人が希望しているかなどをチェックしたうえで、口から食事をとり始めます。
専門家の指示に従い、嚥下の状態を確認しながら徐々に経口摂取へ移行していきましょう。
まとめ
食事は栄養が摂れればいいというわけではありません。目や鼻や舌を使って食事を味わうことは、高齢者の生活の質(QOL)の向上のためにも欠かせません。しかし、嚥下機能が低下すると誤嚥を起こしやすくなり、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。口からの食事を続けるためには、食べるスピードや姿勢などに気を付けて誤嚥を予防することが大切です。あわせて咀嚼嚥下機能の訓練や口腔ケアを続けていきましょう。
経口摂取が難しくなると、経管栄養や点滴で栄養補給をするようになりますが、栄養状態が改善されてリハビリを行うことで、口からの食事に戻すことは可能です。専門家と連携を取りながら、無理なく経口摂取の維持や復帰を目指してください。

医師:谷山 由華(たにやま ゆか)
【経歴】
・防衛医科大学校医学部医学科卒業
・2000年から2017年まで航空自衛隊医官として勤務
・2017年から2019年まで内科クリニック勤務
・2019年から内科クリニックに非常勤として勤務、AGA専門クリニック常勤
内科クリニックでは訪問診療を担当。内科全般、老年医療、在宅医療に携わっている