93歳でひとり暮らしをしている義母ですが、久しぶりに家に行くと数種類の栄養補助食品を定期購入していました。人の良さもあり、勧誘されるまま契約してしまったようです。私が説明するまで、毎月届くような契約だとは把握はしていませんでした。すべて解約し、これからは人に勧められても、「娘に怒られるから」と言うように伝えました。また、最近では公共料金の支払いなどが期日までにできないことが増えてきています。
本人もこのまま一人で暮らしたいと話しており、私たちも希望を聞いてあげたいのですが、これからもっと金額の大きいものを契約してしまうのではないかと心配です。本意ではない契約の取り消しや人に大きなお金を渡してしまわないように通帳などの管理、そして定期的な支払いの管理をお願いできる制度として、成年後見制度の利用を考えています。
認知症の診断は出ていないのですが、判断力は低下しています。このような状態でも、成年後見制度を利用することはできますか? 他に受けられる支援はありますか?
人の良い義母さんが、複数の栄養補助食品を定期購入していたとのこと。定期的な支払いができなくなっていることも含めて、心配する気持ちがよくわかります。
質問にある成年後見制度ですが、3つの種類があり、判断能力に応じてどれに該当するのかが判断されます。成年後見制度とは別に、日常生活自立支援事業というものがあり、判断能力が下がっていても事業の契約が理解できる方を対象としています。ずれも認知症や知的障害、精神障害などにより、判断能力が低下した人を対象としたサービスですが、いずれも認知症の診断や障害手帳の有無が利用基準にはなっていません。
この記事では、2つのサービス内容と違いを中心にどのように判断能力が確認されるのかを説明します。現在や今後の生活の参考にしてください。
成年後見制度とは
まずは、成年後見制度とはどのようなサービスなのかをみていきましょう。
成年後見制度の内容
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などの理由で、判断能力が十分ではなくなった方を守るための制度です。
後見人には、次のようなことをお願いすることができます。
【財産管理】
・定期的な収入や支出、預貯金や現金の管理
・不動産の管理や処分、介護のための住宅改修手続き
・賃貸借契約の締結や解除 など
【身上監護】
・要介護認定の申請や介護に関する契約の締結
・病院での治療や入院に関する手続き
・十分な判断ができずに契約してしまったものの取り消し
・住居の確保、介護施設への入居や退去に関する契約
・見守り など
【関連する管理行為】
・郵便物の管理
・運転免許証やマイナンバーカードなどの重要書類の管理 など
後見人が監護権をもつ親族でない限り、介護などの事実行為を行うこと、医療行為について本人の代わりに承諾をすることはできません。
また、代理人が本人に代わって行うことが禁止されている、養子縁組、婚姻届や離婚届の提出、子の認知などもできません。他にも、本人の代わりに遺言書を書いたり、購入した日用品の取り消しをしたりもできません。
成年後見制度の種類と利用対象者
成年後見制度では、本人の判断能力の度合いによって、「補助」、「保佐」、「成年後見」の3つに分かれており、認知症の症状が軽度、中度、重度によって異なります。どれに当てはまるかを判断するのは家庭裁判所です。
①補助
判断能力が不十分な状態の方が対象です。軽度の認知症症状があり、時々家事を失敗してしまう、支援を受けなければ契約などの意味や内容を理解して判断することが難しい場合があります。
②保佐
判断能力が著しく不十分な状態の方が対象です。中程度の認知症症状があり、日常生活に支障が出てきている事があります。買い物で支払った金額が分からない、支援を受けなければ契約などの意味や内容を理解して判断することができません。
③後見
判断能力が全くない状態の方が対象です。重度の認知症症状があり、支援を受けても契約などの意味や内容を理解して判断することができません。重度のもの忘れがあり、家族が誰だか分からない、または寝たきりの状態です。
また、成年後見人などに与えられる権限や資格などの制限も、種類によって異なります。
(注釈)
※1:民法13条1項に掲げられている借金、訴訟行為、相続の承諾や放棄、新築や増改築などの事項をいいます。ただし、日用品の購入など日常生活に関する行為は除かれます。
※2:本人が特定の行為を行う際に、その内容が本人に不利益でないか検討して、問題が無い場合に同意(了承)する権限です。保佐人、補助人はこの同意がない本人の行為を取り消すことができます。
成年後見制度の相談先
成年後見制度について詳しく知りたい、申し立ての手続きが知りたい、後見人を探しているなど、相談したいことがある場合の相談先はいくつかあります。
専門家である弁護士や司法書士などのほか、地方自治体の中には成年後見支援センターや権利擁護センターなどの相談窓口を設置しているところもあるので問い合わせてみてはいかがでしょうか。
また、地域包括支援センターでも、成年後見制度の利用に関する判断、成年後見制度の申し立て支援、成年後見に関する情報提供などをしています。
日常生活自立支援事業とは
福祉サービスの受け方がわからなかったり、お金の管理に不安があったりする高齢者のためのサービスには、日常生活自立支援事業というものがあります。以前は地域福祉権利擁護事業と呼ばれていました。自治体によっては、わかりやすさから以前の名称を使っているところもあります。
成年後見制度に引き続き、日常生活自立支援事業の内容を見てみましょう。
日常生活自立支援事業の内容
日常生活自立支援事業は、認知症や知的障害、精神障害などの理由で、判断能力が十分ではなくなった方が自立した生活を送れるよう、必要なサービスを行うものです。社会福祉協議会が運営しています。
援助の内容は、大きく以下の3つに分けることが出来ます。
【福祉サービスの情報提供や利用のお手伝い】
福祉サービスについての情報提供やアドバイス、福祉サービスに関する手続きの支援、料金の支払い、苦情解決制度を利用する手続きの支援
【日常的な生活支援サービス】
年金や生活保護などを受けるのに必要な手続きや、福祉サービスの利用料や公共料金、定期的な支出などを支払う手続き、それに伴う預金の払い戻しや預け入れなどの手続き
【書類などの預かりサービス】
年金証書、定期預金通帳、実印などの重要な書類などを銀行貸金庫で預かり
日常生活自立援助事業を契約すると、相談や支援計画の作成や見直しは無料ですが、生活支援員の訪問1回当たりの利用料(目安:1000円~3000円/回)がかかります。金額は都道府県によって異なります。生活保護受給者は、助成により無料です。書類などを預ける場合には、貸金庫料金(目安:1000円/1ヵ月、3000円/年間など)がかかります。
日常生活支援事業の利用対象者
認知症や知的障害、精神障害のある方で、判断能力が不十分なため、本人だけでは必要なサービスの利用、意思表示を適切に行うことが困難な方が対象です。ただし、事業の契約内容を判断できると認められる必要があります。
障害者手帳や認知症の診断などの有無は問われません。また病院に入院していたり、福祉施設に入所していたりする場合でも利用は可能です。
日常生活自立支援事業の相談先
日常生活自立支援事業については、利用者される方がお住まいの地域にある社会福祉協議会にご相談ください。
成年後見制度と日常生活支援事業の違い
続いて、成年後見制度と日常生活支援事業の違いについて説明します。
対象者の違い
いずれも認知症、知的障害、精神障害などの理由により、判断能力が不十分な方が対象です。
成年後見制度については、判断能力によって3つの種類に分かれます。判断能力が全くない方も利用できます。
日常生活自立支援事業については、判断能力は不十分だが、事業の契約内容について判断する能力がある方が対象です。判断能力が全くない方は対象ではありませんが、成年後見制度を利用している方であれば、後見人が事業に契約する形で利用が可能です。
サービス内容の違い
サービス内容には、次のような違いがあります。
支援内容 |
成年後見制度 |
日常生活自立支援制度 |
福祉サービスの利用援助 |
〇 |
手続き支援 |
病院に入院する契約 |
〇 |
手続き支援 |
施設の入退所に関する契約 |
〇 |
手続き支援 |
日常生活の金銭管理 |
〇 |
〇 |
年金や生活保護の |
〇 |
〇 |
通帳や実印など 重要書類の保管 |
〇 |
〇 |
不動産の管理や処分 |
〇 |
× |
消費者被害の取り消し |
〇 |
手続き支援 |
費用の違い
いずれも費用は本人負担となりますが、生活保護を受給している方は、公費による補助があるため日常生活自立支援制度を無料で利用できます(重要書類の保管には利用料がかかります)。
成年後見制度でかかる基本利用料の目安は月額2万円程度です。家庭裁判所が費用を決定します。
サービス提供までにかかる期間の違い
成年後見制度は、申し立てから後見人などが選任されるまでに、およそ1~2ヵ月ほどかかります。日常生活自立支援事業については、初回に相談してから契約を締結するまでに、3~6ヵ月ほどかかります。
どちらを利用するべきか
.
判断能力が全くない方や日常生活自立支援事業ではカバーされない範囲のサービスをお願いしたい方は、成年後見制度を利用すると良いでしょう。
判断能力が比較的保てている方で、事業の支援を受けながら自立した生活を送りたい方、費用をできるだけ抑えたい方は、日常生活自立支援事業を利用すると良いでしょう。
認知症の診断がなくても利用は可能か
続いて、質問にもあった認知症の診断が無くてもサービスが利用できるかどうかについてみてみましょう。
判断能力の確認方法
成年後見制度も日常生活自立支援事業も、認知症や知的障害、精神障害などの理由により判断能力が不十分な方が利用する制度です。
それぞれ、次のような方法で確認されます。
成年後見制度の場合
医師の診断書を家庭裁判所に提出します。必要に応じて、鑑定が実施されることもあります。
診断書には、診断名や所見に加えて、長谷川式認知症スケールやMMSE、知能検査などの各種検査の結果、脳の萎縮の有無、短期間内に回復する可能性の有無などが記載されます。
さらに、医師の判断能力についての意見が記載され、医師が「契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができる」とした場合には、認知症の診断の有無にかかわらず、成年後見制度を利用することはできません。
厚生労働省の「成年後見制度における診断書作成の手引」では、かかりつけ医以外が診断書を作成する場合について、「おおむね1ヵ月程度の期間、2~3回程度の診察で作成することが可能かご検討ください」としています。
日常生活自立支援事業の場合
「契約締結判定ガイドライン」により、訪問による説明や契約意思の確認、見当識の確認や援助の必要性に関する認識、契約内容の理解などが確認されます。
1週間後に再訪問し、記憶や意志の持続、契約意志などが確認されます。また、本人の同意の上で、専門家への意見も聴収されたうえで、利用対象者かどうかが判断されます。判断が困難な場合には、社会福祉協議会に設置されている契約締結審査会で審査されます。
認知症の診断の有無や障害手帳の有無は問われません。
まとめ
認知症などにより判断能力が低下した方が利用できる、成年後見制度と日常生活支援事業について解説してきました。
どちらも認知症の診断や障害手帳の有無が、判断の基準にはなっていません。ただし、成年後見制度に関しては、認知症の診断が無いと対象外と判断されるかもしれません。詳細は、地域包括支援センターや成年後見支援センター(権利擁護センターなど)の相談窓口、法テラスにてご相談ください。
利用を希望する方の判断能力の程度やお願いしたいサービス内容、利用費用などの違いを説明してきました。この記事の内容を参考に、どちらのサービスが適しているのかを判断していただけたらと思います。

【経歴】
1982年生まれ。
医療福祉系学校を卒業後、約11年医療ソーシャルワーカーとして医療機関に勤務。
その後、一生を通じた支援をしたいと思い、介護支援専門員(ケアマネジャー)へ転身。
2017年1月 株式会社HOPE 設立
2017年3月 ほーぷ相談支援センター川越 開設
代表取締役と共に、介護支援専門員(ケアマネジャー)として、埼玉県川越市で高齢者の相談支援を行っている。
他に、医療機関で、退院支援に関するアドバイザーと職員の指導・教育にあたっている。
医療・介護に関する新規事業・コンテンツ開発のミーティングパートナーとしても活動。大学院卒(経営研究科)MBA取得している。
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